お茶会

 

 

 

 

 

東方司令部の朝。
いつもと何ら変わらない光景。
そしてここのところは日常となりつつあるエルリック兄弟の訪問。

「うぃーッス」

少々眠そうなエドワードの挨拶。
対してアルフォンスの方は丁寧にお辞儀付きで挨拶をしている。
そして室内を見渡したエドワードは気付く。
いつも定位置で読書をしている少女の姿が見当たらない。

「あれー?大佐ー、 は?」

その声で書類に向けていた顔を上げるロイ。
が来てからは比較的真面目に仕事をこなしている。
あくまで比較的、だが。

「そういえば今日はまだ見てないな」
「そうですね。いつもなら来ていてもおかしくない時間なのに」

珍しいとでも言いたげに顔を見合わせたロイとリザ。
気まぐれな は毎日定時に顔を見せるワケではない。
しかし職員が出勤し仕事に集中し始める頃にはいつの間にかその場に溶け込んでいる。
少しばかり神出鬼没だ。

「ま、いいや。来るまで待ってるしさ」

 

 

 

 

 

「こんにちはー」

すちゃっと敬礼してみせたのは
今日は随分遅い来訪だ。
もう時計は三時を指そうとしている。

「ああ、 !やっと顔を見せてくれたか。何かあったのではと心配していたのだよ」

言いながら の元へ文字通り飛んで行ったロイ。

「心配する事?私、ここの職員じゃないし、寧ろ来ちゃいけないんじゃないの?」
「いや、 は我々の保護下にある状態だ。出入りする事に関して問題はない」

どうでも良さげに冷たく放つ
ロイは の長い髪に指を絡めながら返す。

「そ。あ、ホークアイ!私、お菓子作ったの。皆で食べよー」

ロイへたった一文字で返すと、目があったリザの方へと寄る。
日の光に輝く青銀の髪がロイの指から逃げて行く。

「あら。遅いと思ったらこれを用意してたのね。美味しそうじゃない」
「へー、 ってそういうの得意なんだ?」

が持ち上げて見せた紙袋を横から覗き込んだのはエドワードだ。

「得意ってわけじゃないけど」

照れたように苦笑する。

「じゃあ早速頂きましょうか」
「そうですね、紅茶が冷めないうちに」

リザがお菓子を、アルフォンスが紅茶の乗ったトレイを から受け取る。
用意のいい事に は既に大きなティーポットに紅茶を淹れて来ていた様だ。
良い香りが漂っている。
五人はロイを先頭にしてソファの方へ移動する。

「さ、 座りたまえ」

いち早くソファへかけたロイは自分の隣を示す。
は言われるままにそこへ腰を下ろした。

「あ!きったねーっ。何さり気なく隣に座らせてんだヨ!」

エドワードは全身で怒りを表す。
それを宥めながら とロイの向かい側に座るアルフォンス。
外見抜きにしても相変わらずどちらが兄でどちらが弟なのかわからない兄弟だ。

「別に構わないではないか。なぁ、

嫌味な笑みをエドワードへ、極上の笑みを へおくるロイ。

「ドコ座っても同じでしょ?」
「だそうだ」
「…ぐぐ」

間を置かずあっさりとそう返されては何も言えない。
の方も相変わらず危機感が薄い。
仕方なさそうに自分の前に出されたティーカップへ手を伸ばしたエドワードだった。

「お菓子も食べてよー」
「おう」

機嫌の良くないエドワードへ声をかける
たったそれだけで気分が浮上していく。
エドワードは我ながら現金なものだと内心苦笑した。

「アルフォンスが食べられないのが残念だなー」

不満そうに小さくもらす

「あ…うん。僕も さんが作ったお菓子食べたかったな…」
「元に戻ったら気持ち悪くなるまで食べて貰うけどねー」

しゅん、と沈んでしまうアルフォンス。
しかし は笑顔を向ける。
やはりアルフォンスだけ扱いが良い。
それに気分を良くするアルフォンス。
エドワードといいアルフォンスといい、 は実は計算づくで発言しているのではないだろうか。
そんな事を思いながらリザは紅茶をすすりながらチラリと を見た。
そこには以前の様な硬い表情はなく、満面のとまではいかないが笑みが浮かべられている。

「私の為に作ってはくれないのかな?」

エルリック兄弟にばかり構う を抱き寄せるロイ。
髪を梳きながらコツンと額を合わせる。

「あーッ!!大佐ッ、いい加減にしろよ!」

ダンッとテーブルに手を着いて立ち上がったエドワード。

「何がだね?」
「に、兄さん落ち着いてよ〜。紅茶が零れるってば」
(あーそういえば昔、父さんによくこうして貰ったっけ。何か色々と言い聞かせてくれる時は決まってこうする人だったなー。なっつかしー…)

は懐かしい父親を思い出し、ロイに身を任せてしまう。
その抵抗する気配のない様子に余計苛立ちを高めるエドワード。

!お前も何呑気に茶ぁーすすってんだ!」
「はぁ、美味しー」

喚くエドワードに、紅茶に意識の向いている

「やっと私を受け入れる気になったか、

ロイは一人で突っ走っている。

さーん」

困った様な声を発するアルフォンス。
エドワードとリザはロイを睨み付けている。
ロイはエドワードへ不敵な笑みを向けつつ、リザの視線に冷や汗を流している。
だけがのほほんとティータイムを満喫していた。

「あゎゎ、ホークアイ中尉…ッ!」

そんなティータイムに終幕を告げたのは一発の銃声だった。

 

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

変換間違いって面白いよねー(今も返還間違いって出たし、笑)
"三時を指そうとしている"が"惨事を誘うとしている"とか変換されてさー
それはさておき…
ヒロインさん、マイペース貫いてるねぇ
自分のペースに他人を巻き込む事もしなければ、他人のペースに巻き込まれる事もない様です
しかも流されないし
ある意味凄いな、このヒロイン。お陰様で難しいですがね;;
今回はほのぼのして貰いました。次回ドタバタしちゃう予定なのでね
エドは大佐に遊ばれてましたが
中尉の影が薄いのが不満かしら?
そろそろ少尉にも出番をあげたい…

−2003/12/16−