最近、彼女と会っていないような気がした。
いや、確実に会っていない。避けられているような気がした。
だが、何故避けられているのか心当たりがない。
何故、私を避けるのですか? 殿・・・
<すれ違う心>
趙雲は最近、ある事が気に掛かってしょうがなかった。
それは彼の想い人でもある から趙雲への態度。
ついこの間までは共に食事をとり、時には共に遠乗りに出かけるほどの仲であった筈なのに・・・
それなのに最近では、全くと言って良いほど彼女に会っていなかったし、話すらしていないような気がした。・・・彼女に避けられているような気がしてならない。
彼女が廊下で誰かと話しているのを見かけ、此方から話しかけようとしても、
趙雲に気がついた彼女はすぐに「それでは」とその場を去ってしまう。
また時にはいつもその時間帯に居る筈の彼女の自室へと足を向けるが、部屋の中はもぬけの殻であったりと、
この間まで日常的であった筈の彼女の行動が、途端に彼を避けるかのように姿を見かけなくなってしまったのである。何か彼女の気に障ることでもしてしまったのだろうか?
そう思うが、最近の自分の行動を振り返ってみてもこれといって特に思い浮かばなかった。
原因が分からない、しかもそれで避けられているのでは趙雲の苛々も溜まる一方である。
鍛錬によりその苛々を発散させようとするが、それは日に日に少しずつ溜まっていった。
数日後、趙雲は廊下で会いたくてしょうがなかった の姿を見かけた。
今度は彼女に気付かれないように、逃げてしまわないようにそっと彼女の後ろに近づく。
そっと、そっと、前方を歩いている に近づいていった。「 殿。」
彼女との距離が程よく縮まると、趙雲は徐に彼女の名を呼んだ。
突然声を掛けられた はびくっと肩を跳ね上がらせる。
あまりにも近い所から発せられた声に、思わず驚いてしまったのだ。
そして、ぱっと後ろを振り向くとそこには趙雲の姿が。「・・・あっ、趙雲か。吃驚した。」
趙雲の姿を目にした は「驚いた」と、そう口に出してはいるが少し戸惑うように、僅かだが目線を左右に彷徨わせていた。
目線を僅かに彷徨わせた後、趙雲と目を合わせないかのように は少し視線を下へ向ける。
そんな彼女の様子に趙雲はさらに苛立ちを覚えてしまった。
以前はそのような態度を取られた事もなかったのに・・・。
けれど、その苛々を何とか押さえつけた。「最近、忙しいのか?なかなか会わないから・・・」
そう趙雲は言葉を紡ぐが、決して彼女が最近特に忙しかった事はないという事を彼自身、知っていた。
それは何度も、暇そうにしている彼女の姿を見かけているのだから。
もし本当に忙しければ、その姿は常に走り回っているか仕事の最中のものである筈なのだ。「あ、うん・・・えと・・・その・・・」
は趙雲の質問にとりあえず頷いておくが、さらに顔を俯けてしまう。
彼女の顔が俯いてしまった事により、彼女の表情は趙雲の視線からは見えなくなってしまった。・・・ずっと会いたかった彼女と、ようやく会うことができたというのに。
趙雲は彼女のその態度にまた少し苛々を感じてしまった。
しかし、そこは我慢だと自分を叱咤する。本当の所を言うと、何故自分を避けているのかを聞きたかったがここはあえて触れないでおこうかと思った。
できることならば彼女の口からその理由を言い出して欲しかった。
それに、もしかしたら自分の気のせいであるかもしれない・・・。「明日、仕事が休みなんだ。久しぶりに二人で遠乗りに出かけないか?」
趙雲は話を切り替え、彼女に遠乗りを誘った。
最近は二人で出かけることなど全くなかったし、そこで一緒の時を過ごせるならば・・・
そう思って誘った。しかし、彼女の返事はというと、「あ、ごめんね趙雲。明日はちょっと・・・」
は眉尻を下げて、すまなそうに誤った。
そんな彼女の返答に趙雲は大きく両肩を下げる。
・・・・やはり自分は嫌われているのだろうか?
