詰まる距離 〜ステッカー〜
昼食時を少し回った頃。
食堂は少しずつ静かになっていく、そんな時間帯。
啓介は何人かの友達と喋りながらのランチをとっていた。「啓介さー、最近 と仲いいよな。あの人美人だけど付き合いにくそうじゃね?」
「そーか?面白いヤツだけどな。ころころ表情変わるし」友達の一人は不思議そうに言った。
それを聞いた啓介も不思議そうな顔をしてみせる。
啓介は峠で出会う前は の事を知らなかった。
故に周囲の人間が言う の人物像と自分の持つ の人物像が当て嵌まらないのだ。「は?嘘だろ、 っていっつも無表情じゃん」
「そうそう。話しかけてもクールに返してくるしな」
「真面目っつーか、堅そうっつーか」
「そうやって周りが を避けてるだけだろ。アイツはだれかれ構わずアイソ振りまくほど器用じゃないしな」先日赤城に引っ張って行った時の事を思い出す啓介。
改めて涼介やチームメートに紹介した時の はとても居心地悪そうにしていたのだ。
あまり人付き合いは得意ではないのかも知れないと啓介は思っている。「なんか理解しちゃってんねぇ。付き合ってたりするワケ?」
「何!?そうなのかよ!確かに横にいて自慢にゃなるよな」揃ってニヤニヤと笑う友達。
「アホか。付き合ってねぇよ。言うなら…仲間ってトコだな」
流石に が走り屋だと言うわけにはいかない。
だが、そうなるのも悪くはないな。
ぼんやりとそう思う。(って…何考えてんだ、俺)
ハッとして食事を再開する。
「仲間?って何の仲間だよ」
「っと、噂をすれば。あれ じゃないか?」の姿を見付けた一人。
おかげで言及されずに済みそうだ。
まさか「走り仲間だ」などと答えられるわけがないのだから。「ん?あぁ、そうだな。 ー!」
助かったと内心安堵しつつ、啓介は大きな声で を呼んだ。
呼ばれた はすぐに啓介を見付け返事の代わりに笑みを向けた。
自販機でパックジュースを購入し、食事のトレーを持って啓介の向かいに腰掛けた。「今からメシか?遅かったんだな」
「うん、教授につかまっちゃっててね。オナカ空いたっていうのに扱き使われちゃったわよ」わざとらしく溜息を吐いて、ジュースのパックにストローをぷしっと刺した。
そんな の様子に啓介の友達は顔を見合わせている。「あ、あのさ。 っていつから啓介と仲いいの?」
「え…ええと、ごく最近だけど」啓介に見せていた笑みは引っ込められ、硬い表情で は言う。
「 。お前そーゆー顔すっからカンチガイされんだぜ?わかってっかぁ?」
「そういう顔ってどんな顔よ」
「もー少し笑ってみぃよ。せっかくの美人が台無しだぜ〜」ケラケラと笑いながら の頬を軽くつねる。
言われた は自覚はあるのかむうっとして啓介を睨んでいる。「余計なお世話よっ。ほっといて!」
ぷいっと横を向いてちゅるちゅるとジュースを飲み始める 。
「ホラな、俺が言った通りだろ」
「信じらんねぇ…」
「クールなヤツかと思ってたけど全然違うんじゃん!」それぞれ驚いている友人達。
それを見た はハッとして再び啓介を睨み付ける。「睨むなよ」
「啓介、狙ってたわね?」
「引っ込み思案気味な ちゃんの為に一肌脱いでやったんだろ」
「嘘ばっかり!そうやって私の事オモチャにしてるでしょう?」
「してねぇよ。いい機会だから友達作れば?お前とお近付きになりたいヤツなんてゴマンといるぜ」
「それって男だけじゃないの?これ以上余計な事したら涼介さんに言いつけるから」
「なッ!お前の為って言ってんだろ。大体アニキにはカンケーねぇし!」
「聞こえなーい」慌て始める啓介をよそに は食事に取り掛かる。
啓介が目の前でギャーギャー喚くのも気にせずにただひたすら食べ続ける。「なるほどな。啓介が面白いって言うだけある」
「ああ。誰だよ、 がクールで近寄りがたいなんて言い出したの」
「ちょっと頑固そうな感じもするけど、それもまたイイ味出してて可愛いよなー」啓介の友人達は互いに感想を言い合う。
しかし と啓介はお構いなしに食事を取りつつも言い争っているままだ。「ま、この様子じゃ啓介に持ってかれるのも時間の問題だよな」
「気付くのが遅かった分、啓介にリードされてるしな」
「つーかこいつらこのままにしてていいワケ?」
「ほっとけ、ほっとけ」友人達は各自トレーを持ってぞろぞろと食堂を去って行った。
「あぁ!?オイ、 のせいで俺置いてかれたじゃねーか!」
「私のせいなの!?知らないわよ、そんなの!」啓介が友達の姿が消えている事に気付いたのは、言葉が尽きて言い争いに終止符が打たれてからだった。
「あーもう下らない事言ってる間に次の講義始まるじゃない」
腕時計で時間を確認した は呟いた。
