初デート

 

 

 

 

鏡の前に立っている
只今間違い探しの真っ最中だ。
そんな の背後から顔を出したのは母親。

「呆れた。まだやってたの?充分可愛いわよ。何と言ってもこのお母さんの娘なんですからね!」
「…呆れちゃうのはお母さんよ。ほんとにその自信どっから湧いてくるんだか」

胸を張って言う母親に溜息を吐くしかない。
確かに実年齢よりは若く見えるし、性格も若いのだが。
しかし役に立つのは授業参観の時くらいなものだ。

「早くしなさいよ。デートなんでしょ〜?玄関でお待ちかねよ、藤原君♪」
「ッ!!お、お母さん!そういう事は先に言ってよーっ」

の母はニヤニヤと笑いながら言う。
それを聞いた途端、脇に置いていたバッグとバスケットを掴んでバタバタと洗面所を出て行く
そんな娘の姿を母親はクスクスと笑いながら見送った。
昔の自分の姿を重ねながら。

「ごめんね!」
「いいよ、別に。女の子ってそういうモンなんだろ?」
「…なんだか、わかってる様でわかってない感じね」

はぷっと笑う。
拓海は少しムッとして「悪かったな…」などと呟いている。

「あ、怒った?」
「怒ってねぇよ。行こうか…‥ の母さん、ずっとコッチ見てるし‥」
「え!?は、早く行こっ」

ガバッと後ろを振り返ればにこやかに手を振っている母親。
帰って来たらもっとからかわれるな、と思いつつ拓海の背を押して外へ出た。

「あ…あのさ、
「なぁに?」

そっぽを向いて言いにくそうにしている拓海。
はさっさと言えと先を促す様に拓海の袖を引っ張った。

「俺さ、今日車借りられなかったんだ…」
「え、じゃあココまで何で来たの?」
「バス」

今日はのんびりドライブでも、という話だったのだが車がないのではドライブは出来ない。

「そっかー…。じゃ、ウチの車で行く?」
「いいのか?」
「うん、大丈夫」

そう言ってバッグからキーを取り出して見せた。
どうやら に預けられている車らしい。

「じゃ、そうしようか」

拓海はキーを取ろうと手を伸ばす。
が、 はさっとキーを引っ込めてしまう。
目をパチクリさせる拓海。

「あー…あのね。お父さんに人に運転させるなってキツク言われてるの。私の運転じゃダメかな?」

申し訳なさそうにする
父親に言われてるだけ、というよりは 自身も他人に愛車を触らせたくないと言いたげな顔をしている。
なんとなくその気持ちは理解出来た拓海は、仕方なくナビに収まる事を了承した。

(デートなのに彼女に運転させるなんてカッコわりぃ…)

内心溜息を吐く拓海。
それを知らない は車を出す為にガレージを開けている。
そこには二台の車。
一台はシルバーの軽自動車。もう一台は黒いいかついデザインの車だ。
よく峠で見掛ける様な、そんな車。
驚いた拓海は呆然とそれを見詰めている。

「ビックリした?ウチのお父さんがこういう事するお店やっててね。この車もそこでチューンしたの」
「へぇ…」

そう言いながらも視線は車から離れない。
しかしどこかで見た事がある気がする車だ。
この車ではないが、同じ車種の車を見た覚えがある。
確か妙義の、赤い…そう、シビックだ。

(でもこれ形が違うよな…)

「そんなに変?」

あまりにもじっと見ているものだから、 は気になった様だ。

「あ、いや、そういうワケじゃねぇよ。たださ、これ、何て車かなって」
「ああ、シビックよ」

簡単に返された答え。
しかし拓海は首を傾げている。
どう見てもガムテープデスマッチを申し込んで来たあの男が乗っていたシビックとは形が違うからだ。
それとも の父親は明らかに形状が異なる程に改造したりするのだろうか?

