さよならをください 好きになりすぎた胸に
忘れるためなら何でもする

 

 

 

 

さよならをください

 

 

 

 

指は慣れた動作で携帯を操る。
ディスプレイに表示されるのは彼のナンバー。
もう何日顔を合わせてないのだろう。
そう思い通話ボタンを押す。
耳に押し当てられたひんやりとした感触。
そこから流れるのは無機質な留守番電話アナウンスだけ。
いつも、いつも。
忙しい人なのはわかってるんだけどね。
頭では…

 

 

 

赤城山。
此処はレッドサンズのホームコース。
週末ともなればメンバーの殆どと顔を合わせる事が出来る。

「や!」

男ばかり集う一角に一人の女がやって来る。

「おー

そう返してくれたのは啓介。

「アニキは?」

続けて質問をぶつけてくる。
女は思わず顔をしかめる。

「私より啓介の方がわかるんじゃないの?一つ屋根の下で生活する兄弟でしょーが?」
「そうかぁ?ここ2〜3日顔見てねぇしさ」

相変わらずの多忙人間ぶりを発揮しているらしい。

「私だってもう何日も会ってないわよ」

ふてくされた様に口を尖らせる。

「はぁ!?…連絡くらいは取ってるだろ?」
「ぜーんぜん!」
「マジかよ…」
「マジよ。こっちから電話しても留守電だしね」

吐き捨てるとチームのメンバーに背を向けて歩き出す。

 

そう、彼女はレッドサンズ唯一の女性メンバーである。
名を、
リーダーである高橋涼介自ら優秀なメンバーを集めて構成されたレッドサンズ。
勿論、 もそうやってチームの一員になった一人だ。
それまでは一人で峠にフラリとやって来ては峠を攻めていた。
ある日、アップクライムを攻めた時の事。
一休みしようと適当な場所に相棒を停車させ、ボンネットに腰を落ち着けてお茶をすすっていたら…

「まさか女性だとは思わなかったな」

目の前に彼が現れたのだ。
笑顔をこちらに向けている涼介が。
目を奪われて呆然と見詰めてしまった。
一瞬。
そう一瞬だった。
心が奪われたのも。
彼の誘いを断る理由はなかった。
誘われるままレッドサンズに仲間入りした。

 

メンバーに背を向けた はそのまま愛車へと足を向ける。
黒のFCへと。
が少し窮屈なバケットシートに収まると黒いFCは咆吼を上げる。
ゆっくりと発進して、滑るように峠の下り道に消えて行く。
赤い残像を残して。

 

 

 

それから2日たってからだった。
と涼介が顔を合わせる事が出来たのは。

「涼介!」

久々に会えたのが嬉しいのか眩しい笑顔を咲かせている。

、久し振りだな」

涼介は の眩しい笑顔に柔らかい微笑みを返す。

「ホント。相変わらずの多忙ぶりだねぇ」

そう言って赤城の空を見上げた。
いつでも再開場所は赤城の頂上。
付き合い始めて最初の頃は普通にデートもしてた筈なのに…。
日に日に忙しさの増す涼介にはそんな暇さえなくなってゆく。

「次はいつ会えそう?」

何気なく聞いた。
涼介は曖昧に微笑んで濁す。

何気ない言葉で きっと 責めてる

「悪いな…」

顔を歪ませる涼介。

「大丈夫だってばー…」

そう苦笑して返すものの……

(ごめんね、涼介。私は余計に苦しくなるよ)

氷の様に冷え固まる心。
涼介への想いが強すぎて、独占したい衝動が強すぎて。

「俺はいくらでも我慢出来るが…」

申し訳なさそうに涼介は言う。

(私は毎日でも会いたいよ、ずっと側に居たい)

「この忙しさだけはどうしようもないものだからな」

そう言って の肩を抱いた。

「そうだねー」

その返事は半分本当、半分嘘。
頭ではわかっていても心では納得出来ないから。
涼介への負担にはなりたくなくて、無理をして欲しくなくて。
だから嘘だと気取られてはいけない。
でも涼介はズルイと叫びたくなる自分もいる。
忙しさを逃げ口実にしている、と。

ホント悔しい。
涼介が逃げれば逃げる程に愛しさは募ってゆく。
いっその事この気持ちが冷めてしまえばいいのに…
貴方から別れを切り出してくれたらいいのに…

 

 

 

さよならをください 好きになりすぎた胸に
忘れるためなら何でもする

 

 

 

私は決心した。

 

 

 

あれから何週間たっただろうか。
あれから何回涼介に会えただろうか。
たった数回の逢瀬。
そして今日もかかさず赤城へ向かう日、週末がやって来る。

「やっほぉ。1週間振り〜」

は近くにいたメンバー達にいつもと変わらぬ様に声をかける。

「おぅ、
「よー」

彼らもいつもと変わらぬ返事をくれる。

「史浩と啓介来てる?」

誰に、というでもなく聞く。

「あぁ、あっちに来てるぜ」

そう言って二人がいるらしい方向を指差す。

「さんきゅ」

ひらひらと手を振りながらそちらへと歩を進めた。
二人は の姿を認めると変わらない挨拶をくれる。

「よぉ」
「おっす!今日は涼介来ないってさ」

余計な感情が表に出ない様にサラッと言ってしまう。

「そうか。わかったよ」

史浩はそう言うとその場を去った。

「ちぇ、つまんねぇなー」

小さな子供の様に拗ねて見せる啓介。

「啓介はお兄ちゃんっこだなー」

わざとニヤニヤと笑いを浮かべてからかう。

「うるせぇよ」
「さーてと。私は今日はもう帰るね〜」

そう言い残して背を向ける。

「あ?なんだよ、今来たばっかだろぉ?」

その表情は【からかうだけからかいやがって…】と言っている様だ。

「ん?…理由はね、アレ」

悲しそうな笑みで自身の愛車を指差す。
いつもと変わらぬ様に見える漆黒のFC。
しかし、一ヶ所だけ明らかな変化があった。

「どういう事だよ!?」

黒い車体に映える赤いステッカーは綺麗に剥がされて、その形跡すら残されていなかった。

「私ね、県外に転勤する事になったの。だからレッドサンズから脱退して…走り屋を引退するわ」

至極真剣な表情。
悪い冗談、というワケではないらしい。

「アニキは何て言ったんだよ!?」
「何て言うだろうね…啓介から伝えといて」

言い残すと愛車に走り寄り、さっさと乗り込む。

「はぁっ!?」

かけっぱなしだったエンジンを2度3度と別れを惜しむ様にふかす。
次の瞬間には勢い良く発車し、最後であろう赤城のダウンヒルを攻め下りて行った。

 

 

 


以来、彼女は赤城に姿を現さなくなった。
レッドサンズの前にも、涼介の前にも…
啓介へ託した伝言一つだけを残して。

 

 

 

本気だった あなただけ

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

うわー…
なんかぐちゃぐちゃな気がする(滝汗)
何が言いたいのかサッパリだよぉぉ(T-T)
ヒロインsanは自分の心を守ろうとしただけなんデスッ(きっと凄い寂しがり屋さんだったのね)
って、書いてる本人がコレじゃ読者様は一体どうなるんだよ☆
いやはや、申し訳ないッス
涼介夢なのに本人ちょっとしか出てないし…
啓介がやたらと出張ってるよ ←こりゃぁ涼風の愛が滲み出てますなぁ(コラ)
何度読み直してもこれ以上は良くなりませんでしたっ(逃)

挿入詞 → 田村直美「さよならをください」 ヨリ
機会があったら曲も聴いてみて下さい〜。涼風はこの曲好きですvv

−2003/1/24−