パートナー

 

 

 

「あ、もしもし?おー!文太おじさんっ久し振り〜♪…え?元気だってば。ところで拓海居る?
…あー、そっかバイトかぁ。ん〜わかった直接ガソスタ行ってみるからいーよ。
…え?あぁ、一緒にギャラリーにでも〜と思ってさ。
……わかってるって!ん、じゃね。今度豆腐買いに行くから〜」

ピッ

携帯を切ると折り畳み、ポケットに突っ込む。
小さなローテーブルに置かれたキーを掴むと立ち上がって外へ出た。

 

 


「いやぁ〜、昨日の高橋啓介の狼狽振りは見物だったなー」

ケラケラと笑いながら池谷。

「自分だって十分驚いてただろう?」

呆れた様な表情で店長が横槍を入れる。

「いや、まぁ…そうですけど」
「でも噂の方は相変わらず"正体不明の黒ハチロク"ってだけで ちゃんに関する情報流れてないッスよね〜」

イツキが首を傾げる。

「まぁ、 ちゃんは噂が広まるのを良く思っていないからな。それはそれで良い事なんだが…」

何か裏があるのでは?と危惧する店長。

「何事もなければいいんだがなぁ。っと、お前らもう帰るんだろ?」

思い出した様に拓海とイツキを交互に見る。

「あーハイ。お先しまーす」

拓海の眠そうな声が返事を返す。
その直後、1台の車がスタンドへ入って来る。

「いらっしゃいませー!」

すかさず池谷が駆け寄った。

「昨日はどうも…」

車に乗っていたのは であった。

「あれ!?ハチロクはどうしたの?」

思わず大きな声を上げてしまう。
そう、 が乗っていたのは噂のハチロクではなかったから。

「あれは仕事用車両なんで…。で、今日はこっちにハイオク満タンお願いします」

そう言って、車外へ出ると拓海の姿を探す為、視線を彷徨わせる。

「あ、拓海!イツキ君もー。もしや今バイト終わった?」

愛車に寄り添う様な格好で手を振っている。

?何だよ、その車」

拓海も知らない車らしい。

「えー!なんだよっ、 ちゃんハチロクは!?」
「ハチロクは仕事以外ではたまにしか乗らないんだってば。こっちは自分で買ったの♪」

そう言うと、愛車を愛おしそうに撫でた。
相当大事にしていると見受けられる。

「でさ、これから赤城行くんだけど一緒にどぉ〜?」
「え!?まさか…」
「バトルは受けないよ」

キツイ視線を向ける。

「だよな…。何しに行くんだよ」

面倒臭そうな顔をしてみせる拓海。

「レッドサンズがチーム内でタイムアタックするんだって。お誘い受けたから行くの。で、一緒に行かん?」
「いーじゃん!行こうぜ拓海〜!!」

イツキはノリノリだ。

「文太おじさんには伝えてあるよ。許可もバッチリさ♪」

 

 

 

今夜はただのチーム内のタイムアタック。
よってギャラリーの人集りは見当たらない。
勿論全くいないわけではないが。
三人は、自分の愛車に乗る とハチゴーに乗るイツキと拓海に別れて赤城の頂上を目指している。

「えー…と。あ、いた〜涼介さんのFC発見vv

には涼介本人よりもFCの方が魅力的らしい。
取り敢えずそのFCの近くにゆっくりと停車する。
イツキもそれに倣い後ろに止める。
レッドサンズの面々は見慣れない2台の車を注視している様だ。
それに気付かず は愛車を降りて涼介に手を振る。

「約束通り来ましたよ〜」

背後からやって来た拓海とイツキは何がなんだかわからない、という顔をしている。

「待ってたよ、 ちゃん。しかし…驚いたな。昼間はハチロクに乗っていなかったか?」

涼介の目は の愛車である青い"RX−7 FD3S"に向けられている。

「あ゛!!…気付かなかった。見られてた」

今頃になって自分の失態に気付いた であった。とんだ大間抜けである。

「何だよ!俺にはあんなにキレておいて、兄貴の誘いにはのるのかよ!?」

ズカズカと近づいて来た啓介が言い放つ。

「誰の誘いでも来ますよ、こういう誘いなら。バトルには応じないけどギャラリーには喜んで来ます」

キッパリ断言。

「…そりゃ、悪い事したなぁ…とは思いましたけどぉ」

もごもごと聞こえにくい声で喋る
その、シュンとした表情にドキリとさせられる啓介。

「べ、別にいーけどよ…」

思わずそう返してしまった。

?」

拓海がしびれを切らして声をかける。

「「藤原?」」

高橋兄弟が声を揃える。

「あぁ、今日の昼間に図書館で涼介さんに会ってさ。その時に誘われたんだ〜」

は嬉しそうに答える。

「なんだ、そうだったのか。じゃあ結局正体はバレたんだな」

拓海の言葉に苦笑いしか返せない。

「心配しなくても俺と啓介しか知らないよ。元はと言えば俺達二人のせいで広まった噂だからな」

申し訳なさそうに涼介は言う。

「この噂に関する発言は今後一切しないと約束しよう。今夜はゆっくり見物して行ってくれ」

そう言うと自分の持ち場に戻って行った。
流石にリーダーである涼介がいつまでも此処で雑談に花を咲かせるワケにもいかないのだろう。

「お前ら、知り合いだったのか?」

啓介は拓海と を見比べながら聞く。

「あ、親戚なんですよ。俺達」

拓海が答え、それに対して はコクコクと頷く。

「じゃあ今日は楽しみますか〜♪啓介さんも走るんでしょう?楽しみvv

そう言って満面の笑みを浮かべる。

「お、おぅ。そう言うお前は走らねぇの?」
「このFD買ってからまだ3ヶ月くらいしかたってなくて…ハチロク程乗りこなせてないから。ノロノロ走るの恥ずかしいしねぇ…」