そのような思考が一瞬、頭を過ぎるが趙雲はふるふるとその思考を何処かへ飛ばした。
趙雲は「そうですか」と苦虫を潰したような顔で答えた。
次の日
趙雲は手持ち無沙汰に廊下をふらふらと歩いていた。
何処かへ出かけようにも出かける気にもなれず、どこかで暇を潰そうとしていたのである。
すると、廊下の向こうの方で馬超と楽しそうに話している の姿を見つけた。それを見た趙雲は胸の奥の方でムカッとくるものがあった。
自分の誘いには断っておいて、他人と仲良くしている姿を見るのは何故だかとても不愉快に感じるものがあった。
別に、彼女が誰と話していようと自分には関係のない事。
しかし、その不愉快な気持ちが予想以上に胸の中で一気に膨らんでいた。趙雲は歩く速度そのままに、 の方へと歩を進めていった。
胸の奥で疼いたその感情を表に出すことなく、一歩一歩彼女に近づいていく。「 殿、少し宜しいですか?」
声を掛けられた は、馬超との話に夢中になりすぎて趙雲がすぐ傍に居た事に気付いていなかったのだろう。
目を何度か瞬かせた後しばし思案したかと思うと、ようやく「はい」と頷いた。
彼女の返事を聞いた趙雲は、さっと彼女の手首を取り先へと歩き出す。手首を取られた は、予想外な趙雲の手の力に少し顔を顰めた。
歩く速度も の事などお構いなしといった風に、どんどん先へと歩いていってしまう。・・・何かあったのだろうか?
そう思うが、趙雲の表情は先ほどまでいつもの優しい微笑みであった。
今は先を歩いているため、その表情は垣間見れない。
後ろをちらりと振り返ると、馬超が首を傾げながら此方を見送っている姿があった。
いつもと違う彼の様子にしばし疑問に思っていると、普段使われていない空き部屋の前に連れて来られていた。
その部屋の前までくると、趙雲はその扉を開け、 を部屋の中へと引き入れる。・・・・一体、どうしたと言うのだろう?
確かここは空き部屋だったはず・・・。少し様子が可笑しい趙雲に は不安を覚えた。
彼の方へと振り返り、「突然、どうしたの?」
と聞いた。
その言葉を聞いた趙雲は僅かに眉根を寄せる。
聞きたいのは此方の方だとでも言いたげに。二人の間には、しばらく沈黙が下りていた。
はどうしようかと目線を彷徨わせるが、何を口に出せば良いのか分からなかった。
少し居心地の悪い空気。
以前の二人の間には、このような空気は流れたこともなかった。
しばらくの後、何か言おうとした の言葉より早く、その沈黙は趙雲の方から破られた。
ふうっと息を吐き出し、にっこりと笑顔を浮かべる。「先ほど、馬超殿と何を話していたのですか?」
予想だにしなかったその言葉に、 は思わずうろたえてしまう。
もしや、馬超との会話の内容を聞かれてしまったのだろうか・・・。「えっ!!それは・・・その・・。」
は答えようとするも何と言えばいいのか分からず、ただ口ごもるばかりで良い言葉が浮かんでこない。
自然に、ぎゅっと片方の手に握られていた何かを硬く握り締めていた。しばらく質問の答えを待ったが、その訳を話してくれそうにもない彼女の様子に彼女に気付かれぬ様、趙雲は小さく溜め息をついた。
小さく笑みを零しながら、ならば・・・と次の質問を口にする。
それでも彼の表情から笑顔が消える事はなかった。
彼の顔はいつものように微笑んでいる。
けれど、 の瞳には彼の目が怒っているように見えるのは気のせいであろうか・・・。「では、最近私を避けていたのは何故です?」
「・・・・・。」
その質問にも、 は何も答えなかった。
言い訳も何も、その口からは出てこようとはしていなかった。
ただ視線を彷徨わせるばかり・・・。そんな彼女の態度に、趙雲は身に潜めていた怒りを留めることができなくなってしまった。
すっと彼の表情から先程までの笑顔が消える。「何故、何も答えない!!」
思いもよらない言葉、いや、前々から言いたかったことを爆発的に口にした。
声もいつもの落ち着いた声などではなく、怒鳴るように荒げてしまっていた。
この怒りを抑える事などできなくなってしまっていた。突然、荒げられた声に はビクッと両肩を大きく揺らす。
はっと視線を彼に向けると、声からも彼の表情からも、怒気に包まれているのが分かった。
そして彼は一気に捲し上げるかのように、言葉を挟ませないかのように一気にこう言った。「私は、何故避けていたのか、理由を聞きたいのです!!
