啓介のお陰で踏ん切りついたわー。
涼介にはオススメのメーカー教えて貰えたし。
さっそく剛性アップしてみたんだ♪

 

 

 

 

ハチロクからFDへ

 

 

 

 

夜も更けた秋名の峠道。
この時間帯になれば通る車もなく不気味な静けさを湛えている。
そんな峠道を流れる様に登って行く青黒い影。
この界隈では言わずとも知れた のFDだ。

「とりあえずは試走してみないとねー。結構ゴツイの付けたし、多少重くなってるだろうしね」

峠を攻めるのだから少しの重量の変化も見逃せない。
それを把握していない為にクラッシュ、という大惨事は引き起こしたくはない。
はその変化を探る様に軽く流しながら頂上へと向かって行く。
やがて頂上に着いた は丁寧に停車。
ギアをニュートラルへ入れるとサイドブレーキを引いて車外へと出る。

「…あれ、誰もいない。赤城じゃこんな事ないもんなー。行けば誰かと会うもんね。
ま、拓海が表に出て来るまではマイナーなトコだったし、平日なんてこんなモンかな」

真っ暗な山の中に一人でいる事などとうに慣れている はいつもと変わらない口調で独り言をもらす。
突っ立っていても仕方がないと は再び愛車のバケットシートに沈み込んだ。
ドアを閉めようとしたところへ届いたエキゾースト。

「誰か来たみたい。ちょっと待ってみるか」

誰なのかわからないのでドアを閉め車内で待つ事にする。
少しずつ近付いて来る音。どうやらターボ車の様だ。
漸くその姿が露わになる。現れたのは白い180SXだ。
どこかで見た事がある様な…

「あ!確か池谷さんの友達だ」

以前、黒いハチロクでこの秋名にやって来た時に会ったスピードスターズのメンバーである事を思い出す。
FDと180SXのドアが開いたのは同時だった。

「あ、やっぱり君か。えーと、 ちゃんだよね」
「はい、こんばんは。健二さんでしたよね」
「ああ」

にっこり微笑まれた健二はドキドキしっぱなしだ。
まさか と二人きりで話をする機会が巡ってこようとは思いもしていなかった健二は内心ガッツポーズだ。

「秋名でも走ってるの?」
「あ、いえ、普段は赤城へ行くんですけどね。今日はちょっと試走したかったから落ち着いてじっくり走れるトコがいいかなって思って」
「試走って…どっかいじったんだ?」
「気兼ねなく突っ込める様に剛性を上げただけですけど。少し重くなってるだろうから…」
「あー、そっか。んじゃ ちゃんの走り、じっくり堪能させて貰おうかな」

せっかく秋名で走ると言うのだから鑑賞させて貰わなくては損だ。

「わー、あんまり見られると緊張しちゃいますね〜」
「またまた〜。いっつも見られてばっかなんじゃないの?」

大袈裟なリアクションをとる
健二は幸せを噛みしめつつ返事を返す。

「じゃ、行きますか」

のその言葉を合図に待たせていた相棒に乗り込む二人。
二度三度蒸せてから青と白のマシンは峠を攻め下りた。
重量変化を見極める為にいつもより大分遅い速度で走るFDと、なんとか置いて行かれない様にと必死に食らい付いて行く180SX。
一本下りきる頃には数台分の差が開いていた。

「あちゃー…もっとゆっくり走ってあげるべきだったかなぁ?」

一足早く車外に出ていた は思わず呟く。
レッドサンズの二軍でも楽に勝てる相手と称されるレベルだという事をすっかり忘れていた だった。
今夜の目的はマシンの変化を掴む為で速く走る必要はないのだから。
二台は続けて上りも攻め、頂上へと戻って行く。
案の定、先に到着した は外へ出てFDに凭れる様にして健二を待つ。
遅れてやって来た健二は の側へ歩み寄る。

「いやー、やっぱ速いなー。堪能するどころじゃなかったよ。自分の事で精一杯だ」

まいったまいったと額を叩いて見せる健二。

「まぁ、周りに言わせれば私も拓海もどっか切れてるらしいですからね。血と英才教育の成せる技、かな?」
「ドラテクの英才教育か。いいなぁ、俺も受けてみたいもんだよ」

苦笑する と羨望の眼差しを送る健二。

ちゃんって、将来はそっちの道に行くの?拓海はなーんも考えてなさそうだけど…」
「私が目指す道は全然別。コッチは完全に趣味の範疇」
「そうなの?勿体ないなぁ」
「サーキットは見るだけで充分楽しめるもの。私が走りたいのはストリートだから」

そう言ってついさっき走り抜けて来た道を真っ直ぐに見詰める
その瞳は真剣で、本当に
趣味程度の物に向けるものなのかと、そう思ってしまう程に強さを感じさせる瞳だった。
健二は生唾をゴクリと飲み込み、暫しの間呆然とそれから目が離せなくなった。

あの子と一緒に走って、この世界を知って、走りを教えられて、好きになった。今度はこの子と一緒に走り続けたいんだ」

は視線をずらし、青く綺麗に磨かれたFDに微笑みを向ける。

「あの子…って、あの黒いハチロク?拓海とのバトルでブローしたっていう」
「そう、そのハチロク。あの直後は結構凹んでたなー…。最近漸く立ち直ってきた感じ。今はハチロクで得た物をFDで発揮出来る様にするだけだね」

吹っ切れた様な笑顔を見せる。
気遣っていた筈の口調もいつの間にか砕けたものに変わっている。

「そうか、頑張れよ。…って俺も頑張らないとだよなー。情けないにも程があるよ、ほんっと」
「じゃあ景気付けに、FDのナビにご招待!ってのは如何でしょう?」
「えぇっ!?マ、マジ?」

小悪魔的な笑みを浮かべ、大仰な物言いで提案する
それに対する健二の反応も大きい。ただ、 の笑みの裏には気付かなかった様ではあるが。

「嫌なら別に。無理にとは言わないし?」
「ぜ、ぜぜ、是非ッ、是非とも乗せて下さい!!」
「ぷっ。じゃあどうぞ♪」

慌てる健二を見てクスクスと笑う 。健二はハッと我に返り赤面するしかない。

「イジワルなんだな、 ちゃんて…‥」
「だって健二さんって反応素直なんだもん。つい面白くって」

そう言いながら二人はFDに乗り込んだ。
流石にナビに人を乗せている状態では全開走行は出来ない。
が、かつて拓海が池谷を乗せた時の事を考えれば容易に想像は付くだろう。
当然、秋名の峠に絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。

「あー、ほんと面白い♪」

悪びれもなく言ってのけた の背に、悪魔の羽根が見えた健二なのであった。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

何故か、今回は健二がお相手(笑)
いや、健二夢って少ないよなートカ思ったら絡ませてみたくなっただけなんですがね
なんとなく純情なイメージがあるのでほのぼのして貰いましたv
そしてさり気なくヒロインの心の決着も書いてみたり(ハチロクの件)
短いけど…ま、次回長くなりそうなんで勘弁してやって下さいな
そうそう、僕、重大なミスに気付いたんです…;;
前回、啓介がヒロイン宅を知らなかったとなってますが、拓海とのバトルの後に自宅まで送って行ったのって啓介なんですよね
こりゃ有り得ん!!自分でもビックリだよ、阿呆だー
長期間書いてなかったツケがこんな形で現れるとは…最悪ッス〜(T-T)
バトルの時は店の前まで送って行ったんだ、という事にでもしといてやって下さい(しくしく)

−2004/8/23−