『クリスマスにはね、良き魔法使いがやって来るのよ』



幼い頃に聞かされた、御伽話。

でも、それは童話の中のお話で。

現実のクリスマスは。

綺麗に飾られて、街中にクリスマスソングが流れて。

雑誌では恋人から貰いたいプレゼントだとか、過ごしたい場所なんかがランキングされたりしている。

恋人は、居るけれど。

どこかに一緒に出かけるなんて、まず無理。

遊園地も近くの公園ですら、誰に見られるか分からないから。

誰にも、知られてはいけない恋だから。

どれ程、不自由でも。

それでも。

趙雲先生の恋人で居られるなら、その不自由さも愛おしい。

そんな先生に、クリスマスに渡せられるかどうか分からないけれど。

買ってしまった、プレゼント。

できれば、クリスマスに渡したくて。

午前中に、先生の携帯にメールを一応、打ってみたけど。

今のところ、返信は無い。

確か今日は、指導している部活の練習日だからそれが終わるまで返信は来ないだろう。

「お待たせしました。・・・・今日は待ち合わせか?」

いつものカウンター席に居た私に、この店の店長が話しかけてくる。

店長は先生の友達で、本来はこの店も私みたいな子供は入れない。

どんなに背伸びしても、大人以外を認めない空気を店が出している。

「どうかな、来てほしいなとは思っているんですけど」

は、あの鉄壁の壁を崩したんだ。自信を持って、待ってりゃ良いさ」

にやり、と悪戯っぽい笑みを浮かべる店長さんに苦笑する。

「有難うございます」

「ああ、ここには好きなだけ居て良いからな」

「はい」

私みたいな子供、長く居たら迷惑だと思うんだけど。

店長の心遣いに、甘えさせてもらってしまう。

珈琲を楽しみながら、先生へのプレゼントを眺める。

見た瞬間、一目惚れしてしまって。

どうしてもプレゼントしたくて、買ってしまったそれ。

深い青みがかった緑色の万年筆。

先生に似合いそうだと思って。

喜んでくれれば、良いな。

店内の照明が切り替わって、音楽が微かに流れ始める。

店長さんがレコードをかけたのだろう。

クリスマスに因んだのか、聞き覚えのある曲につい口ずさみそうになってしまう。

もう、そんな時間なんだ。

これから、店ではお酒を出し始める時間になる。

どうしようか。

時計を見れば、部活が終わったくらいの時間。

これでは、メールを見てくれても来れるのは随分遅くなってしまうだろう。

学校から随分離れた場所にあるお店だし。

そっと溜息を吐く。

何となく、分かってはいたから無理も言えない。

プレゼントは、いつでも渡そうと思えば渡せるのだから。

席を立って、レジに近寄る。

「帰るのか?まだ居ても構わないし、大丈夫だぞ?」

店長さんの好意はありがたいが、これ以上は場違いな雰囲気に私が居た堪れなくなる。

「すいません。また今度、先生と来ますね」

答えて、お財布を取り出せば。

「ああ、いらん。俺からのクリスマスプレゼントにしといてくれ」

手で制されてしまう。

「あんなうだつの上がらない教師なんか辞めて、俺にしとけ」

そんな軽口に、苦笑してしまう。

「ごめんなさい。先生が良いんです」

そう、答えると。

にやり、と店長さんが笑う。

「だとよ。良かったな、間に合って」

何のことかと首を傾げれば。

ふわり、と腰に腕が回って。

え?

「遅くなってすまない」

大好きな、声が。

耳朶を震わせて。

「せん、せい?」

振り返れば。

そこには、待ち人が居て。

「とりあえず、出ようか?」

手を引かれる。

お店のほうに振り返れば、店長さんが手を上げて見送ってくれた。

何だか、夢見てるみたいで思わず引かれている手を握ってしまう。

ぎゅ、と握り返してくれる感触が間違いなく現実だと教えてくれて。

うれしくて、言葉が出ない。

お店の近くにある公園の隅にある東屋に、たどり着く。

「先生・・・・・・・」

「随分待ってくれたんだろう?」

腕の中に閉じ込められて、そう囁かれる。

待っていた時間も、愛おしいと思えるほどに先生が好きだから。

「来てくれて、ありがとう」

他に、言葉にできそうな言葉が見つからない。

「あのね、先生」

「子龍」

間髪居れずに訂正されて、お互いに苦笑する。

「うん、子龍。あのね、これ」

鞄の中に入れてあった、プレゼントを差し出す。

「有難う」

嬉しそうに微笑んでくれる。

そのまま、コートのポケットにしまう先生に、首を傾げる。

「開けないの?」

「ああ、後で楽しみに開けさせてもらうよ」

そう言って、反対のポケットから先生が何かを取り出す。

見れば、細長い深い綺麗な赤色をしたビロードの箱。

なんだろうと思っていると。

中から出されたのは、ネックレス。

華奢なチェーンに、指輪がついている。

「あ・・・・・・」

指輪についている石。

他愛ない話を、覚えていてくれたのだ。

嬉しくて。

嬉しくて。

言葉に、ならない。

「指に嵌めるのは、煩く詮索されるだろうけど。こうしてネックレスなら大丈夫だろう」

首につけてくれた指輪を、そっと抱きしめる。

他愛ない話だったのに、覚えていてくれて。

忙しいのに、来てくれて。

私の恋人になってくれて。

「有難う・・・・・・・・」

色々な気持ちが溢れて、上手くいえない。

やっと出てきた言葉は、それだけで。



名前を呼ばれて、顔を上げると。

目元に口付けが下りてくる。

「メリークリスマス」

杖も、魔法も使わないけれど。

私のたった一つの願いを、いとも簡単に叶えてくれるあなたが。

クリスマスの良き魔法使い。

 

 


 

クリスマス企画でございます。
趙雲先生です。
本来パス制ですが、今回はお試しも兼ねて晒しております。(笑)

色んな趙雲書いてますが、この趙雲が一番甘いと思います。
タイトルは、もちろん苦し紛れです。>をい。
良いタイトルが有れば、適当に変更してくださいませ。(笑)
恐れ多くもフリー配布などをさせて頂いております。
宜しければお持ち帰りください。

 

御馳走様です(ぇ)
甘々趙雲先生大好きですよv
こんな素敵先生ならいくら待たされても待ち続けますよ。
あ、いや、趙雲なら待たせない様に努力してくれそうですけど。
店長さんもいいキャラしてますよね、密かにこの人も好きだ(笑)