「もしかしてハッチバックのシビックしか知らない?オシリがちょん切れたみたいな…って言ったら変か。うーんと、オシリが出っ張ってない形の」
「そう、それ。俺が知ってるシビックってそういう形だった。これもシビックなのか?」
「うん。タマ数少ないけど、クーペもあるんだよ」
「なんだ、そうなのか…」

漸く納得した拓海。
それを見て取った はキーを車に向け、キーレスでロックを解除する。
ガチャっという音でロックが解けたのがわかる。
が、その音がしたのは…‥なんと黒いシビッククーペの方だった。

「えっ、こっちに乗るのか!?」
「あ、軽の方だと思った?こっちはお母さんのなんだ。私のは免許取った時にお祝いにってお父さんがくれた車だから、お父さんの趣味が詰め込まれちゃってて…」

は苦笑する。
驚かれるのは銀牙も覚悟していた。
フルエアロで、大きなウィングがついていて、カナードまでついていて、大口径のマフラーが突き出していて…。
こんな車に自分みたいなのが乗るのだから。

「まさか女の子にこーゆー車預けるとは思わなかったケド。でもせっかく免許取ったんだもん。どんなのでもないよりいいでしょ」
「あ、ああ。でも、言っちゃ悪いけど…」
「似合わない、でしょ?自分でもそう思うよ」

肩を竦めて見せた は、持っていたバッグとバスケットをリアシートに積み込んでからドライビングシートに収まった。
拓海も続いてナビシートに収まり、慣れないバケットシートに違和感を感じながらもシートベルトを締めている。
はキーを差し込んでエンジンをかける。
当然その音もノーマルではないであろう轟く様な音をしていた。
聞く人が聞く人ならば
イイ音だと表現しただろう。
は慣れた動作でシフトを1速へ入れてクラッチを繋いだ。
滑らかにシビックは走り出した。

(さすがに上手いんだな)

妙に感心する拓海。
免許を取得しているのは不思議に思わない。
だがまさかチューンされた車に、しかもマニュアル車に乗っているとは思ってもいなかった拓海は、呆けながら の運転する様を見ていた。

「あのさ、拓海君?」
「なんだよ」
「…そうやって観察されると緊張するかも。友達乗せたりした事もなかったし」
「は?せっかく車持ってんのに?」
「だってこんな車でしょ?ちょっと、ね」

困った様な表情を見せる
さすがに学校でこの車の事を広められたりするのは恥ずかしいのだろう。

「そっか…」

拓海は納得の言葉を口にする。

「うん、そうなのよ」

喋りながらも の運転はスムーズだ。
時折拓海の方へ顔を向けるが、車は変に曲がったりせず綺麗に走っている。

(マジで上手い…。親が車好きだとそうなるモンなのか? って見た感じオートマでも四苦八苦しそうなんだけどな)

自分の父親を思い浮かべつつ、そんな事を思った拓海であった。
お喋りを交えながら二人は当初の予定通り、秋名湖へ向かって車を走らせる。
やがて拓海が毎朝走る峠道へ。
夏休みが終わったばかりの時期だからなのか、休日にしては交通量が少なかった。
ふと拓海は気付く。
随分とスピードが出ている事に。
チラリと横目で を見れば、 宅を出発した時と変わらず左手をシフトノブへ乗せたまま片手で運転している姿がある。
そうしている間にも徐々にスピードは上がっていく。

(まだ上げるのか!?)