昨日、遠乗りに誘った時もあなたはその誘いを断った・・・なのに何故、先ほど馬超殿と楽しげに話をしていたのですか!!
私が嫌いですか?そうであれば、私の事を嫌いになったのならば、はっきりとそう言えば良いでしょう!!」趙雲の思いも寄らないその言葉の数々に、 は目を瞬いた。
趙雲は軽く息を吐き出し、そして視線を彼女から外す。怒鳴るつもりはなかった。
けれど、怒鳴らずにはいられなかった。
彼女の・・・ のあまりにも曖昧な態度に、苛立たずにはいられなかった。そして、半ば放心状態の彼女に向かって、ぽつりと言葉を落とした。
「・・き・・・・んで・・」
けれど、その言葉はあまりにも小さすぎて の耳にしっかりと届いてはくれず、
思わず彼女は、「・・・えっ?」と聞き返してしまう。
そんな彼女の言葉を聞いた趙雲は、無意識に彼女の腕を取り自分に近づけた。突然、腕を取られた はふらりとバランスが崩れ、趙雲の腕の中に納まる形になってしまった。
抵抗しようにも突然の事過ぎて、何もできずに成すがままになっていると、
趙雲はぼそりと・・・男性特有の低い声で、 の耳元で「あなたの事が好きなんです・・・ずっと前から。」
そう言った。
そして趙雲は の肩に頭を持たれさせ、ぎゅっと彼女を抱き締めた。
まさかそのような言葉をくれるとは思っても見なかった は、しばらくその言葉を頭の中で反芻していた。しばらくの間そのままじっとしていると、徐に趙雲は を体から離し、
「突然すまない。」
そう言って、部屋を出て行こうとした。が、
「待って!!」
趙雲の腕を取って、 は彼をその場に引き留めた。
趙雲は目を大きく見開き彼女を見据える。
すると、すっと彼女の左手に先ほどから握られていた物を は差し出した。「言いたい放題勝手に言っておいて、さっさと逃げる気?」
そして趙雲の手を取り、そのある物を握らせる。
趙雲は軽く首を傾げ、手渡されたものを広げてみた。それは細やかなとはとても言い難い大雑把に刺繍された淡い蒼の手拭いであった。
綺麗な蒼の布に所々刺繍されているその模様は美しいとは言い難く、
縫い目がバラバラで一目で職人が作ったものではない。
これは素人が懸命に刺繍したものなのだと分かるような、そんな出来栄えの手拭いであった。「誰が趙雲の事、嫌いって言った?勝手に決め付けないで!!
