図書館

 

 

 

 

バターンッ

「こぉんばーんわ〜!」

大きな音を立てて高橋家の玄関扉が開かれる。

カチャ

…お前もう少し静かに入って来れねぇの?」

リビングの扉からは啓介がひょっこりと顔を出す。

「何よ〜、啓介だってやっかましいでしょーが」

言いながら靴を脱ぎ、啓介を押し退けてリビングへと入って行く。

「俺はやかましーんじゃなくて明るいんだよ」
「はいはい」

バッグをソファに、車のキーをテーブルに投げ出してくつろぐ。
啓介も溜息を吐きつつソファへ落ち着く。

「この間のバトル見たよ〜」

はニヤニヤと笑いながら言った。
先週の秋名でのハチロク戦の事だろう。

「なっ、お前見に来てたのかよ!」
「見に行ったよ〜。友達の車でね」

暫くはこのネタでからかわれる事は間違いない。
そう思って項垂れる啓介。

「友達の車かよ…。気付かねぇワケだぜ」

啓介が の車に気付かないわけがない。
何故なら は黒いFC乗りだからだ。この車はある意味目立つ。

「それにしても、私はいつまでこうして毎週お邪魔しなきゃならないのかしらねぇ」

ズルズルとソファに沈み込む

の親父さん心配性だからなぁ。ずっとじゃねぇの?」

は涼介と啓介の従妹である。
実家は県外なのだが、就職の為に高崎市で一人暮らしをする事になった際に父親と約束したのだ。
週に一度は高橋家へ顔を出す、と。
の父親は極度の心配性らしい。

「面倒…」

苦い顔をする

「でも続けてるあたり偉いよなぁ。俺だったらとっくにやめてるぜ?」
「だろうね。ところで涼介は?」

姿の見えないもう一人の従兄の行方を尋ねる。

「ああ、部屋にいる」
「んじゃ、覗いてみるかな〜vv

そう言うとバッグから取り出した分厚い本を持ってリビングを出て行く。
足取りは非常に軽い。

「相変わらず…。アニキにベッタリだよなー

寂しそうに後ろ姿を見送る啓介だった。

 

 

 

バタンッ

またもや大きな音を立てて扉を開く

「りょーすけー」

言いながら机に向かっている涼介の背中に飛び付く。

。本が痛いんだが…」

二人の間にあるハードカバーの本が涼介の後頭部にゴリゴリと押し付けられている。
痛い筈だ。

「あ、ゴメーン」

てへ、と笑って誤魔化す。

「もう読んだのか?」

後頭部をさすりながら涼介は聞く。
が手にしていたのは先週貸した自動車工学の本だ。
1週間では読み終わりそうにないくらいに分厚い。

「うん、読んだ」

しかし読んでしまったらしい。
余程の読書家なのか、車好きなのか。

「まだ読みたい本があるなら適当に見繕って持って行っていいぞ」

パソコンのキーを打つ手を止めて背後の に体を向ける。
その顔には優しげな笑みが浮かんでいる。

「読みたい本なんてまっだまだたくさんあるよ〜。涼介よくこんなに集めたよねぇ」

本棚に向けられている瞳は輝いている。

「図書館で探してもたいした本ないんだもん。かと言って自分で買おうと思うと高くて手が出ないし。
私にとって此処が図書館なワケよ。もー大好きっ“涼介図書館”♪」
「そんなに知識蓄えてどうするつもりだ?」

しかも車だけだ。

「えー…別に知識を蓄えよう!って言うんじゃないんだけど。なんか、面白いじゃない?
好きな事調べたり知ったりするのって。もっと色々知りたいな〜とか思っただけなんだよね」

そうして得た知識が増えるに従って のFCも改良が加えられているとか…。

「啓介にも分けてやって欲しいくらいだな。その向学心」
「えー!啓介に分けちゃったら追い付けなくなるよっ。啓介って何も考えずに走ってあの速さでしょう!?」

本棚に向かっていた はガバッと振り返った。

は俺と同じ理論派の走り屋だからな」

涼介もその脅威は怖ろしい。いつかは追い越されるだろうとわかっていても。
その為 の反応には内心頷いてしまう。

「あ、でも一度だけ無心で走れた事あったっけ」

ふと思い出した様に呟く。

がか?」
「ちょっと前にね、秋名を通った時に凄く速い糸目のおじさんと走ったんだ。その時に」
「糸目のおじさん??」
「うん、ハチロクに乗ってたよ。昼間なのにかっ飛ばしててさー。面白そうだから追っかけてみた」

そこで急に考え込む

「そう言えば…この間啓介が負けたハチロクと同じだったかも。豆腐屋さんの名前入ってたヤツ」

それはそうだろう。親子なのだから。
は知り得ないが。

「藤原豆腐店、か?」
「そうそうソレ!あの男の子のお父さんなのかなぁ?
でね、食い付いて行くのが精一杯で考え事する余裕なかったの。いつもより速く走れたのは気付いたんだけど」

言い終わるとクルリと再び背を向けて本棚に向かい直る。

「そうか…。まぁいい経験だったな」

速い相手と走るのは にとって良い事だ。
走り始めて1年と経っていない はまだまだ成長途上。才能があるだけに良い勉強にもなった事だろう。

「うん、お陰で今凄く燃えてる!」
「その割りには赤城には顔を出さないな」

涼介にしてみれば自分の目の届く範囲にいてくれた方が安心なのだろう。

「行ってるよ?レッドサンズが帰った頃だけど」
「たまには一緒に走らないか? の走りも見てみたいしな」

ふわりと笑む。

「そうだねぇ。涼介が走ってくれるならね」

もニッコリと微笑む。

「さて、今日はこの2冊借りてくね。で、これは此処で読んでく」

返した物程ではないが結構な厚みのある2冊と薄めの1冊を涼介に見せる様に抱えている。

「ああ。急がなくていいんだからな」
「急いでないって。ちゃんとじっくり読んでるよ?」

可愛らしく首を傾げる。
涼介はそんな を見てまたも笑みを浮かべる。
それに対して も笑みを返すと、涼介のベッドに寝転んで本を開く。
それを確認した涼介も再び机に向き直ってキーを叩きだした。

 

 

 

本を捲る乾いた音とキーを叩く音だけが静かに響いていた室内。
ふと異変に気付いたのは涼介だった。
いつの間にか本を捲る音が止み、代わりに小さな息づかいが耳に届いている。
目線をパソコン画面からベッドへと移すと…。
の安らかな寝顔。
本を読んでいるうちに眠くなったのか、元々疲れていたのか。本人も気付かずに寝てしまったのだろう。
涼介はクスリと笑みをこぼすとベッドへ近寄る。
の頬に当たっていた固い本をよけると起こさぬ様にそっとタオルケットをかけてやった。

「図書館は寝る所じゃないぜ?目覚めた時の慌てぶりが見物だな」

起こすつもりなどないらしい涼介。
の耳元で「おやすみ」と優しく囁くと瞼に静かなキスを落とした。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

こ、これこそお題クリアしてないんじゃあ?(汗)
あぅ〜
普通に図書館行かせたお話で良かったのかなぁ?
でも涼介のベッドでおねむvvにしたかったんだよ〜
きっと涼介がかけてくれたタオルケットは涼介が普段使っている物vv
どぉーデスカ!?(何がよ)
何気に文太が美味しいvvとか思ってしまうのは涼風だけ?(笑)

−2003/3/3−