- happy birthday -


 

 



「あふ・・・」

が隣りで必死に欠伸を我慢している。
涙流して、口を必死に開かないようにして、なんか、見てるこっちに力が入っちまう。

「おい、大丈夫か?」
「んー。だいじょぶぅ。」

ちらりと横を見ると、 がトロンとした目をして笑いかけてきた。
おい・・・全然大丈夫そうに見えねぇんだけど・・・。

「昨日、緊張して眠れなくって。」
「なんだ、そりゃ。」
「だって、啓介くんと初めてのドライブでしょ?緊張するよー。」

相変わらず、へにゃ、とした顔で微笑んでる。
なんかそれがムチャクチャ可愛くて、俺は の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。

「あー!ひどーい!!せっかくセットしてきたのにぃ。」
「おかげで目ぇ覚めただろ?」
「もー!」



今日は の誕生日。
付き合い始めて、初めてのまともなデートだった。

赤城によくギャラリーしに来てたこいつが、何となく気になって。
会うたびに話をするようになって。
自然に付き合うようになっちまった。

ついこの前、こいつから今日が誕生日だって聞いて、俺は結構悩んだ。
今まで付き合ってきた女の誕生日って言うと、
そいつの食いたいってもんを食いに行って、
そいつが欲しいってもんを買ってやって、
それだけですんだけど。


―――ほんとに好きな女を喜ばせるのって、どうしたらいいんだ?


最初はまず、アニキに相談した。
でも、アニキは変なスーツは引っ張り出してくるわ、
花束が基本だとか言ってカタログは持ってくるわで、全然だめ。

ほんと、アニキってそういうとこ、ずれてるよな。

次に史浩。
まあ、あんまりアテになんねぇかな、とは思ったけど、年の功って言うの?
一応参考にはなるかなと思って。
でも、『好きなもん食わせてやって、好きなもん買ってやればいいんじゃないか』って、
今までの俺のまんまのアドバイス。

あいつも、優しそうな顔してる割には、冷てぇヤツだよ。

一応、ケンタにも聞いてみた。
あれでも、あいつは彼女持ちだからな。
そしたら、延々とノロケ話を聞かされるハメになった。
で、肝心のアドバイスは『やっぱプレゼントとかっすかねー。』なんて、
かなり適当なもんだった。

あのやろう・・・しばらく一緒に走ってやんねぇ。

俺のFDのメカニックを担当してるヤツにも聞いてみたけど、
『さぁ・・・僕は女性と付き合ったこと、あまりないので・・・。』とか言ってるんで、問題外。

最後に、癪だけど藤原に聞いてみた。
『へぇ・・・。啓介さんでも、彼女の誕生日なんて気にするんですね。』なんて
余計なお世話なんだよ。
お前だって、昔付き合ってた女がいたって言ったじゃねーか。
なんかいいアイデアはねぇのかよ?!

そしたら、藤原の代わりに、隣りにいた松本が口を開いた。
『彼女も車が好きなんだし、やっぱりドライブに誘ったりするのがいいんじゃないですかね。』

おお!
初めてのまともなアドバイスだぜっ!
ダテに結婚してるわけじゃ、ねーな。

『ドライブって、どの辺行くもんだ?』
『赤城道路じゃないですか?』

うるせー、藤原。
だまってろ!

『場所なんて、どこでもいいんですよ。二人で一緒にいられればいいんですから。』
『そうは言ってもよー。』
『そうですね・・・。俺とかは最初よく軽井沢とかに行ったような気がしますよ。』

なるほどな。
結構近場で、あの辺って女に人気あるもんな。



・・・つーわけで、俺は松本のアドバイスのまんま、 を軽井沢へドライブに誘った。
この日のために、いつもは外してるカーオーディオくっつけて、ナビのバケットシートは普通のに替えて。
俺らしくねー!とか思ったけど。
一応、最初のデートくらいは、ちゃんとしておかねぇと。
アニキはそんな俺を、後ろからただ黙ってニヤニヤ笑いながら見てた。
ああ・・・帰ったら、また何か言われんだろうな。



「どうしたの?啓介くん。さっきから百面相してる。」

不思議そうな顔をして、 は俺の顔を覗きこんできた。

「なんでもねーよ。」

こいつは、こんな俺の涙ぐましい努力を分かってねーんだろうな。
つーか、死んでも知られたくねーけど。

松本や史浩から教わったデートスポットとやらに、とりあえず案内する。
松本はともかく、ほんと、あの史浩の情報量の多さにはびっくりだぜ。
さすがレッドサンズの外報部長って感じか。