それを聞いた啓介は自分のカバンを に渡し、自分と のトレーを持って立った。「先行ってろ」
「時間ギリギリだから急いでね」
「わかってるよ」は自分のカバンを肩に、啓介のカバンを抱く様にして走り出した。
講堂に入ったのは講義開始一分前。
は出来るだけ扉に近い場所に開いている席を探して着席する。
啓介がやって来たのは講義が始まる僅か数秒前だった。
「なんだか意味もなく疲れた気がするわ」
講義が終わって一番に吐き出した言葉がそれだった。
今まで学内でこんなにドタバタした事があっただろうか。
それもこれも全て啓介と親しくなったが為に。「やっぱりバトルしなきゃ良かった」
「なに言ってんだよ、今更。大体なー、気が乗らないからって走り屋がバトル断るか?普通」
「普通だろうが異常だろうが知った事ですか。無理矢理バトルしたって楽しくないもの」ハッキリと言い切る に肩を竦めて見せた啓介は二人分の荷物を持って歩き出す。
も一歩遅れて歩き出した。
建物を出た所で が口を開く。「どこまで私のカバン持って行くつもり?」
「あ?ああ、悪い。でも帰るんだろ?だったら行き先は一緒じゃねーか」確かにそうだ。
二人とも車での通学なのだから向かう先は駐車場しかない。
それならば持って貰おう、と心の中で思った は文句を引っ込め黙って啓介の横を歩いた。
やがて見えてくる駐車場。
やはり一番目立っているのは啓介のFDだ。
赤いレッドサンズのステッカーやパーツメーカーのステッカーが貼られたそれは群馬では知らぬ者はいない高橋啓介の愛車。「 のカレンは?」
「あそこ」黄色のFDからすぐの所に、流行りのミニバンに隠れる様にして のカレンはあった。
「…なんつーかさ。これ変だよな」
「変?この子が?どこがよ、失礼ね!」
「や、変な車だって言ってんじゃなくてさ。どう見ても峠仕様なのにステッカーの一枚も貼ってないんだぜ?すっげー不自然だって気付いてたか?」は首を傾げて自分の愛車を見詰める。
何も貼られていないツヤツヤのボディ。
いかにも走ってますという外見。
エンジンをかければ攻撃的な咆吼を上げるマシン。「不自然…なのかなぁ」
どこかのチームに入っているわけでもないのでチームステッカーが貼られていないのは当然の事。
メーカーのステッカーは貼ろうが貼るまいが好みだろう。「よーし、ここはひとつレッドサンズのステッカーでも貼ってみっか!」
「はい?何言い出すのよ。私はレッドサンズのメンバーでもなければ赤城の者でもないのよ!?」
「淡い青に赤だし充分見栄えもするぜ」
「私の話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。いいんじゃねぇの?アニキに言えば一枚くらい貰えるぜ」
「ぜーんぜん聞いてないじゃないのー!」憤慨する 。
啓介はケラケラと笑っている。「あーもー、帰る!カバン返してっ」
「いいぜ、ステッカーとセットでならな」
「いらないったらー」
「あ、そう?じゃ、これは俺が貰っとくか」啓介は のカバンを高々と掲げる。
とてもじゃないが啓介の長身で掲げられた物を奪い返すのは難しい。「いやードロボー。啓介が私のカバン盗ったー」
ピーピー騒ぎながら啓介の周りをグルグル回っては必死に手を伸ばす 。
啓介は盛大に笑っている。「ちょっとー!もういい加減にしてよ」
「あっははは、わ、悪ぃ」笑い過ぎて疲れた啓介は体を折って の両肩に手を置いた。
それはまるで啓介が を抱き寄せようとしている様な格好で。「あ…‥、悪い。つか赤くなんなよ」
「だ、だだ、誰のせいだと…ッ」
「俺のせいだな」フッと不敵な笑みを浮かべた啓介はそのまま を腕に閉じ込めた。
「でもこれは のせいだぜ」
( が赤くなんてなるから抱き締めたくなったんだからな)
「え、え?えぇ!?」
「あんま騒ぐとその口塞ぐぞ」そんな啓介の冗談に口をつぐんでしまう 。
啓介は微笑を送ってからそっと額に口付けた。こりゃレッドサンズのステッカーよりも俺のシルシになるステッカーでも貼っときてぇ気分だぜ。
++後書き…もとい言い訳++
書きたいなーと思ってたカレン乗りヒロインさんで書いてみましたvv
何も配布夢に使わなくても…トカ思ったけど、いいよね?いいよね?
でもこういうヒロイン書いてみたかったから自分的には満足。
普段は落ち着いた感じなのに実は子供っぽい女の子。好きだなー♪
可愛いよ、うん。
やっぱりカッコカワイイ子が好きなんだな、僕は。
あー、でも、続けて三話打ち続けたから腱鞘炎痛み始めてるけどね…(遠い目)
そうそう、ちょっと某競馬CMみたいな会話入ってるけどお気になさらず。
書きながら気付いたんだけど、それはそれで面白いから放置(いいのか?)−2004/9/30−