ひやかし
イザークが怪我をしたらしい。
コーディネイターであるイザークがナチュラルの兵にしてやられたらしい。
こちらはG三機でかかったというのに。「ニコル!イザークは?」
「あ、 さん。イザークなら医務室へ連行されましたよ」
「連行ね…」苦笑する 。
「んじゃ、負け犬の顔でも拝んで来ようかしら〜」
「 さん…イザークの前でそれ、言っちゃいけませんよ」今度はニコルが苦笑する番だ。
「それはイザークの態度次第かなぁ?」
「心配してないんですか?」
「ん?心配?あのイザークがそうそう簡単に死ぬワケないでしょ。しぶとく生き抜きそうじゃない」ケラケラと笑いながら言うと医務室への道を急いだ。
なんだかんだと言っても心配なのだろう。
あれでも一応イザークと は恋人という関係にあるのだから。
壁を蹴ってとてつもないスピードで通路を通り抜ける 。
これまでの道程で激突し犠牲になった者が白目をむいてふよふよと浮いている。
慣性のまま通り過ぎてしまいそうになったが、扉の枠にガシッと手をかけて急ブレーキ。「イザーク!」
扉が開くのも待てずに無理矢理こじ開ける様にして医務室へと入って行く。
軍医はただ呆れている。「生きてる?」
「少しは静かに出来ないのか、貴様は」ベッドに横になってはいるが起きていた様だ。
カーテンの向こうから呆れた声音が届く。「おー生きてた、生きてた」
笑いながら声のしたベッドへ歩み寄るとバッとカーテンを開く。
「当然だろう。誰がナチュラル如きに!」
「そのナチュラル如きにしてやられたのはドコのどいつ?」冷たく見下ろす 。
どうやらイザークの元気な姿を見た途端、怒りがこみ上げてきた様だ。「…っ。ウルサイ!」
「それしか言えないんだから。嫌だわ〜ナチュラルに負けちゃうこんなのがエースパイロット名乗ってるなんてさー」はわざとらしく肩を竦めて見せている。
「なっ、なんだと!?」
「やだなぁ、ムキになんなんでよ。本当の事なんだから〜」へらへらと笑ってイザークの怒りを煽る。
からかわれているイザークは怒りに肩を震わせている。「ま、怪我人はゆっくり休養に専念する事だね」
「フン。こんなもの、怪我のうちに入らん!」本当は痛くて仕方がないのだが、ただでさえ情けない場面を見られているだけに強がってしまう。
はこっそりと溜息を吐く。「痛いクセにー。バッチリ聞いちゃったんだから〜。痛い痛い言ってるの」
「んなっ!?」
「素直に負けたと認めたらぁ?負け犬君」ニコルに止められていた言葉を発してしまう 。
言ってしまってから「あ…」などと思ったが後の祭り。「くっ。用がないならとっとと消えろ!」
「むっ。はいはい、消えますよーだ!
こーんなに可愛い彼女が心配して言ってるのに聞く耳持たないヤツなんて知らないわよ!!」そう叫ぶと勢いに任せてカーテンを閉めた。
「んじゃ先生この莫迦者宜しくお願いします。ま、放っといても死にやしないでしょうけどー」
前半をお辞儀付きで軍医へ、後半をカーテンの向こうのイザークへ告げると医務室を出て行く。
の背後で扉が閉まると、また扉が開く。
何かと思い振り返ると切り揃えられた銀髪を揺らしたイザークの姿が。「わざわざひやかしになど来るな。精神衛生上良くないからな」
「わざわざそんな事言いに来なくてももう見舞いになんか来ないわよ」
「だろうな。だから…」グッと顎を捕まれた 。
驚く をよそにイザークは深く口付ける。
角度を変えては執拗に。
やがて唇が離れると耳元で囁く。「見舞いの品は貰っておく」
幸い通路を通りかかる者がいなかった為誰にも目撃される事はなかったが、
人目に付く様な場所でのキスに恥じらいを隠せない 。
イザークはすぐに体を離すと振り返る事もなく医務室へと戻って行く。
イザークが扉の向こうへ消え、漸く我に返った は顔をしかめる。「やられたわ。最後にコッチがひやかされたってワケ?」
は愚痴をこぼし、僅かに湿る唇を押さえながらその場を後にした。
怒りに満ちあふれた怖ろしい表情で。
++後書き…もとい言い訳++
ひやかしてひやかされて、って事で
なんだかよくわからない話…
そして"ケンカ"に続きます
しかしキスされて怒るヒロインってどうだろ…−2003/8/6−