いい加減あっちに行くべきかな…

 

 

 

 

決着を

 

 

 

 

大きな欠伸をひとつ。
文庫本に指を挟み、眠そうに頬杖をついている。
騒がしい休み時間の教室。周りのクラスメイトは意外そうな顔で彼女を見ている。

(私だって欠伸くらいするっての)

本に栞を挟んで机の中に投げ入れ、手をついて億劫そうに立ち上がった。
丁度その時。

ちゃーん」

教室の外から声がかかる。

「あーイツキ君。何?」

扉の所に立っていたのは、はとこの拓海とその親友イツキ。

「見たいって言ってた雑誌のバックナンバー持って来たよ」

言いながら雑誌が入ってると思われる紙袋を持ち上げて見せる。

「マジ!?やったぁ〜♪」

嬉しそうに二人の元へ駆け寄る。

「お前サボリ癖なんとかしろよ。風邪治って来たと思ったら翌日はサボリなんだもんな」

いかにも"呆れてます"という顔の拓海。

「昨日はちょっと行きたいトコがあってね。いや〜帰って来たの明け方だから眠くてぇ」

そう言うと欠伸を噛み殺した。

「行きたい所って?」

イツキが聞く。

「栃木の方にね」

雑誌の入った紙袋を受け取りながら答える

「そろそろ休み時間終わるよ」

ふと気付いた が教室の時計を指差した。

「戻るぞ、イツキ」
「あっ、待てよ〜」

二人の背中を見送ると は自分の席に着く。
すると後ろの席の女の子に話しかけられた。

さんってあの二人と仲良かったんだぁ?」

驚きを隠せない雰囲気のクラスメイト。

「まぁ。拓海とは古い付き合いだから」
「そうなの?今まで話してるトコなんて見た事なかったケド」

首を傾げている。

「そりゃ…ついこの間まで同じ学校に在籍してる事すら気付いてなかったオトボケ君だもん」
「えぇ!?嘘でしょっ?」

ショックが大きかったのか、驚き過ぎて固まっている。

「そう言う茂木さんこそ拓海と話してるのよく見掛けるよ。そっちこそ仲良いんじゃん」

笑んでみせる

「… さんって想像してたのと全然違うね。凄い話しやすかったんだ」
「私、皆が思ってる様な真面目な優等生じゃないからね」

ニヤリ。
そう笑うと、タイミング良く鳴ったチャイムを理由にさっさと前を向いてしまった。

 

 

 

「おい、いい加減理由を話せよ」

伸ばされた髪を一つにまとめた男は言う。
すぐ近くに立っている男に向かって。

「もうすぐ元凶が来る。大人しく待ってろ」

言われた男は適当にあしらい、煙草を口に銜えた。
長髪男は周りにいる男達に肩を竦めて見せた。
ふと聞き慣れぬ音が耳に届く。
それは確かにエンジン音。
しかしこの場に集まっている男達は皆が皆同一の車に乗っている。
ランエボと呼ばれる車。
聞こえてきたエンジン音。まず彼らと同じ車ではない事は確かだ。

「来たか」

ゆらめく煙の向こうを見据えるリーダー格の男。
次第にエンジン音が近づき、車の影が視界に入ってくる。
闇と同化しそうなダークブルーの影。

「あれか?京一の言う元凶ってヤツは」
「ああ。驚くなよ」

クッと笑いを浮かべる。
青いなめらかな車体は彼らの車の近くで止まった。
開かれたドアの向こうから姿を現したのは…。

「京一っ」

車体と同じダークブルーの髪を揺らした少女。
丁寧にドアを閉めると京一の元に走り寄る。

「昨日はどうだったんだ?」
「うん、京一のお陰で心置きなく走り込めたよ。どーもねvv

は満面の笑みを見せる。

「おい…京一??」

先程の長髪男がたまらず声をかける。

「あぁ、コイツが元凶だ」

思い出した様に彼らの方を向き、 を前に押し出した。

「コイツにこのいろは坂を走り込ませる為。それが昨日此処への出入りを禁じた理由だ」

どうやら京一は のために一晩いろは坂を空けたらしい。
エンペラーを始め、その他のチームにも話を付けて完全に 一人で走り込める様計らってくれたと言う。
勿論二人の決着を付けるのが目的だ。

「何の為にだよ?」

出入り禁止の理由はわかったが、 がいろは坂を走り込む理由が見えないエンペラーのメンバー達。

「俺とバトルする為に決まってるだろ」

はぽりぽりと頬をかいている。

「はぁっ!?」

にとっては幸いだが、彼らは に関する数々の噂を聞いた事がない様だ。

「涼介とのバトルの後、コイツに赤城で負けた」

再戦の理由を簡潔に述べる。

「何ィ!??嘘だろ」

ざわつくメンバー。

「俺はそれで充分勝負はついたと思ったんだがな」

京一は を見下ろす。
その視線を受けた はキッと相手を睨む。

「あんなんでつくワケないでしょ。ホームで勝っても自慢にもならないわ!」

既にその瞳はバトルモードに突入している。
つい数分前まで見せていた笑顔はどこへやら。
思わず目を奪われる笑顔の少女は跡形もなく消えている。
今、目の前にいるのは闘志を剥き出しにした獣の様な少年。そう見えてしまう。

