そりゃ、そのうち来るなとは思ってたよ?
でもまさかこんなに早く来るなんて思ってなかったよ…
しかも、なんか、強引だし?

 

 

 

 

ストレートアタック

 

 

 

 

スキール音が響き渡る赤城山。
昨夜の秋名山の静けさが幻であったかの様な光景だ。
そしてヒルクライムを攻める車の中には のFDの姿もある。
いつも通り赤城で走ろうとやって来た は、レッドサンズ集まる頂上を目指していた。
軽やかに他の車を追い抜き、誰も寄せ付けない。
そんなFDのバックミラーに光が映り込む。

「速い…。誰だろ、涼介かな?啓介かな?」

他に自分と渡り合える者など赤城にはいない為、思い付くのはその二人くらいだ。
もっとも、走り屋を引退した涼介が自らの運転でやって来る事など稀なのだが。
はチラチラとバックミラーを見ながら走る。
やって来た車のボディカラーは白。
涼介か、と思ったのは一瞬で、すぐに気付いた。
背後の車のヘッドライトはリトラクタブルではない事に。
そしてハッキリその姿を確認した瞬間、嫌そうに呟いたのだった。

「秋山渉だ…」

先日、ウェディングケーキの配達で行って来た埼玉での寄り道先、正丸峠で会ったハチロクレビンに間違いはなかった。
ただでさえハチロク乗りは少ないのだから。
嫌な予感を抱きながらも、皆が待っているであろう頂上へ向けて走り続けた。
当然、少しばかり人付き合いが苦手な は知り合いとは言い難い渉を避けたい。
停車するなり目に飛び込んだ啓介の背後へ逃げ隠れてしまう。
事情を知らない啓介は、車を降りるなり自分の元へ駆け寄り背後へと回った に首を傾げるしかない。

「…おい、 。何やってんだ?」
「……‥」

は返事もせずにただ一点を見ている。
啓介もそちらの方へ目を向けると、そこには見覚えのある車と男の姿があった。

「お前、アイツと知り合いだったっけか?」
「ンなワケないでしょ。叔父貴の使いで埼玉行った時に会っちゃったんだってば」
「会った、って…。アイツはお前の事知ってたのか?」

群馬では知名度の高い も県外でもそうだとは言えない。
それも顔まで知っているという者は少ないのだ。
啓介もそれを疑問に思ったのだろう。

「正丸行ったら、ソコで」
「あー…それじゃ仕方ねぇな」

大人しそうにしていて走りには貪欲な 。出先でついでにと峠へ寄って来る事ぐらい安易に予想が付く。
彼ともそうして出会ってしまった、と。
と啓介が話しているうちに渉は既に目前まで来ていた。
しがみつかれる格好の啓介を一瞥し、 を見る。

「久し振り。って程でもないかな。約束通り会いに来たぜ」

フッと笑みを浮かべる渉。
は「そんな約束してないよ」とでも言いたげだ。
啓介の服を握り締める力が強まる。

「だから一人でよそへ行くなっつったんだよ」

呆れた表情を浮かべつつも、 を庇うかの様に頭を撫でる。

「だってー。昼間だったんだよ?誰かに会うなんて思わないよ」
「お前は何もしてなくても目立つんだよ…」

ましてやハチロクになんて乗っていれば峠の人間の目にも付き易くなる。
溜息と共に吐き出した啓介だった。

…いつまでそうしてるんだ?」

不満そうに言ったのは渉だ。
は更に苦い顔をする。
いつ、誰が、呼び捨てにしていいと言った!?と心の中で叫んでいる事は間違いなさそうだ。

「悪いな。コイツ、人見知りするからよ」

啓介はそう言って の肩を抱く。
嘲笑を含んでいた様に見えたのは気のせいだろうか?
普段ならさり気なく抜け出す も、今日ばかりは天の助けとそれを拒まない。
寧ろ密着度は増している程。
渉と啓介は睨み合っている。
レッドサンズの面々はハラハラと見守るしか術がない。
は苛々を持て余し始めている。
トントンと地面を打つ爪先のテンポが徐々に速まっている事からそれが窺える。
啓介もそれに気付き、抱いていた肩を解放した。
ここまで来れば の短気が爆発するのはすぐだ。
その読みは正しく、解放された途端に啓介の前へと一歩進み出た。

