ケンカ

 

 

 

 

むぅっと頬を膨らませて窓の外に広がる漆黒の空間を睨み付ける少女。
ザフトの軍服に身を包んだ彼女は見た通り軍人である。
エリートを表す
をつける事を許されている優秀な少女兵。
彼女―― は現在ご機嫌斜めなご様子。

「あーれぇ? 、こんなトコで何してんの?」

声をかけてきたのは小麦色の肌に金の髪の少年。
同じ隊に所属するディアッカだ。

「あ…ふぅん、そういう事」

の顔を覗き見たディアッカはその様子で事態を察する。

「ディアッカ一人?」
「心配しなくてもイザークはいねぇよ」
「そっか。ならいーや」

安堵の溜息と共に僅かな笑みをこぼす。

「まったくお前等もよく飽きずにケンカするよなぁ」
「イザークが悪いのよ」
「此処にイザークがいたら が悪いって言うんだよな」

くくっと笑う。
はそんなディアッカを睨み付けている。

「ま、今回は私も悪かったかな…」
「あれ?珍しい。 が自分の非を認めるなんてさ」
「いや、今回はね。私がイザークをからかったのが発端だから」
「ならちゃんと謝っとけよな。八つ当たりされんの俺なんだぜ?」

ディアッカは困ったモンだよな、と肩を竦めて見せた。

「イザークはお子様なトコあるからね。ニコルの方がよっぽどしっかりしてるって」
「本人の前では言うなよなー」

とディアッカはぷっと吹き出すと、盛大に笑い始めた。
しかし、間が悪いと言うか。
噂をすれば、と言うか。

「誰がお子様だって?」

怒気を含んだ低い声。

「「そりゃイザークに決まって……」」

二人声を合わせて返事をしようとすれば、そこにいたのはこめかみに青筋を浮かせたイザーク。
二人は笑顔のまま頬を引きつらせた。
包帯を巻いて片目だけで凄まれると迫力が増す。
とディアッカは思わず顔を見合わせた。

((ヤバイ!))

「随分と楽しそうに話していたな。俺も混ぜて貰おうか?」
「え、あ、いやー、あの…そう!イザークに謝らなきゃって話をね…」
「そうなんだよ!俺もさっさと謝れってさ…」
「「ちょっと話脱線したけどさ」」

同時に視線を逸らす二人。

「ほぅ。それで…俺がお子様だという話に行き着いたというワケか?」

怒りのせいでイザークの白い肌は赤く染まっている。
このままでは大噴火間違いない。

「う…そ、それは。何て言うのかな。言葉のあやって言うの?もー聞き流そうよー」

いやだなぁ、などと言いつつイザークにぴったりと身を寄せる
怒りで赤くなっていたイザーク。
今度は別の意味で赤くなり始める。

(いいぞ、 !そのまま落とせっ)

イザークの視線が に向いてるのをいい事にニヤリと笑うディアッカ。

「あ!忘れちゃいけないよね。さっきはゴメンね。私が悪かったの。イザークが怒るのも当然だよね…」

寄り添ったままの格好で俯いた
イザークは慌てて を引き離し、正面から見据えると言った。

「わ、悪かったと思ってるなら別にいい!あ、あまり気に病むなよ?
それでナチュラルなんぞに落とされたなんて冗談じゃないからな!」
「許してくれるの?」
「ああ、許す。許すからそんな泣きそうな顔をするな!」

大いに慌てまくるイザーク。
最早これが演技かも知れないという可能性は考えていない。
何度騙されたか知れないというのに。

((ちょろいな、イザーク))

二人がそんな事を思っていたなど知る由もない。
は潤んだ瞳をこする。

「こするな、赤くなる」

途端に優しくなったイザークがなんとも哀れである。
イザークは の肩を抱いて床を蹴り、慣性に身を任せた。
事態が収束してほっとしたディアッカは、去る二人の後ろ姿を見送りながらソファに沈んだ。

「ったく。日に何度もケンカしてるあの二人が付き合ってるっていうのだからなー。世の中わからん」

一番の苦労役であろうディアッカは一人呟いた。
その直後。
なにやらギャーギャー言い争う声。
鈍い音も聞こえた気がするが気のせいだろうか。

「ま、まさかなー」

そのまさか、である。
鬼の様な形相の が再び姿を現したのであった。

「はぁ…勘弁してくれよな」

 

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

なんで続編が先に書けたんだろう?
"ひやかし"の続きになる話です
だけど"ひやかし"より先に書きました(笑)
ケンカする程仲が良いを地でいくカップル
ディアッカご愁傷様。いつも二人のフォローで忙しいんだろうね
でもきっと二人はラブラブなんです…多分(コラ)

−2003/8/6−