なんか、やたらかわいらしい感じの店に入ることになって、かなり恥ずかしかったけど、
でも がケーキを食って「おいしいねっ。」って笑ったり、
変なぬいぐるみとか見て「かわいいっ!」って喜んだりしてるのを見て、俺自身も嬉しくなった。
ガラにもなく、お揃いの置き物なんて買ってみたり。



「そろそろ帰るか。」

陽も沈んで、街灯が点り始める。
明日はこいつ、朝からバイトって言ってたから、そんな長居は出来ねぇもんな。
名残惜しそうな顔してる の肩を、ぽん、と叩き、FDに乗り込む。

「あのね、最後にお願いがあるんだけど。」

がシートベルトを締めながら、上目遣いに俺を見る。

「何?」
「あのね、碓氷峠に行ってみたいの。」
「碓氷?」

碓氷って言えば、ここからすぐの峠。
そりゃ、行けないことは全然ない。
ほんと、こいつ峠好きだな。

「いいけど。ギャラリーしたいのか?」
「ううん。啓介くんの車走らせるとこ、見てみたいんだけど、だめ?」

だめ?―――って、そんな目ぇキラキラさせて、お願いって顔されたら、行かないわけにいかねーだろ。
しかも、俺の運転が見たいなんて、かわいいこと言いやがって。
俺は の額を、コツンと突いた。

「まだ時間早いから、いつもみたいには走れねーぞ?」
「うんっ!」

頬を赤くして、嬉しそうに顔を輝かせる
俺は彼女の頭を、ぽんぽん、と軽く撫で、車を発進させた。



碓氷はほとんど来たことがないし、時間もそんなに遅くないから、安全マージンいっぱい取って走る。
隣りに が乗ってるんだし、無茶はできない。
結構俺としては、タルくなるような運転だったけど、 は興奮しまくり。

「啓介くん、よくここには来るの?」
「いや?1、2回しか来たことねーけど。」
「えー!それなのに、こんなに速く走れるの?!」

俺の気を散らしちゃいけないと思って、あんまりはしゃがねーけど、目はさっきよりもキラキラ輝かせて、
まるで特撮もののヒーローでも見ているような顔つき。
思わず俺は笑っちまった。

「何よー?」
「何でもねーよ。」

後ろから1台、煽ってくる。
仕方ねぇから、ハザード出して、路肩に寄せた。

「あれ?止まっちゃうの?」
「ばーか。お前が乗ってんのに、相手するかよ。」

残念そうな顔をしてる の頬をつねる。
は「痛ーい!」と言いながらも、笑ってた。

「私もお金貯めてFD買うんだ!」
「へーえ。」
「でね、啓介くんとパラレルドリフトするの!」
「・・・・・・。」

こいつの夢は、たまに、とてつもなく、突拍子がない。
きっと、この前、暇つぶしにアニキとやったヤツ見て、そう思ったんだな?
俺は、やれやれって感じで、 の頭を軽く叩く。
ガキ扱いされたと思った は、頬を膨らまして、俺を見た。

「本気だよ?」
「はいはい。」
「私、啓介くんとずーっと一緒に走れるようになりたいんだ!」
「へえ?」
「だって、好きな人と同じ場所にいたいもん。」


―――こいつは。

普段ガキみてぇな顔してるくせに、油断してると、不意打ちを食らう。

こんなふうに。


「何よー。図々しいとか、絶対無理とか思ってるんでしょ。」
「―――思ってねぇよ。」

まだ頬を膨らませたままの
その頬に手を当て、軽く唇を合わせた。

ちょっと顔を離して見ると、 の顔は真っ赤。
薄暗い街頭の明かりの下で、はっきり分かるくらいだから、相当なもんだ。

ほんと、かわいいヤツ。

もう一度、軽く唇にキスして、ついでにまぶたにも軽く触れる。

「じゃあ、車買ったら特訓だな。」
「啓介くんが教えてくれるの?」
「おぅ。」
「やったー!」

思わず万歳する
案の定、天井に手をぶつけやがった。

「いたたたっ。」
「ばーか。」

ポカポカと殴ってくる の腕をよけながら、再び車を走らせる。



来年の誕生日には、2台のFDで来れるといいな。


いや―――。


来年も、再来年も、一緒にいような。






 


 

++涼風コメント++

『purple snow』の雪乃さんに誕生日プレゼントとして頂きました(//ヮ//)
キャーッ、すっごく良いですよ!
読みながらも顔ゆるみっぱなし(笑)
涼介と拓海はウケました。笑い堪えてましたよ〜
今このコメント書きながらもニヤニヤ…(汗)
横にいる弟は何事かと思っている事でしょう
だって凄く良過ぎるんだものー!!
雪乃さん有難う御座いましたっっm(_ _)m