啓介が店にねぇ。
何か用でもあったのかな?
んー…電話でもしてみよーかな。

 

 

 

 

相談

 

 

 

 

「もしもーし、啓介?私、私ー、 だよ」

店から家に戻り、自室に入った瞬間に切っていた携帯の電源を入れて即啓介へと電話を繋いだ
さして長くもないコール音の後、聞き慣れた声が耳に入った。

『あぁ、 か。何だ?』
「叔父貴に聞いた。店に来たんだって?ゴメン、配達に出ててね」
『ああ、お前の叔父さんに聞いたぜ』
「あ、聞いた?うん、で、今帰って来たトコ」
『そっか。ごくろーさん、おかえり』

何気なく言った言葉なのだろう。啓介はいつもの口調でそう言った。
しかしそれを受けた は…

「え、あー…ただいま」

盛大に照れていた。
一人暮らしが長く、そんな言葉など久しくかけられていないからだろうか。

『んだよ、照れんなよ。コッチまで照れんだろ!』
「えー、だってさ。うん、ま、いいや。で、何か用だった?」
『…いや、別に用って用はないんだけどな。ヒマだったからよ』
「なんだ。あ、でも暇なんだ?今も?」
『ん?まぁ何もする事ねぇな』
「んじゃウチに来ない?ちょっと啓介に聞いて欲しい事もあるし」
『聞いて欲しい事?何だよ』
「直に言うよ」
『あっそ。んで、お前のウチってドコだよ?』
「へ?知らないの?店知ってるからてっきり知ってるかと思ってた」

はおかしいなぁ、とでも言う様に小首を傾げている。

『知らねぇよ。店の近所なのか?』
「うん、隣」
『隣って…あのボロい家か?』

啓介の記憶では店の隣に随分古くさい家が建っていた筈だ。

「そりゃ叔父貴の家!逆よ、逆っ」

あんなボロ家に誰が住むか!と は強く言い返す。
家自体はそう古いワケではない筈なのだが、何故か汚れが目立つ家なのだ。

『逆隣って…あのデカイ家か!?』
「そ。来れる?」
『ああ、すぐ行く。つーか、あそこに一人で住んでるなんて贅沢だよなー』

喋りながらも立ち上がったのだろう。
電話の向こうからは小さく物音が聞こえてくる。

「そーかなー?」
『ま、いーわ。今から行くから待ってろ』
「うん、じゃ、後でね」
『おぅ』

チャリチャリとキーを弄ぶ様な音が聞こえてからプツリと通話は切れた。

「さて、店行ってケーキでも貰って来ようかな」

お茶請けに使おうと叔父の作るケーキを思い浮かべ、 はニヤリと笑んだ。
お代は…‥毎朝の配達で返されるのだろう。

 

 

 

 

 

店からケーキを強奪し、お茶の準備が済んだ はガレージを開けている。
啓介に聞きたい事と言ったら車の事以外は有り得ない。
その為には実車を見ながらの方が話しやすいと考えた は、愛車をガレージからその前の駐車スペースへと移動させようとしていた。
ガレージが開き、真っ暗だった内部に光が入る。
そこには蒼く輝くFDの顔。
思わず笑顔になってしまう 。彼女の愛車に対する愛情の表れだろうか。
フロントを一撫でし、キーレスでロックを解除する。
素直に を迎え入れたFDは差し込まれたキーによって心地よい声を上げた。
ロータリー独特の、 の大好きな音だ。
はバケットシートに深くもたれ瞳を閉じてその音を堪能。
ターボタイマーが時を知らせるまでのいつもの過ごし方だ。
そのひとときが過ぎると、サイドブレーキを解放しニュートラルの位置にあるギアをローに入れゆっくりとクラッチを繋ぐ。
するりと走り出すFD。
ガレージから出た所でブレーキが踏み込まれ、静かに停止した。
サイドブレーキを引いてニュートラルに入れた所でもう一台分のロータリーサウンドが加わった。
啓介の到着だ。
は車外へ出ると、青いFDの隣を指差した。
ガラス一枚隔てた向こう側の啓介はその意図を理解し頷き返す。
黄色いFDは青いFDの隣に並べられる様に駐車され、そのドライバーである啓介も姿を現した。

「いらっしゃーい」
「よ。…はー、立派な駐車場だなー」

片手を挙げて笑顔を向けたと思えば、すぐに周囲を見渡した啓介は感嘆の声を上げた。
ゆうに三台は停められるであろうガレージとその1.5倍はあろうかという駐車スペース。
そこに収められるべき車は のFD一台きりだ。

