ふうせん

 

 

 

 

青く澄み切った空。真っ白い綿菓子の様な雲。
やわらかい風が頬を撫でる。
そんな気持ちの良い公園の小道。
サラサラのショートカットをなびかせて歩いている一人の女性、
勝ち気そうな瞳を何気なく小道に沿って植えられている木へと向けた。
目を向けた木には風船が引っ掛かっている。

「誰かが手を離したのかな」

周りを見渡してみるが持ち主らしい人物は見当たらない。
諦めてしまったのだろう。

「よし!」

活動的な は思い立つ。
それは勿論木に登って風船を取る事。
お転婆も度が過ぎると考え物である。
身軽な動きで難なく登って行く。
あっという間に風船が引っ掛かっている所へと辿り着いた。
枝に絡んでいた糸をほどくと自分の指に絡ませた。
ふわふわと漂う風船の向こうに広がる景色を呆然と眺め見る。

「こぉんな高いトコ滅多に登らないしな〜」

高層ビルの窓から見る景色とは違う気持ちよさだ。
同じ筈の風ですら地面に足をつけた状態で受けたものとは違う様に思えてくる。
暫しの間ボーっと眼下を見下ろし続ける
耳元の葉擦れの音がまた心地よい。
その心地よさに瞳を閉じる。
しかしすぐににハッとして瞳を見開く。
いつまでもここにいても仕方がない事に気付いたからだ。
降りようと下を覗き込んだ。
……………
高い。
高所というものは低い位置から見上げるより高い位置から見下ろした方が余計に高さを感じるもの。
風船が引っ掛かっていたのも結構高い場所だったのだ。
は知らず知らず随分高い所まで登っていたらしい。
…降りられない!

「こ、こんなに高かったっけ…」

は目が眩んでいる。
むーっと地面を睨み付け、降りる方法を思案する。
どこにどの様にして足をかけたのかすら記憶にはない。
登って来た時と逆の動きで降りるという方法は無理。

「こうなったら…飛び降りるか!?」

そんな事をしたら骨折します。

「ああー…どぉしよ〜」

木の幹にしがみついて頭を悩ませる

「そんなトコで何してんだ?」

不幸中の幸い、と言うべきだろうか。
下から声をかけられた。
見下ろすとそこには一人の男が木の上の を見上げている。

「あー…風船取ろうと思って登ったんだけど、降りられなくなっちゃった」

そう言って苦笑い。
男も呆れている様だ。

「あぅーお願い助けて〜」

もう泣き付くしかない。

「仕方ないな、受け止めるから飛び降りろ」

男は言うなり腕を広げる。

「えぇっ!?ちょっ、ヤダよ!怖いし、知らない男に抱きとめられるなんて冗談じゃないよ!」

は喚く。

「そう言われてもな…他に方法は思い付かない」

キッパリ断言してくれる男。
は恐怖心を煽られる一方だ。
既に日も傾き始めている。
人通りも殆どなくなっている。このままでは一人木の上に取り残される羽目になるだろう。

「…んじゃ、名前!」
「あ?」
「名前教えてっ。私は よ、アンタは?」

これで知らない人ではない。と言うワケではないが何も知らないよりは安心するとでも考えたのだろうか。

さんね。俺は秋山渉だ」

渉はもういいだろう、とでも言いたげな顔で再び腕を広げる。

「い、いくよ?落とさないでよ?」

念を押すと はようやく飛び降りる決心を固める。
ぎゅっと目を瞑って木を蹴った。
体が宙へ投げ出され、一瞬の浮遊感を味わう。
次の瞬間には重力に従って落下。

ドサリ

は勢い良く渉の腕の中へ収まった。
渉は何とか を受け止めたが支えきれずに尻餅を付いた格好。

「大丈夫か?」
腕の中の小さな を見下ろす。

「はぁ…怖かったぁぁ。何とか生きてる〜」

意味不明な呟きを発しながら顔を上げた
目前には渉の顔。
は思わずドキッとして握っていた風船の糸を手放してしまう。
絡めていた筈の糸はスルリと抜けていく。

「あっ」

手を伸ばすが風に攫われた風船は高みへと登っていく。
どんどん、どんどん登っていく。
二人は空へ登って小さくなっていく風船を無言で眺めた。
やがて風船は豆粒ほどになり、見えなくなった。
そして気付く。
は渉の腕の中にいる事に。
渉は を軽く抱き締めている事に。
思わず頬を染める
そんな の様子に笑みをもらす渉。
背に回している腕に力を込めて を自分の胸に引き寄せる。
の肩口に顔を寄せると耳元で囁いた。

、お前は風船みたく腕からすり抜けて行かないよな?」

耳まで真っ赤になった はそっと渉の背に腕を回して答えた。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

初の渉ドリ
こ〜んなんで良いのかなぁ?
やたらと短いけど
うーん、でもまぁ夢らしいし…いっか☆(開き直り?)

−2003/2/28−