そう言ってカリカリと頬をかく。

「でもよくそんな高い車買ったよね、 ちゃん」

感心した様にイツキがポツリ。

「あー…一応仕事して収入得てるからね。ただの女子高生じゃないんだよ〜?」

えっへん!と胸を張ってみせる。

「仕事!?俺そんな話聞いた事ねぇよ!」

驚いた拓海が声を上げる。

「聞いてない?文太おじさんは知ってる筈なんだけどなぁ。そーか、聞いてないかぁ」

は何故だろう?という顔で首を傾げる。

「なんにしてもあれだけの腕なら問題ねぇだろ?走りてぇなら走れよ?」
「あ、じゃあお願いがあるんですけどー…」

上目遣いで啓介をじっと見る

「なっ、何だ?」

思い切り動揺しつつも何とか返事を返す。しかし頬には朱が差している。

「私、タイムって計った事ないんですよ。計って貰えないかな〜なんて…」
「ああ…そんぐらいなら。兄貴ー!」

取り敢えずその場から逃げ出したかった啓介は兄の元へ駆け寄って行く。

 

 


「準備はいいかい?」

涼介が運転席を覗き込む。

「私はいつでも」

不敵な表情で返す。走り屋 の顔だ。

「一応後ろから啓介がついて行くがいいかい?」
「…不本意だけど、この際仕方ないね」

一瞬顔をしかめたが手間をかけさせている以上我が儘は言えないだろうと承諾する。

「じゃあ、カウントに合わせてスタートしてくれ」
「了解」

涼介はチラリと啓介を見る。
啓介はその視線に頷いて見せた。
涼介が自らカウントを取る。
拓海とイツキ、そしてレッドサンズのメンバーが見守る中、 のFDはスタートした。
直後、追いかける様に啓介のFDも走り出す。

 

 


「終わってみれば我ながら莫迦な事したと思うよ…」

最初に下り、次いで上りのタイムを計った
よりによってかなりの高タイムを弾き出してしまっていたらしい。
"赤城のハチロク"の正体はバレずに済んだが、"青のFDの女の子"としてレッドサンズのメンバーには顔を知られる所となってしまったのだ。
これではハチロクの正体が知られるのと大差ない。

「自分で言い出した事だろ?」

そう言ったのは啓介。

「まぁ、それは…」

苦笑しつつ青い愛車に背を預け、紫煙を燻らせる。

「俺も結構マジで走っちまった…。藤原といい何なんだよ」
「あ、啓介さんって拓海に負けたんだっけ(
笑)
「笑い事じゃねぇよ(
呆)

「私、中学の頃は配達帰りの拓海を待ち伏せして追いかけっこしてたんですよ〜。
あの頃は断然私の方が速かったから、噂を聞いた時は信じられなかったなぁ」

溜息を吐く。

「だって憧れの高橋啓介が自分の知ってるボケ男に負けちゃうんだもんー」

がしがしと煙草を踏みつけながらぶーたれる。

「ボケ男って何だよ…」

そこへ拓海が現れた。
の発言に不満があるらしい。

「俺達、もう帰るからな。…配達あるし」
「あぁ、そうだね。おやすみ学校でね」

ひらひらと手を振る。

「ってお前も早朝から材料の受け取りあるだろ?」
「眠ければ遅刻して行くからいい」

ニヤリと笑いを浮かべる。
優等生と見せかけてかなりのサボリ魔であるらしい。
溜息を残して拓海は何も言えずに去って行った。
その後ろ姿が見えなくなったのを確認して啓介が喋り出す。

「お前、俺に憧れてたのか?」
「あぁ、うん。最初はFDに目が行ってね、んで見てたら走りも良くて…。名前とかは後から知ったけど」

頭に記憶されている映像を再生しているのか はうっとりしている。

「それが拓海の野郎にィィー!よっし、私が拓海を負かしちゃろー!!」

楽しそうに腕を振り上げる。
本人はあくまで冗談のつもりで発言している。

「へぇ、藤原とバトルするのかい?」

不意に背後からかけられた声。
涼介だ。

「…む。冗談のつもりで言ったんですけど?」

頬を膨らませて涼介を睨み上げる。

「そんなに睨まなくてもわかっているよ」

極上の笑顔で返される。

「ご機嫌を損ねてしまったかな?約束を果たそうと思って来たんだが…余計な事だったか」
「え、あっ、あー!FCのナビ!?マジで乗せてくれんのー!!?」

驚きでそれまで使っていた敬語も吹っ飛んでいる。

「ああ、約束だからね」

にっこりと微笑みかける。
浮かれる を余所に啓介へも意味深な笑みを向けた。

「早速行こうか」

へ向き直ると、自然に肩を抱きFCへと歩き出す。

(あっ兄貴!?)

啓介はようやく涼介の笑みの意味に気付き、心の中で地団駄を踏んだ。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

はい、尻切れトンボ〜(爆)
まぁ、それは置いといて……
ヒロインのパートナーはブルーのFDでした!
単に涼風がFD好きだからってのが理由(笑)
流石に黄色には出来なかったケド…
つぅか、走りを文章で表現出来ないってのは非常に痛い(T-T)
今回、思いっ切り切ってるしー☆
駄目駄目ですなぁ
何気に最後の方、兄弟でヒロイン取り合い(?)させてみた
さて、勝者はどちらになるんでしょうねぇ?
はたまた更に強力なライバルが現れるのか!?

−2003/1/10−