「私、秋山さんと会う約束なんてしましたっけ?」

嫌味な口調で放たれる言葉。
しかし渉は臆せず返す。

「俺はどこへ行ったら会える?って聞いたぜ。そしたら が赤城だと答えたんだろ。約束なんてそれで充分だろう」

その答えに はポカンとする。
なんとも都合の良い解釈ではないか。

「来た早々すぐに走りが見れるとは思ってなかったけどな。ハチロクでは走らないのか?」
「叔父の車だって言ったでしょう。私のハチロクはもうないもの…」
「わ、バカ! 、言うなよッ」
「むがっ」

つい余計な一言を言ってしまった 。それを慌てて制する啓介。
しかし渉の耳にはしっかり入っている。

「へぇ?自分でもハチロク乗ってたんだな」
「「……‥」」

と啓介は「しまった…」と顔を見合わせる。

「チッ。だけど が今言っただろ。もう、ねぇんだよ」
「ふん。そうだな、同じハチロク乗りなら嬉しいとこだが、そうじゃなくても興味があるな。 には」
「あーそうかい。でも残念だな。お前明らかに避けられてるぜ」
「人見知りするんだろ?だったら何度でも会って慣れていけばいいんだろう。それで問題は何もなくなるな」
は何度も会う気ないぜ」
「お前が会わせたくないだけだろ。 はそんな事言ってない」
「言わなくても顔に書いてあった!俺はわかるぜ!!」
「ほう?じゃあ、お前は の考えてる事が全部わかるってのか!?」

本人そっちのけでヒートアップしていく啓介と渉。
は少し後退した位置でしゃがみ込み、面白そうに観戦している。
既に自分の事である自覚はないのかも知れない。

ちゃん、いいの?あのまま言い合わせて…」
「うーん、いいんじゃない?私に被害が及ばなければ」

そろそろと近付いてコソコソと喋りかけてきたのはケンタだ。
それに習って もコソコソと喋り返した。
どこかあっけらかんと。

「「 !!」」

そこへ突然振ってきた声。
言い争っていた筈の二人が揃って を見ている。
ケンタは「ひぃ!」などと悲鳴を上げて元いた場所へと逃げ戻って行く。

「え…な、何よ、今度は」

結局一番の被害を受けるのは
二人に凄まれ後退っている。

「「俺とコイツとどっちを選ぶ!?」」

互いに指を指し、声を揃える啓介と渉。
息ピッタリだな〜、と見当違いな事を考えつつも口には出さずに済んだ。

「何でそういう話になってんのよ…」

辛うじて出た言葉はそれだった。

「当然、俺だよな!お前、コイツの事嫌がってたよな!?」
「ハッ、何を。俺は に走り屋としても女としても興味を持った。俺を選べよ」

ずずいっと迫る二人。

「さっぱり答えになってないし…‥」

小さく溜息をもらした
しかしすぐに良い案を思い付き、スッと立ち上がって爆弾発言。

「悪いけど、私にはもう選んだ相手がいるもの」

ふふん、と笑う
さっきまでの勢いはどうしたのか、二人は呆然と口を開けている。

「え、選んだ相手だとぉ?」
「ど、どこの何奴だ、それは」

動揺しているのか揃ってどもっている。

「さってと!デートよデート!!」

大きな声で言いながら、 は青い相棒へとさっさと乗り込んでしまう。
派手な音を上げてターンをしたFDはキビキビとした動きで二人の前で一時停車。
サイドウィンドウを開けた はウィンク付きで言った。

「よく言うでしょ?車が恋人って♪」

左手でステアリングを握り、右手で手を振りながら はダウンヒルを爆走して行った。
青い恋人の低いサウンドを残して。

 

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

渉ってストレートにぶつけて来そうだな、って思ったら書かずにはいられなかった(笑)
んで、啓介は張り合う相手がいればなりふり構わず攻めて来るんじゃなかろうかと
取られてなるものか!みたいな感じで
最近、渉がお気に入りなんだよねぇ
でも渉夢って結構少ないし
つー事で、今回に限らず彼には出しゃばって貰おうかな、と思ってますvv
誰と落ち着くかは最初の予定通りだけどね。はてさて、誰でしょう?(笑)
でも次回は別キャラで(ぇ)
てか、さ
最後の"青い恋人"って某お菓子みたいだよね(美味しいよね。涼風は大好きですv)
この場合はブルーベリークリームのラングドシャサンドあたりかな?(どうでもいいって)
しかし思った程長くならなかったなぁ。収拾付かなくなりそうでこうなちゃった☆

−2004/8/25−