「そりゃそうよ。この家建てたの走り屋だった父さんよ?」
「あー、そうだよな」

納得した様な言葉を吐いた啓介はガレージの中を覗き込む。
そこには工具やらスペアタイヤやらパーツの類がゴロゴロしている。

「げ、すっげぇな、こりゃ」
「でしょー?」
「そういや は自分で車いじるんだもんな」
「うん、でね、話ってのもFDの事なんだけどさ。いい?」
「ああFDの事か、いいぜ」

啓介はガレージに向けていた体を に向ける。
その言葉を聞いた はガレージの中から折り畳みの椅子を持って来た。
二人でそれに腰掛け、話を始めた。

「ちょっとさ、迷ってて相談したかったんだ。私の走りは啓介も良く知ってると思うけど、結構突っ込み凄いじゃない?」
「ああ。あれには俺もビックリだ」
「あはは。ま、パワーのないハチロクに乗ってたが故なんだろうけどね。
それで思ったんだけど、このまま走ってたら車体が歪んで来るんじゃないかなーって」
「…そういやそうだな」
「それで剛性をもっと上げようかと思ったんだけど…。問題はそれだけじゃないのよ。
ハイスピードで突っ込むから車体浮きそうでコントロールもシビアでね。ダウンフォースももっと効かせたいの」
「だったらそうチューンしたらいいじゃねぇか。何で悩むんだよ」
「もー!一気に出来ないからどれを先にやればいいのか困ってるから相談してるんでしょーっ」

むっとして啓介の腕をバシバシと叩く

「痛ぇって。そうならそうだって言えよ。そういう事なら俺よりアニキに聞いた方がいいんじゃねぇの?」
「同じFD乗りの意見が聞きたかったから先に啓介に相談したんじゃないの」

プイと向こうへ顔を向けてしまう
啓介はガシガシと頭を掻きながら考える。
そういう事を考えるのは苦手なんだけどな、という言葉を飲み込んで。
しかし兄より先に頼ってきて貰えたのは嬉しい事だ。
思わずニヤけてしまいそうになる顔を引き締める。

「あー…俺が見てた限りじゃコントロールは危なげないし、先に剛性上げちまえば?車体は歪んだらそれでおしまいだし」

それを聞いた はそろそろと啓介の方へ顔の向きを戻した。

「そう?やっぱ剛性が先?…そっか。じゃ、そうする」
「一応アニキにも相談してみろよ」
「うん、そうするよ。ありがと」
「お、おう」

嬉しそうに微笑む に照れた啓介はまたガシガシと頭を掻いた。

、お前ってさ、ほんとFD大事にしてるよな。俺だったらわかんなきゃ色々試しまくるだろーし」
「あんまりアレもコレもって取っ替え引っ替えしたいないもん。
吟味して本当に必要で適切な物か見極めたいし。あーでも啓介はいいなぁ。頼れる兄がいて」
「あ?アニキいただろ、
「帰って来ない人の事言ったってしょーがないでしょ…」
「全然帰って来ないのか?」
「うん。もう戻って来ないよ。ま、私のせいだから自業自得なのかも」
「いやにハッキリ言うんだな」

思わずしゅんとしてしまった の頭を撫でる啓介。
も抵抗する事なくそれを受け入れている。

「兄貴ってさ。医大生だったの」
「医大生!?マジで?へぇ、頭良かったんだな。さすが のアニキ」
「そう思うでしょ?ところが兄貴って努力の人でね。ギリギリで大学入った様な人だったの。
…だから結構ついていくの必死だったし。逆に私は何でもこなすから劣等感も強かったって後から知った」
「ふーん、俺はアニキ頭良くて俺が出来悪いけどさ、全然気にしねぇ」
「それは啓介だからでしょー?」

くすくすと笑い出す

「あ、なんだよ、失礼だな!」
「まぁ、そのせいでいなくなっちゃったワケなのよ」

開き直った様に言い放った
言い終わると同時にスッと立ち上がる。

「折角FD出したのに必要なかったみたいだね。エンジン切っちゃおうよ。お茶くらい飲んでくでしょ?」
「あぁ…って普通女の一人暮らしの家に男上げるか?」
「涼介は上がったよ?それも風邪ひいてる時に」

は悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。

「…お邪魔させて貰おうじゃねーか」

ささやかな対抗心の生まれた啓介は と同じ様な笑みで返す。
そうしてロータリーサウンドの消えた 家のリビングではささやかなお茶会が開かれたのであった。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

かーなーり!久々の更新になります
激しくお久しぶりです。覚えておいででしょうか…
自分が免許を取り、イニD4th1巻を見て、意欲が出てきまして漸く続きを書けました
涼風自身結構書きながら戸惑ってましたよ…
ヒロインの口調とかどうだっけー?トカ
今回はヒロインが啓介に相談事。そして兄の話です
なんとヒロイン兄は涼介と同じ医大生であったと判明!
しかもヒロイン嫌われている?避けられている?
真実はいずれ…

−2004/8/16−