(・・・ったく。何なんだ、これは)
胸に昇華しきれない何かを抱えたまま部屋に戻った三蔵は、イライラと煙草を咥えると
火を点けようとして動きを止めた。
(・・・歌?)
微かに聴こえてくる柔らかな声。緩く優しく抑揚をつけて三蔵の耳に声が届く。
子守唄のようなそれは、三蔵の心に心地良く響いた。
(・・・庭、か?)
声の主を探そうと窓を開けた三蔵は、導かれるように窓から庭へと降り立った。
そのままゆっくりと声の在り処へと足を進めると、庭の片隅の木の根元に
洛陽を抱いて座っている の姿が視界に入った。
カサリ、と三蔵の足元の葉が鳴る。
その音に歌を止めた がゆっくりと振り返った。
「・・・三蔵様・・・」
自分の名を呼ぶ の声を、何故か心地良いと感じた三蔵は
それがジープの上に落ちてきて、洛陽の無事を確かめた時以来に聴いたモノだと気づいた。
何かを言いかけて口を閉ざした時から、名前を教えたのも宿まで案内したのも全て涼華で
は洛陽を抱きしめたままずっと俯いていた筈だ。
「・・・・」
何も言わない三蔵から はすっと視線を外すと、腕の中で眠る洛陽の髪をそっと梳いた。
「・・・この子は、歳の離れた姉の忘れ形見なんです」
「・・・・」
「・・・有難うございました」
あの時言いたくて、けれど言えなかった言葉。
本当は4人の前で、きちんと瞳を見て言わなければならないのだけれど。
でも涼華のようには笑えないから。
上手く笑える自信も、言葉を紡ぎ出す自信も無いから。
そのまま唇を噛締めた と三蔵の間に沈黙が流れる。聞こえてくるのは洛陽の寝息だけ。
三蔵は咥えたままだった煙草に火を点けると、座っている2人には流れていかない方向に
ゆっくりと紫煙を吐き出した。
「・・・くだらんな」
「・・・え?」
突然の言葉に顔を上げた を強い紫暗が射抜く。
「お前は、誰だ?」
「・・・・」
呆然と見上げてくるだけの に焦れるように、三蔵はまだ長い煙草を地に落として踏み消すと
ゆっくりと近づいて片膝を付き、不揃いな髪に触れた。
「髪を切って何になる?」
「!?」
どうしてこの人は、ほんの一瞬で全てを見抜いてしまうのか。
三蔵の言葉に愕然とした は、その強い紫暗から逃れるように視線を逸らした。
「お前は、お前でしかない」
「・・・・」
「在るがままで良いじゃねぇか」
「・・・・っっ」
髪に触れていた三蔵の手がゆっくりと後頭部へ回り、そのまま肩口に引き寄せられる。
三蔵の鼓動と温もりを感じて初めて、 は自分が涙を流している事に気づいた。
上手く言葉が紡げなくても、一瞬笑うのを躊躇ってしまっても、それで良いと。
お前はそのままで良い、と初めて人から告げられた言葉に
は凍っていた心が緩やかに溶け出すのを感じていた。



ーーーーーそして、次の日。
宿の前ではジープに乗った4人と涼華が別れを惜しんでいた。
「どうかまた、いらして下さいね?」
「もちろんv」
うっすらと涙目になっている涼華の額に悟浄がキスを落とす。
どうやら昨晩、ちゃっかり美味しく頂いてしまったらしい。
「お兄ちゃん達〜っっ!!」
洛陽が宿から飛び出してきた。その後ろに の姿も見える。
はジープの傍まで近づくと、手に抱えていた包みを悟空に差し出した。
「え?これ・・・」
「昨日は本当に有難う。お弁当、皆さんで食べて下さいね?」
「マジ?ラッキー!」
「バカ猿、お前1人のじゃねぇからなっっ!」
「そんなの判ってるよ!」
「まぁまぁ」
「・・・ふふっ」
「「「!?」」」
そのまま始まったいつものやり取りを見ていた が微笑ったのに気づいた3人は息を飲んだ。
昨日までの無表情さが嘘のように、ふわりと固い蕾が花開いたかのような笑顔。
「「「・・・・」」」
瞳を見開いたまま固まってしまった3人には気づかず、 は助手席で黙ったままの三蔵の傍へ寄った。
「三蔵、有難う」
「・・・・」
「・・・行ってらっしゃい」
「・・・あぁ」
「「「!?」」」
昨晩のうちに一体2人の間に何があったのか。
全ては謎に包まれたまま、ジープは西に向かって走り出した。
「お兄ちゃん達、ありがと〜!!」
「さよなら〜!」
洛陽と涼華が懸命に手を振る横で、徐々に遠ざかっていくジープを見つめていた
その姿が見えなくなると、そっと胸元に手を当てた。
(・・・有難う。三蔵・・・)



お前は お前のままで良い
貴方がそう言ってくれたから
私は自然に笑えるの
素顔のままでいられるの
有難う 其処にいてくれて
有難う 此処にいてくれて



 

 

 


☆言い訳☆
涼風さん、ごめんなさい!
お待たせした挙句にこの体たらく(汗)
全然リクを消化出来てません…あぅ><;
何処がボーイッシュで人見知りなんでしょうか?あれ?
本当に本当にすみません!
返品可ですからね〜っっ(脱兎)

 

☆涼風コメント☆
えぇ!?
ちゃんとリク消化して下さってるじゃないですか!
涼風と違って素敵夢を書けて羨ましい限り…有難う御座いましたvv