自分だけ言いたい事を言って逃げるなんてずるい・・・ずるいよ。」はそう言って一呼吸置いた後、
「・・・好き。・・・私も趙雲の事、ずっと前から好きだったんだよ?」
それを聞いた趙雲は、その言葉が、自分の耳が、可笑しくなったのではないかと錯覚を起こした。
まさか彼女の口からそのような言葉が出るなど、思いも寄らなかった。「・・・私の言葉、信じてないでしょう。」
そんな趙雲の様子を見た は、まさに彼の心の内を突いた。
彼女はぷぅっと頬を膨らませている。
しかし彼女の耳は赤く染まっていた。「・・・ですが、では何故、私を避けて?」
「それはね・・・」
は一つ一つ丁寧に彼の疑問の答えを言っていった。
最初、彼を避けていたのは趙雲の事を意識してしまって以前のような態度を取る事ができなくなってしまったから
どうやったら以前のように趙雲と話をする事ができるだろう・・・
どうしたらこの気持ちを抑えることができるのだろう・・・自分の気持ちに整理がつかなくて、一人悶々と頭を抱えている時に月英に相談した。
そうしたら、「素直に言ってしまいなさい」と勧められ、またもうすぐ趙雲の殿に仕え始めた頃だと知る。
その時、 はその日に自分の気持ちを伝えてしまおうと決心したのだ。
けれど只この気持ちを伝えるだけでは・・・そう思った は、何か彼に贈り物をしようと考え付いた。何をあげたら喜ぶだろう?
趙雲の好きな物って何だったっけ?けれど、何を贈ればいいのか全く良い案が浮かばなかった。
途方に暮れた は、彼と仲の良い馬超に相談する事にした。
馬超に趙雲の好きな物って何?と聞くがしかし、何が良いとかはっきりと教えてはくれなかった。そういう物は自分で考えろって・・・ただそれだけ。
ではせめて彼の好きな色は?と聞いたら「蒼じゃないか?」と言われた。
それをヒントに は青色の布で手拭いを贈ろうと考え付いた。
けれど、ただの手拭いでは心が篭っていない。そこで刺繍をする事にしたのだ。
裁縫は、とても苦手であったのだけれど・・・。
そこまで聞いた趙雲は自分が恥かしく思えてならなかった。
避けられていたのは、趙雲のことを意識してしまっていたから。
普段部屋にいなかったのは月英に刺繍を教わっていたから。それを知った趙雲は、自分のあまりの行動に恥かしさが込み上げてきた。
これでは、まるで自分が子供のようではないか・・・
勝手に思い込んで、言いたいことを言ってさっさと去ろうとした自分の行動を。
そして、差し出された彼女からの贈り物をそっと見つめた。「本当はね、明日渡そうと思ってたの。さっきやっとの事で出来たから・・・
・・・あ、さっき馬超と話してたのはそれがやっと出来たっていう報告と相談してくれたお礼を言ってただけだからね!!」少し恥かしそうにして、そして先程の誤解を解くかのように はそう言った。
自分で「裁縫は苦手だ」と言っているだけあって、そこにある模様は決して凄いと、綺麗だと褒め難いものではあったが・・・。
それでも趙雲にとっては、この上ない贈り物のような気がしてならなかった。
高揚した気分に耐えられず趙雲は再び、彼女を抱き締めた。もう放さないと・・・。
29000打を踏んで下さった月ヶ瀬銀牙様に捧げますvv
キリリクは「爽やかな笑顔を浮かべつつさりげなく黒さを見せる趙雲」でした〜。ていうか、これ趙雲黒くない・・・_| ̄|○
すみませんすみません;;頑張って黒く黒くしようとしたんですが、逆にへたれてしまった(うわぁ)
うぅ・・・もっと妄想を膨らませようにも貧困な頭でこれが精一杯でした(涙)
しかもストーリーが在り来たりで・・・すみません;;(平伏)
こ、こんなんで宜しければどうぞ貰ってやって下さい。
キリリク有難う御座いました!!
涼風コメント
ひっそりと通っていたらキリを踏んでしまい、ちょっと迷った挙げ句にご報告(笑)
ふふふvv
初、無双夢の頂き物ですよー。趙雲ーッ(>_<)ノ
懸命になっちゃってる趙雲にときめかせて頂きましたよ!
ビバへたれ!あぁ、どうしてへたれってこうも萌えるんだろう(ぇ)
好きキャラがへたれてるのが大好きだから…気が付くとニヤけて、変態と化している自分が;;
も、もーほっといてくれ!
素敵夢を有難う御座いましたvv