「まぁ、その気持ちはわからないでもないが…。とにかく始めるか」

の変化に苦笑を浮かべて頭をポンポンと撫でた。
呆然とやりとりを見ていたメンバーをよそに二人は愛車へと乗り込んだ。
スタートラインに並ぶ黒いエボVと青いFD。
気付いたメンバーがカウントを取ろうと近づこうとする。
が…。
2台はカウントを取らずに、しかし全く同時に走り出した。
FDが先行し、エボVが後ろに張り付く。

「マジでおっぱじめやがった…」
「あの子、本当に京一さんに勝ったんスかねぇ」

未だ半信半疑のメンバー。

「京一がそう言うからには本当なんだろ。俺だって信じられねぇよ」

小さくなってゆく2台から目を離さずに吐き捨てた。
確かに一見走り屋に見えない が相手なのだから疑いたくなるのもわかる。
だが…あの の豹変振りを見てしまうと、京一と張り合うには充分な走りが出来そうだと思えてくるのだ。
一方、街灯が照らす夜道を疾走する2台。
スタート時と変わらなく、FDが先行している。

「京一らしいね。でも私は張り付かれたからってプレッシャーを感じる様なタマじゃぁないよ〜」

楽しそうに前方を見詰めた。
盛大なスキール音を響かせてコーナーに攻め込む。

「相変わらず女とは思えねぇ突っ込みしやがる。昨日1日しか走り込んでねぇクセにベストラインに乗せてくるあたりは流石 と言ったところか」

京一も口の端を上げてどこか楽しそうだ。

「だが此処は俺の走り慣れたホームコースだ。そう簡単に勝てると思うなよ」

 

 

「誰か下にいたっけか?」

そろそろ決着のつく頃だろう。

「いくらなんでも負けるワケねぇだろ」

清次は言い切る。
言い切ったが…もしや、という気持ちも捨てきれない。
どこか計り知れない物を感じた気がした。
あの藤原拓海に近い雰囲気。ガラリと空気がかわる人物。

「せ、清次さん!」

メンバーの一人が走り寄ってくる。

「何だ、騒々しいな」
「下にいたヤツから連絡入って…」

 

 

「ちっ。結局お前の勝ちじゃねーか」

黒いランエボに寄り掛かって溜息を吐く。

「勝ち!?莫迦言わないでよ、同着じゃん」

は不満そうに吐き出した。

「ホームで同着なんざ負けも同然だ」
「そうかもね。ま、これで拓海に並べたかな?」

可笑しそうに笑う。

「たくみ?」
「忘れたわけじゃないでしょ。ハチロクの藤原拓海よ」

そう言うと煙草に火を付ける。

「アイツと知り合いか?」
「知り合いも何も、親戚」

紫煙を吐き出す。
京一は面食らっている様に見える。

「あんま拓海苛めないで欲しかったなぁ。まぁ、そのうち返り討ちに合うでしょうけど〜」

カラカラと笑い出す。
拓海に負ける京一の悔しがる姿でも想像しているのだろうか。

「はぁ…。で?アイツとバトルくらいした事あるんだろ?」
「ない」

ピタリと笑いを止めて言い放つ。

「な、ない??」
「遊びで煽って追いかけっこくらいならね、中学の頃に。拓海の方は今でも私には適わないと思いこんでるみたいだけど」

昔は車の勝ち負けなど気にも止めなかった拓海が悔しそうな表情で当時の話をしたのを思い出す。
随分走り屋として成長したものだ。
負ける悔しさを感じるなど。

「今はどうだろーね。レッドサンズとつるんで走り回って、京一とバトルして…私も少しは速くなったかな」

ふと不敵な笑み。
今度は拓海と自分のバトルを想像しているらしい。

「まぁ、あまり無茶な事はするなよ」

普段は決して見せない優しげな笑顔を向けるとそっと髪を撫でた。

 

 

 

流石に県外の情報がこんなに早く伝わってしまうとは思ってもみなかった。

「行くなら一言声かけろよな〜」

見たかったのに、と愚痴る啓介。

「俺も同感だな」

涼介は腕を組んで を見下ろす。

「ギャラリーは少ない方がイイ」

空になった煙草の箱を握り潰す
どうせ噂は広まるんだし、と付け加える様に呟いている。

「ここは一つ、俺とも是非バトルして頂きたいな。お姫様?」

極上の笑顔で誘いをかける涼介。

「あ!ズリィよアニキ、俺だって と走りてぇって」
「どっちもお断りよ〜っだ!次の相手はもう決めてるんだから♪」
「「何?」」

兄弟は揃って を凝視する。

「ふふふvvハチロクVSハチロクって興味ない?」

ふわりと微笑む。
バトル嫌いの らしからぬ爆弾発言を残して青いFDはダウンヒルに消えた。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

取り敢えずさっさと京一との勝負を終わらせてみた
早々に白黒つけておかなきゃねぇ
でも相変わらずバトルシーンはいい加減ですなぁ(汗)
でもヒロインってば次のバトルの事考えてるみたいだね
ああ、とうとうこの二人が勝負かぁ…
なんとか面白いバトル書けないかなー
努力してみまふ……

−2003/1/29−