心配になる拓海。
しかしスピードが乗っている事以外は先程までも何も変わらない。
もリラックスして運転している。
道にゴミやら石が落ちていれば軽やかにかわしていく。
どうも上手すぎる。
いつの間にか拓海は怪訝な表情で を見詰めていた。
もすぐにその視線に気付く。

「どうかした?」
「いや、運転上手いなって…」
「あ…」

インパネに目を落とした は、今になってスピードを出し過ぎていた事に気が付いた様だ。
まるで普段からこんなスピードで走っていて、うっかりしていたという感じに。

「あ、あははー…。ほ、ほら!もう秋名湖に着くよ」

目前に迫った目的地を見て、 は誤魔化す。
ゆっくりと減速して、シビックは駐車場へと入って行った。
空いている辺りを選んで駐車すると、 はさっさと降りてしまう。
それでは言及されるのを避けている事を明かしているも同然だというのに。
拓海は無言で追いかけ、 が手にしていたバスケットを持ってやった。

「あ、ありがと」

照れた様なはにかんだ笑みを浮かべる
二人は適当なベンチを選び、並んで腰掛けた。
横にバスケットを置いた拓海はすかさず質問を飛ばす。

、いつもあんな運転してるのか?」
「え、あ、あんな運転って…な、なに?」
「どう考えたってスピード出し過ぎだろ。それなのに平然と運転してるし。普段からスピード出してるだろ」

ぐっと詰まる
もしそうだと答えたら拓海に怒られるのだろうか?

「だ、大丈夫だよ…上りだし、あのくらい」

へらっと笑って誤魔化してみる。

「…なんかすげぇ嫌な予感する」
「え?なんで?」
「俺さ、親父の車…ハチロクだけどさ。それで豆腐配達の手伝いしながら峠攻めてんだよ」

いきなり拓海は告白する。
はキョトンとしている。が、次の瞬間にはあんぐりと大きな口を開けていた。

「う、うそ…豆腐?ハチロク?そ、それって…‥秋名のハチロクじゃないの!?」

身を乗り出した は叫ぶ様に言った。
拓海はがっくりと項垂れた。
予感的中、だ。

「はぁ、やっぱりか。お前、走ってんのか?」
「あ、しまった…。誘導尋問なんてズルイよー拓海君」

ぷうっと頬を膨らませて横を向いてしまう。

「ズルイのは だろ?お前、危ない事すんなよなー」
「なによぅ、お互い様じゃない。それに私はストリートよりサーキットの方が多いんだもん」
「危ない事には変わりないだろ…ってサーキット!?」
「お父さんの経営してるショップで走行会主催する事だってあるもん。その時は問答無用で参加させられるから」

やはり親の影響力とは強いものなのかと頭を抱えてしまう拓海。

「もー、拓海君が秋名のハチロクだなんて思わなかったよ!どうしてそーゆー面白い事は早く教えてくれなかったのよぅ」
だって言わなかったくせに」
「…‥ま、まぁ、そうだけど。言いふらしてもいい事ないしね」
「俺の事言いふらすなよ」
「拓海君こそ」

睨み合う二人。
しかしすぐに吹き出すと二人はクスクスと笑い合った。
お互い言えなかった秘密が同じ事であっただなんて誰が予想したか。
どうやら初デートは成功しそうである。
たとえ、彼女の運転でも。秘密を持っていても。
自分の車を持たない走り屋の彼氏と、サーキットを走り回る彼女はきっと良い組み合わせだ。
天の神様の思し召し、なのかも知れない。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

あゎゎ、最後すっげぇ無理矢理終わらせた感が…;;
書いてて「これ終わんねぇよ〜」トカ困ってましたよ
で、珍しくロータリー使いじゃないヒロインさんで書いてみましたがどうでしたか?
自分の車選びしてて、気に入った車の一つだったんですけどね。シビッククーペ
フルエアロだとマジ格好良いんですよvv
まぁ今のトコはカレンが目標ですけどね。カレンもシビックも値段が安めなのが有り難い(笑)
実家出たらいずれFDに乗り換えるケドね!意地でも。当然黄色でv
おっと、話が逸れた
それでシビッククーペ乗りのヒロインが書きたくなって書いたお話なのです
ほんとに走り屋ヒロイン好きだよね、涼風って(^_^;)
よーし今度はカレン乗りのヒロインでも書いてみようかな!(終われ)

−2004/9/6−