喉が痛い。
頭、割れそう。
だるい〜…。
それから……寂しい、かも。

 

 

 

 

風邪

 

 

 

 

(眠ぃー。帰ったら寝よ…)

いつもの様に眠そうな顔の拓海。
時は既に下校時だ。

「拓海ーっ、待てよ!」

後ろからイツキが叫びながらかけてくる。

「イツキ、お前今日バイトだろ」
「わかってるよ!それよりさ、今日 ちゃん学校休みだったか?」

思い出そうと考える拓海。

「さぁ?」

考えた結果、よくわからないと言う結論に達した様だ。拓海らしいと言うか何と言うか…。

「さぁ…ってなぁ」
「んな事言ったって知らねぇモンは知らねぇよ。何か用でもあんのか?」

拓海はどうでも良さげに言葉を紡ぐ。

「あぁ、頼まれてた雑誌のバックナンバー持って来たんだよ」

そう言うと脇に抱えていた紙袋を振って見せる。
数冊入っているらしく厚みがある。

「でも の奴、たまにサボるからな。どうせ今日もかったるいとか言って寝てんだろ」

猫被りな を良く知る拓海は言い捨てる。

「んじゃ、明日でいいか」

イツキも取り敢えず納得しておく。
真面目で学年トップの優等生である表向き仕様・ ではなく、破天荒な の姿を見ているからこそイツキも納得出来るのだ。
二人はその後言葉を交わさずに校門へ足を向けた。

「「?」」

何やら校門の辺りが騒がしい。
特に女子生徒達が。
黄色い声が飛び交っている様に聞こえる。
無言で顔を見合わせると気持ち急ぎ足で校門へと向かう。
女子生徒達の熱い視線を集めていた人物の姿が見えてくる。
白い車体に寄り掛かって紫煙を吐き出す端正な容姿を誇る人物。
高橋涼介だ。

「「!?」」

拓海とイツキは驚いて立ち止まっている。
そんな二人に涼介が気付いた。
ゆっくりと二人に向かって歩いて行く。

「そう言えば と藤原は同じ学校の生徒だったな」
「あ、 に会いに来たんですか?」

拓海は聞いた。

「ああ」

静かに頷く。

「あー…でも休みみたいッスよ」

イツキは恐る恐る言う。

「休み?…まさか悪化させたのか」

涼介が小さく呟く。
さっと携帯を取り出すと素早くボタンを押し始める。

「何なんだ?」
「俺が知るかよ」

二人は首を傾げる。
打ち終わったメールを送信して携帯をポケットに押し込む。

「… の住所を教えてくれないか?」

涼介は少し考えてから拓海を見る。

「え? の…住所……」

困った顔で黙る拓海。

「どうしたんだよ、拓海?」
「いや、俺 の家が何処にあるか知らねぇし…」

そう言うと頭をかいた。

「知らない?」

涼介も怪訝そうに顔をしかめる。

がウチに来る事があっても、あっちに行った事ないし…何処に住んでるか聞いた事なかったな」
「おいおい拓海〜。親戚だろーが」

イツキは呆れている。
その時、涼介の携帯が鳴った。
涼介は急いで携帯を開く。

「ふ…どうやら風邪をひいて寝込んでいるらしい。先日赤城で会った時、風邪気味だったからな」

先程のメールは へ宛てた物だったらしい。
その返事が返って来たのだろう。

「風邪?…サボリじゃなかったのか」
「手間を取らせて悪かったな。俺はもう行くよ」

そう言うと二人に背を向けて白いFCへと乗り込み、独特のロータリーサウンドを残して去って行った。

 

 

 

涼介からメールが来た。

藤原に聞いた。学校を休んだそうだな。
この間の風邪をこじらせたんだろう。
良ければ見舞いに行きたいんだが?

(はい、こじらせましたよ思いっ切り)

そう思いつつ返事を打った。

朝からだるくて寝込んでるよ。
見舞いなんていーよ、別に。
と、言いたいトコだけど一人でいるの飽きたから来て欲しいかも。
"洋菓子店・86の夜道"の隣にあるデカイ家が私の家です。
ガレージのFDとハチロクが目印。

(涼介なら86の夜道わかるよね?)

