忙しい。
この時期の菓子店は。
そう、ヴァレンタインというヤツのせいで。
ぷれぜんと
「ちょっとぉぉぉっ!」
叫びわめく 。
周囲はチョコレートの甘ったるい香りに包まれている。「うるせぇな、 」
此方を睨んでいるのは店主であり叔父である人使いの荒い人物。
「何で私が手伝わなきゃいけないのよ!?」
キレる寸前だ。
「人手が足りねぇんだよ。つべこべ言わず作業しろ。仕事料に余った材料くれてやるって言ってんだろーが」
いつもの如く手伝いに借り出されているらしい 。
普段より忙し過ぎる流れに苛立っている。
しかしヴァレンタインとクリスマスは洋菓子店にとって最大の稼ぎ時。
怠けるわけにはいかないのだ。「余った材料貰えるなんて絶対得じゃない。頑張ろーよ、 ちゃん」
そう言ったのはバイトの女の子。
「…そりゃ自分で作るつもりなら、でしょ」
据わった目で手を動かす。
どうやら彼女は誰かの為にチョコやらを作るつもりはない模様。
相変わらず男より車なのだろう。「作らないの?店長に店の方に親しげな男の子来たって話聞いたのに。彼氏じゃなかったの?」
「えぇ?……ああ!啓介とケンタか、ただの走り仲間だよ」あっさり切り捨てる。
バイトに余計な事を吹き込むな、と叔父を睨み付けておく事も忘れない。
その日はいつもより遅くまで作業に扱き使われ更けていった。
そんな忙しい日々が1週間も続き、解放されたのはヴァレンタインの前日だった。
手元にあるのはクーベルチュールチョコレート一塊り。
その他にもデコペンやらココアパウダー、製菓用ブランデーなどがある。
これが今回の仕事料だと言う。「………これをどうしろと?」
は自宅のキッチンにてこれらと睨めっこをしている。
あげるアテがないわけではない。
拓海やイツキ、高橋兄弟を始めとするレッドサンズの面々。
男友達ならいるのだから。
かと言え義理チョコ配りなどガラではない、と処分に困っている。
しかし捨てるのも勿体ない。
いや、癪だ。
あれだけ働いてそのお代として手に入れた物である以上、使わなければただ働きしたも同然。
こうなったら…「作るか…」
散々手伝わされてきた 。
菓子レシピのいくつかは頭に入っている。「でも、手当たり次第に配るのは嫌だな…」
と、一人の人物を頭に浮かべた。
カッと赤らむ顔。「い、良いよね。あげたって…」
赤い顔で独り言をもらすと早速菓子作りを開始した。
さて、貴方が思い浮かべた人物は誰?
−2003/1/31・黙 涼風−