「お前何考えてんだよ!」
案の定怒られた。
「何故一人で妙義なんかに行ったんだ?」
あれ、涼介もご立腹モード?
いつもなら啓介をなだめるだろうに。「何を考えてる?走る事よ。何故?走りたいからよ。聞くまでもないでしょ」
ケロッと答えてやる。
この気持ちは二人にだってわからなくもない筈。「… も走り屋だからな。確かに聞くまでもないかも知れないが、走り屋である以前に女の子だという自覚も持った方がいい」
真顔の涼介は言う。
まぁ、それは私も思ったよ、うん。「また妙義に行くつもりがあるなら俺に一言言えよ。一緒に行くからな」
私の両肩にポンと手を置いて顔を覗き込んでくる啓介。
"妙義"に、ね。内心ニヤリ。「次に妙義に行く時は啓介か拓海にでも同行頼むって…。もぉ怒んないでよ〜」
シュン…として見せる。もち演技vv
「いや、怒ってるワケじゃない。次からはそうしてくれ」
うーん、涼介が呆気なく騙されたぞ。意外や意外。
よっし!碓氷へ行きますか♪
嘘はついてないよ?"妙義に行く時に同行"って言ったもの。…ニヤ。
もう一人の天使
妙義に足を運んだ翌日の晩。
赤城で高橋兄弟に説教を食らってしまった であるが、懲りないのかその翌晩には碓氷へとやって来ている。「あんまり遅くなると碓氷へ行く可能性がある事に気付かれるもんね〜」
鼻歌を歌いながら碓氷峠を登る 。
妙義と違い狭い道幅。「面白そうなコースだな〜。遠くなければ通いたいくらい」
元々赤城がホームである 。
自宅から碓氷は距離があり過ぎて通い詰めるのは少々面倒だ。
やがて碓氷のスタート地点へと辿り着く。
とすれ違う形でコースに飛び出して行く車を見やる。「誰かの後ろにくっついて行った方が確実かな?結構難しそうなコースだし」
そう呟くと走り出しそうな車はいないか見渡した。
「!!」
タイミング良く走り出そうとしている1台を発見。
「獲物発見vv」
しめたとばかりに舌なめずり。
すれ違った次の瞬間、FDは勢い良く方向転換。
置いて行かれぬ様にすぐさま追いかける。「ん?顔見た時はシルビアかと思ったけどオシリは180SXだ。これがシルエイティってヤツか」
へ〜と感心している。
前を走るブルーのシルエイティは最初のコーナーに入ると加速した。
続けて も加速する。
いくつものコーナーを攻め抜ける2台。
FDはシルエイティに付かず離れず適度な距離を保ちながらついて行く。
あまり接近し過ぎれば相手にプレッシャーをかけてしまうからだ。
バトルをしているつもりはない、との主張でもある。
あくまで手っ取り早くコースを知る為の道具に使いたいだけなのだから。
「真子」
「わかってる。凄いね、あのFD」シルエイティの車内。
バックミラーに映る のFDをチラチラと見やりながら走る真子と沙雪。
一定の距離を取ってついて来るFDの走りに舌を巻いている。「アレが噂のハチロクとFDを操る女の子ね」
沙雪は面白そうに口の端を上げる。
「まさか碓氷にまで来るなんてね。でも次はどうかしら」
この先に待ちかまえているのは碓氷最大の難関、C121コーナー。
よほどのテクがなければ制覇するのは困難である。
風を切り2台は難関C121コーナーに差し掛かった。
シルエイティがドリフト状態になり、一瞬遅れてFDもドリフト状態に入る。「び、びっくりしたぁ〜。何今の!?突っ込み過ぎたと思ったのに…」
の突っ込みの凄さに驚く沙雪。
初めてのコースでもやはり の突っ込みは切れているらしい。「でも問題はこの後よ」
真っ直ぐ道の先を見詰めている真子。
そう、このコーナーは出口に向かって狭くなっていく為に立ち上がりでベストラインに乗せられるか否かが重要なのだ。
真子のシルエイティは綺麗にラインに乗せて行く。
続く は……「「!?」」
二人が驚くのも当然。
は易々とベストラインに進入している。