送信すると枕元に携帯を投げ出して再び布団を引っ被った。
そうしているうちにウトウトと浅い眠りに落ちてゆく。
どれくらいの時間がたったのか。
浅い眠りの中で微かにインターホンの音を確認した。
重い瞼をなんとか持ち上げるとベッドから這い出る。
投げてあったカーディガンを羽織ってソロソロと階段を下りて行く。
階段を下りるとすぐに玄関ホール。
サンダルをつっかけると鍵とチェーンを外す。
が扉を開ける前に素早く、しかし静かに扉が開かれる。
ノロノロとした動作で扉を開けた人物を見上げる。

「大分熱があるんじゃないか?顔が火照って赤いぞ」

その人物、涼介は苦笑を浮かべて言う。
の額に張り付いた前髪を払い、少し冷えた手をあてる。

「ん…ちょいフラフラする。あー涼介の手、冷たくて気持ちいい〜♪」

掠れた声を発する

「取り敢えず上がっても構わないか?」
「あぁ、うん。どーぞ」

覚束ない足取りでリビングへと向かおうとする。
が…。

、そっちじゃないだろう」

後ろに軽く引き戻される。

「およ?」

普段ならビクともしない程度の力でも簡単に引っ張られてしまう。
トンッと背中が涼介の胸にぶつかる。

「部屋は?」
「あ。上だけど」

それを聞いた涼介は を抱き上げた。
俗に言うお姫様抱っこと言うヤツだ。

「わ!ちょっ…自分で行ける……っ」

思わず大きな声を出してしまうが、声を詰まらせ咳き込んでしまった。

「いいから大人しくしてろ」

自分の腕の中に収まる に優しい笑みを向ける涼介。
有無を言わせずに階段を上がって行く。
1番手前の部屋の扉が開け放たれている。

「此処か?」
「うん、そう」

の部屋である事を確認してから足を踏み入れる。
女の子の部屋とは思えないシンプルな部屋。
何より物が少ない。
そんな の部屋を一瞬見渡してから、奥の壁際に置かれているベッドへ を寝かせる。

「熱は計ったのか?」
「お昼頃に。8度ちかくあったかな」

それを聞いた涼介は持っていた袋から何かを取り出す。
取り出した何かを の額にペタリと貼り付けた。

「ぅわっ、冷たっ☆」

市販されている冷却ジェルシートだ。
かたく水を絞ったタオルとは比べられない持続効果を考えると非常に便利な代物だ。
水を交換する手間も絞る必要もない。
ただ貼り付ければ良い。

「ちゃんと食べ物は口にしてるか?食わないと治る物も治らないぞ」
「お昼にリゾット食べたよ。少しだけど…」
「少しでもいいさ。食べないよりずっといい。カットフルーツも買って来てみたんだが、食べるか?」

透明のカップに入っている角切りにされた果物を見せる。

「そんなのまで買って来たの?…でも今はいいや。それより喉乾いたかも」

そう言ってある場所を指差す。
涼介がそちらに目を向けると、そこには小さな冷蔵庫。
そこから飲み物を取ってくれ、という事だろう。
冷蔵庫を開けてカットフルーツをしまい、飲みかけのスポーツドリンクを取り出す。

「これでいいのか?」
「うん、ありがと」

は体を起こして力なく微笑む。
そして喉の痛みに顔をしかめながら受け取ったドリンクを喉に流し込んだ。

「後はゆっくり睡眠を取れ。そのうちご両親も帰ってくるだろう?俺はもう帰るからな。…共働きなのか?」

ふと湧いた疑問を投げ掛ける。

「…もう帰るの?今来たばっかなのに」

あっさりと質問を無視する。

「あぁ、病人一人居る家にいつまでも上がり込んでいるわけにもいかないからな。で、ご両親は何時頃帰って来るんだ?」

もう1度問う。

「ヤダ…此処にいて。まだ帰らないで」

小さく掠れた声で呟くと涼介の服の袖を掴んだ。
風邪をひいた時独特の寂しい気持ちに襲われているのだろう。

?」
「此処には誰も帰って来ないから…」

熱で潤んだ瞳を向ける。

「どういう意味だ、 ?」
「私は5年以上此処で一人暮らししてるの。家族なんていないもん。…いるとすれば叔父貴と文太おじさんと拓海くらい」

驚きを隠せない涼介。
5年以上前、と言ったら は当時まだ中学1年か2年。

「だから…行かないで……」

そう吐き出すと疲れたのか夢の世界へと誘われていった。
眠りに落ちた を見詰める涼介。

「ああ、何処にも行かない。目が覚めるまで此処に居てやるよ」

そっと手を握ると優しく言った。
火照る頬にふわりとキスを落として。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

なんか…今までで1番夢小説らしい出来?
風邪ひいた弟と2週間程風邪気味が続いてる自分のおかげで思い付いた話。
涼風はもう6年くらい寝込む様な風邪なんてひいてないけど。
その代わり、長期間の風邪気味に襲われます(-_-)
長いと1ヶ月とか?最悪ッスね(汗)
にしても、美味しい思いしたねぇ涼介〜
強気な性格のヒロインに甘えられるなぞ!

−2003/1/27−