あれは先週の土曜日だった。
淡い桃色の着物に身を包んだ長身の女性。
嫌々行ったのだが悪くなかったかも知れない。
いや、寧ろ良かったのか?

 

 

 

 


二度目の出会い

 

 

 

 

週末のいろは坂。
今夜もエンペラーのメンバーは此処へ集まっている。
しかしどうもいつもと雰囲気が違う。

「なぁ、京一は一体どうしたんだ?」
「あ、清次さん。それが…よくわかんないんスよ」

メンバー達は首を傾げるばかり。
彼らの視線の先にはその京一の姿がある。
愛車エボVに背を預けて煙草をふかしている。
いや、口に銜えた煙草は次々と灰と化しボロボロとこぼれ落ちている。
かなりボーっとしている様だ。
焦点が合っているのか合ってないのかも定かではない。
ようやくフィルター近くまで灰になってしまった煙草に気付いた京一は、それを踏み潰すとエボVに乗り込む。
発進したエボVは一旦メンバーの前で停車する。

「流してくる」

虚ろな目で一言残すとヨロヨロと走り去ってしまう。

「お、おい。あれ大丈夫か?」

京一とは思えない走りに愕然とする清次。
他のメンバー達も同様だ。
一体何があったというのか。
誰もがそう思い、エボVの後ろ姿を見送った。
そんなエボVが消えて暫くたった頃、1台の車がメンバーの元へ近づいて来る。
街灯に照らし出されキラキラと輝くパールホワイト。
邪魔にならぬ場所に停車するとドライバーが姿を現す。
長い髪を綺麗にまとめたスレンダーな女性。
少し躊躇した様にも見えたが、女性はメンバーへ走り寄った。
清次は周りのメンバーの顔を見渡す。
しかし誰も知らないらしく無言で首を振っている。

「すみません。聞きたい事があるのですが…」
「聞きたい事?」

そう返したのは清次。

「ええ、このいろは坂をホームにしているエンペラーというチームがあると聞いて来たんです」
「エンペラーってのは俺達のいるチームだぜ?」

その言葉を聞いた女性は嬉しそうな笑みを見せる。
メンバーはその笑顔に魅せられて固まっている。

「本当ですか?でしたら須藤さんはいらっしゃいますよね」

それを聞いてまた固まる。

「アンタ京一の知り合いか!?」

清次は驚いたのか声が裏返っている。

「え、ええ」
「アンタ此処に来る時にすれ違った筈だけどな。黒い車見なかった?」

今度はメンバーの一人が返した。

「え?あ、さっきのエボVですか?…えと、もうお帰りになってしまったんですか?」

僅かに見える残念そうな表情。

「いやっ流しに行っただけだ。もうそろそろ戻って来る筈だぜ」

慌てて清次は伝える。

「そうですか、良かった」

ホッとして穏やかな笑みを浮かべる女性。

「んで、アンタは?」

清次は目の前に立つ女性と乗ってきた車を見比べる。
彼女が乗ってきたのは嫌味のない高級感が漂う純白のFD。
此処へ来た時に聞いた"音"を聞く限りドノーマルではない筈。
どう考えても走り屋としか思えないのだ。
外見上も明らかに手が加わっている。
エアロもマフラーもウィングも純正パーツではない。
恐らく足回りも弄られているのだろう。
何故かステッカーの類は一切貼られていないが。

「あ、別にバトルを申し込みに来たとかじゃないですよ!」

慌てて否定する。
これで走り屋である事は確定的だ。

(こんな細ぇ女がFDみてぇなじゃじゃ馬乗れんのかよ)

清次が心の中でそう呟いた時、エボVが戻って来た。
行き同様ヨロヨロとなんとも情けない姿で。

「あ、あのエボVですよね」

そう言って清次を見上げる。

「あ…ああ」

一瞬だったが見詰められてドキッとした清次。
顔が赤い。
停車したエボVから京一が降り、フラフラと歩いて来る。
そして急に驚いた様な顔をして立ち止まる。

「っ、 さん!?」
「先週はどうも。今夜はどうしても須藤さんが走る所を見たくて来てしまいました」

にっこり微笑む。

「は、走るって…どうしてソレを??」

どうやら京一は自分が走り屋だと言った覚えはないらしい。

「どこかで須藤さんのお名前を聞いた覚えがあったんですけどどうしても思い出せなかったんですよ。
私が記憶しているという事は恐らく走り屋の名前だろうと思ったので、日光に住んでる知人に教えて貰ったんです」
さん、走り屋に興味があるのか?」

意外そうな顔をしている京一。
確かに の容姿から判断すると意外だと思えるだろう。
長く伸ばした髪をキチンとまとめ上げ、言葉遣いは丁寧。スタイルもモデル並みである。
当然美人と呼ばれるレベル。
第一印象は良家の子女といった感じか。

「興味があると言いますか…私も走り屋と呼ばれる人種ですから」

驚く京一を楽しげに見やっている。
最初から驚かすつもりだった様だ。思惑通り驚いてくれた事に満足している。

「じょ、冗談だろう…」

京一は貧血でも起こして倒れそうな勢いだ。
それ程面食らっている。
くすくすと笑いながら自分の愛車を指差す
勿論その先には白いFD。
どこからどう見てもバリバリの改造車であるFDを目の当たりにした京一は今にも卒倒しそうだ。

「須藤さんが走り屋だと知ってもう一度会いたいと思ったんです。ご迷惑でしたか?」
「い、いや、迷惑じゃ…ないが……」

しどろもどろになっている。
二人の背後では清次を始めとするエンペラーのメンバー達が事の成り行きを見守っている。
と言うよりは事の顛末が知りたくて堪らないのだろう。
何故京一と が知り合いなのかが最大のポイント。

「では走りませんか?今朝早くに来て少し走り込んだのでコースは頭に入ってますし、大丈夫ですよ?」
「ほ、本当に走り屋なのか?」

未だに信じられないらしい。

「ええ。碓氷をホームにしてます」

碓氷峠は上級者向けのコースだ。
そんな碓氷をホームにしているのだからテクはあるのだろう。

「それとも私とは走りたくありませんか?ドラテクには結構自信あるんですけど…。あっ、それ以前に私には会いたくありませんでした??」

潤んだ瞳を向ける。

「そんな事はない!寧ろ俺も会いたかったくらいだ。見合い自体は気乗りしなかったんだが…あれから さんの事ばかり考えてた」

ふと柔らかに笑む。
その京一の表情を見た は顔を赤らめた。

「私もです」

俯いて小さく呟く。

「走りに、行くか?」
「はい、是非」

は顔を上げると僅かに朱の差す顔で微笑んだ。

 

 

 

漆黒のエボVと純白のFDが走り去るのを見送ったメンバー達。

「京一が見合いだぁ?」
「つーか、あんな美人さんが京一さんの手に落ちるなんてっ!!」
「信じられねぇ…」

苦悶するしかなかったという…。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

あんまりヒロインの名前呼ばれてない…
ああ、でも恋煩いをする京一って面白いかも♪
微妙にヒロインの方が積極的ですなぁ
ぼへ〜っとしてただけの京一と違っていろは坂まで来ちゃうんだから
碓氷がホームって事は結構な距離あるもんね〜
え?群馬周辺の地理わからないって?
100円ショップで群馬県地図買いましょう!(←買った奴、笑)

−2003/2/10−