俺の黄色いFDだって充分派手だと思ってた。
速さだって誰にも負けるつもりねぇし。

(そりゃあ…アニキとか、かないっこねぇと思う相手だっているけどさ…)

誰が見てもすげぇ印象に残るって言い切れる。
だけどよ…。
アイツの方が衝撃だったかも知れねぇ。

 

 

 

 

赤い逃亡者

 

 

 

 

峠に走りに行くのは週末が圧倒的に多い。
平日は多少走り屋の出没率は低い。
そんな平日の赤城。
赤いレッドサンズのステッカーが貼られた黄色いFDが赤城を登っている。
かの有名な高橋兄弟の弟、啓介である。
今日も大学をサボり、昼間は惰眠を貪って走りに来た。
そんなトコだろう。
頂上へ登ると何人かの見知った顔が見える。
いつもの場所へFDを止めるとその中へ足を向ける。

「啓介さん!」

集団の元へ辿り着く前に彼らの方から走り寄って来た。
中心にいたのは中村賢太。
レッドサンズのメンバーの一人だ。

「おぅ、ケンタか。お前らも来てたんだな」
「啓介さんも例の噂聞いて来たんスか」

興奮した様にケンタは言う。

「噂?」
「あれ、違うんスか?」

どうやら彼らはその噂話に花を咲かせていたらしい。

「速ぇーのか?どんなヤツだ?」

此処で"噂"と言ったら走り屋の噂くらいしかない。
そして噂になるという事は速いという事。
走り屋としては非常に興味惹かれる話題だろう。

「平日しか現れない赤いFDだそうッスよ。ドライバーがどんなヤツなのかはわかんないみたいッスけど」
「赤い…FDだぁ?へぇ」

自分と同じマシンに乗っている。
啓介にとってはなかなか面白い話だ。

「平日しか来ねぇ、か。なら今夜は来るかも知れねぇワケだな」

フッと上がる口の端。

「俺達も今日はそいつに会いたくて来たんですよ。まぁヤツが現れるのはもう少し遅い時間みたいッスけど」

腕時計で時間を確認しつつケンタは言う。

「まだ来ねぇのか。んなら時間潰しに少し流してくっかな」

ガリガリと頭をかいて啓介はFDの方へ向き直る。

 

 

 

啓介はダウンヒルを流した後、食事処の駐車場へ止めて一服している。
FDに寄り掛かり上へ向かう車を眺めている。
ふと聞こえたエンジン音。

「なんだ?ロータリーエンジンか!?」

急いで煙草を踏み潰すと運転席に飛び込む。
その間にもロータリーサウンドは近づき、その姿を現した。
鮮やかで深みのある赤い車体。
目前を通り過ぎるのと同時に啓介のFDが道路へ滑り出る。
ピッタリと後ろに張り付き追いかける。
赤いFDはかなり走り込んでいるのか1センチたりともラインをはずさない。
コーナーでドリフト状態に持ち込んでもカウンターは最小限。
隙のない走り。
啓介の腕をもってしても追いかけるのが精一杯だ。

「なんだぁコイツ!こんなヤツ赤城にいたのか!?」

驚くしかない。
徐々にではあるが差が広げられている。
啓介から逃げる様に差は開く一方だ。

「一体どんなヤツだよ…」

そう啓介が呟いた時、相手はエネルギー資料館前に停車していた。
それから数秒遅れで啓介が近くに停車する。
愛車を降りると赤いFDに足を向ける。
運転席側に回りウィンドウを軽く叩く。
ドライバーが降りて来る気配がなかったからだ。
少し間を置いてからドアが開く。
降りて来た人物は…

「お、女!?」

思わず声が裏返る啓介。

「女走り屋なんて別に珍しいってワケでもないでしょう?」

悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「いい走りをすると思ったら高橋兄弟の弟の方だったのね」
「いい走りって…アンタの方が凄ぇだろーが」
「そうかなー?手加減してくれたんじゃないの?」

彼女の表情からして本気で言っている様に見える。

「っ……」

啓介は思わず口ごもる。
手加減など一切していなかったのだから。

「あ、そ、そうだ!お前名前は?」

無理矢理話題転換を試みる。

「あ、 です。平日しか走りに来ないんだけど、免許取ってからずっと此処で走ってるの」
「免許取ってからって、 何歳?」

本来なら失礼な質問なのだが何故か啓介から聞かれるとそんな感じがしない。
しかもいきなり呼び捨てでも構わないか、という気になる。

「21歳よ。だからドライバー歴は3年かな」
「俺とタメかよ…。凄ぇな」

素直な感想だ。

「そーかな。目標は高橋涼介なんだけどね」

てへ、と照れた様に笑う

(げ、メチャメチャ可愛いかも…)

「アニキか…確かにアニキは速ぇからな。なぁ時間大丈夫か?今日は確かアニキも忙しくなかった筈だし、ウチ来ねぇ?」

早くもアプローチを開始する啓介。

「え、いいの!?」

身を乗り出してその話に飛び付いてくる。

「あぁいーぜ。俺ももっと話してぇし」

啓介は嬉しそうな笑顔を浮かべている。

「行く行くっ、憧れの高橋兄弟とたくさん話出来るなんて夢みたいだわ♪」

ははしゃいで啓介の腕にしがみつく。

「お、おいっ」

慌てる啓介。

「あ、ごめん。つい興奮しちゃって」
「まぁいーけどよ。他のヤツになんかやんなよ?」
「気を付けますー。…ん?じゃあ啓介君にはやってもいいって事?」

ニヤと笑ってからかう様に聞く。

「そっ、そーは言ってねぇだろ!それから啓介君はやめろって。呼び捨てでいいからよ」

啓介は早口でまくしたてるとプイッと横を向いた。

「照れちゃって〜可愛いなぁ啓介」

笑いながら はバシバシと背中を叩く。

「啓介さん…」

二人の背後から声。
ケンタだ。
「おーケンタ。何だ?」
「知ってる子だったんスか?」
「あ、いや。今仲良くなったんだけどな」

上機嫌で答える。

「啓介の友達?宜しく〜」

にこにこと挨拶する

「速ぇーぜ、 は。んじゃ俺達もう行くわ、じゃーな!」

目で を促すとそれぞれのFDに乗り込んで二人は赤城を後にした。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

あっさりお持ち帰りされたヒロイン…
別に走りと違って隙だらけってワケではないんですがね(笑)
ヒロインの方も啓介が気になった、という事です。ハイ
なんか詰め込み過ぎ・無理矢理な展開ですなぁ(-_-)

−2003/2/20−