余裕すら感じられたくらいだ。「信じられない…私達以外の女の子がここまで碓氷を攻められるなんて!」
「ちょっと、あたし安心したよ。これがバトルじゃなくてさー」
碓氷のゴール地点。
端には2台の車が止められている。
ブルーのシルエイティとFDだ。「へぇ、ほんとに女の子なんだ〜」
感心した様に沙雪。
実際に見てみるまでは信じられなかったのだろう。
あんな走りを見せられては。
確かに の走りは男勝りで女性的な細さも繊細さもない。
力強くダイナミックな走りをする。「え、ま、まぁ…」
「噂はかねがね。バトルするならギャラリーに行こうと思ってたんだけど…そういう噂は全然聞かなかったから。会えて光栄だわ」にっこりと微笑む真子。
はその笑顔に緊張を解かれる。「こちらこそ。お二人の素晴らしい走り堪能させて頂きました」
にぱ、と子供っぽい笑みを浮かべる。
「あ、あたし沙雪。こっちは真子よ。宜しく」
思い出した様に自己紹介する沙雪。
「 です」
「いやぁ、でもほ〜んと驚いたわ。C121コーナーを1発でベストラインに乗せてきたのって拓海君と ちゃんくらいだよぉ?」沙雪は降参ポーズで戯けてみせる。
「拓海?」
眉をひそめる 。
「ああ、秋名のハチロクのドライバーよ」
真子が親切にも教えてくれる。
しかし が聞きたいのはそこではない。「そうじゃなくて…拓海、碓氷に来た事あるんですか?」
「ええ夏に。あまり話は広まってないみたいだけど、バトルして貰ったの」それがどうかしたの?と首を傾げる真子。
「ふぅん…拓海ってバトルの話なんてしてくれないモンな〜」
そう言って口を尖らせる。
「え、ちょっ!拓海君と知り合いなワケ!?」
に飛び付いて来る沙雪。
「え…ええ。親戚です」
「「親戚!?」」二人は目を剥く。
「この家系の遺伝子ってどうなってんのよ…」
(どっかで似た様なセリフ聞いたなぁ)
そんな事を思いながらカリカリと頬をかく。
「ふふ…その仕草見るとほんと血の繋がり感じるわね」
「あーそう言えばそうね〜。拓海君もそんな風に頬かいてたよねぇ」二人で を見詰める。
「……あのぅ。そんなに見られると…なんか照れます」
元来の人見知りが顔を覗かせる。
そんな を見た二人は顔を見合わせて思った。((可愛いー!))
「あーもぅっ!こんな妹欲しかったわ〜」
沙雪はそう言いつつ を抱き締める。
「ほぇ?」
「あっ沙雪だけズルイ!」頬を膨らませる真子。
「え、え…?……ん〜私もこんなお姉さん欲しかったかも〜♪」
最初は戸惑ったが取り敢えず乗ってみる 。
「沙雪姉と真子姉ーvv」
更に調子に乗る。
「 ちゃん可愛い〜」
真子は嬉しそうな笑顔で の頭を撫でている。
「…そう言えば、 ちゃんていくつ?」
はたと気付いた沙雪。
「拓海と同じ18!」
笑顔で答える 。
だが真子と沙雪は絶句するしかない。
今更だが のFDには目立たなく若葉マークが付いていたりする。
免許を取得したのが夏休み始め。
まだこの先10ヶ月は貼っていなくてはならない。
本当は5年以上のドライバー歴を誇るのだが…。「あ!私もう帰らなきゃ。朝の仕事に差し支え出ちゃうっ。じゃ、また来るね〜」
ぶんぶんと手を振ってFDに乗り込む 。
「あ、う、うん…」
「またね〜…」呆然としながらも手を振り返す二人。
「まさか拓海君の時と同じ衝撃を味わう事になるなんてね」
「うん…でも、負けてられないね。私達も」真子と沙雪は遠ざかるFDのオシリが見えなくなるまで見送った。
++後書き…もとい言い訳++
ヒロインと拓海は結構似たもの同士です
と言うか拓海を小悪魔っぽくしたのがヒロイン?
まぁそんな感じで…
で、今回インパクトブルーの二人に気に入られたヒロイン
妹分にはなれそうもないね
気の強さじゃ沙雪に負けない、ドラテクじゃ真子に負けない…これじゃね(笑)
とにもかくにも峠の天使3人目ってお話でした♪−2003/2/13−