あれから1ヶ月。
親父が言うには2〜3日に1回は来てるらしい。
すっかり常連客の一人。
俺が居合わせた時だって既に親父とは打ち解けてたっけ。
ズリィ、親父の奴…。
豆腐ハンバーグ
店主のいない藤原豆腐店。
文太は商工会の寄り合いだとかで出掛けているのだ。
よって拓海が店番に借り出されている。
と言っても客はそう多くはない。
もうそろそろ店を閉める時間帯も近づいている。「…面倒臭ぇな〜」
静まりかえる店内を見渡して独り言をもらす。
実は心の中では が来るのではないかと淡い期待も抱いていた。
しかし今日は空振りに終わりそうだ。「ちぇ…」
膝を抱えて不満そうに口を尖らせる拓海。
ふとバタバタと走って来る足音が耳に入る。
段々と近づいて…店の前で止まった。
入り口の扉に手をついてゼェゼェと肩で息をしているのは誰であろう待ち焦がれた だ。「せ、セーフ?」
顔を上げて拓海を見る。
「あ、セーフです、けど。…大丈夫ですか?」
まだ息の荒い を気遣う。
「だいじょぶ、だいじょぶ!それより豆腐ある?」
あまり大丈夫そうにも見えないのだが。
「ありますよ。木綿で良いんですよね」
「うん、お金ここに置くね」そう言ってカウンターにチャリン、と小銭を置いた。
背を向けている拓海は木綿豆腐を丁寧に袋へ入れている。「今日もグラタンなんですか?」
豆腐の入った袋を差し出しながら拓海は聞いてみる。
「ん、今日はハンバーグなの♪」
買い物袋を持ち上げて見せる。
中には豆腐ハンバーグの素が入っているらしい。「今日は文太さんいないんだ?」
「ああ、寄り合いがあるって出掛けましたから…多分そのまま飲みに行くと思いますよ」呆れた様な表情を浮かべる。
「え、じゃあ夕食は?」
「適当に済ませるつもりですけど…」冷蔵庫に何かあったっけ?等と呟く拓海。
「…私で良ければ作るよ。豆腐ハンバーグだけど」
へへ、と笑いながら 。
「!?」
「あ、嫌ならいーの」
「いっ嫌じゃないです!お願いしても良いですかっ」願ってもない事だ。
文太が帰って来ないなら二人きりになれるのだから。「おっけー、任して♪じゃあお台所借りるよ」
はガッツポーズでウィンクして見せる。
「あ…じゃ、じゃあどーぞ…」
思い切り動揺しつつ、居間の方を指差した。
は拓海の後に続いて居間に上がる。
真っ直ぐ台所へ向かうとすぐに調理を開始した。
ほかほかと湯気が立ち上る出来たての夕食。
勿論豆腐ハンバーグだ。「お待たせしましたぁ。どーぞ?」
笑顔で出来上がったハンバーグを拓海に差し出す。
「頂きます」
ハンバーグの乗った皿を受け取ると早速食事に取り掛かる。
向かいに座る も一緒に食べている。「あ、美味い…」
「でしょー?グラタンの方も美味しいんだよ。今度試してみて?」美味しいと言って貰えたのが嬉しいのか満面の笑みを浮かべる 。
しかし次の瞬間には固まる事になる。「 さんが作ってくれるなら」
この拓海の返事によって。
「俺、 さんの事好きだから… さんの作る飯が食いたい」
は立て続けに衝撃を受ける。
茶碗と箸を持ったまま固まっている。ゆでだこの様になって。「駄目?」
上目遣いで を見る拓海。
(は、反則だよっ拓海君!そんな目は〜////)
口をパクパクさせながら心の中で叫んでいる。
「……駄目なら仕方ないですけど」
シュンとした様に俯いて小さく呟く。
「!駄目じゃないよっ、私で良いならいくらでも作る!!」
グッと箸を握り締めてようやく は言葉を吐き出した。
「私も拓海君好きだから…拓海君の為ならいくらでも腕振っちゃう!」
続けてそう言うと拓海は嬉しそうな笑顔を浮かべる。
そんな拓海の笑顔につられて も笑顔になる。「約束ですよ」
「勿論vv」
拓海の予想通り朝帰りした文太が見た物。
それは洗われた二人分の食器と台所のゴミ箱に捨てられていた豆腐ハンバーグのパッケージ。
しげしげと眺めるとニヤリ、と口の端を引き上げた。「拓海にしちゃあ上出来だな」
++後書き…もとい言い訳++
企む文太も素敵ですvv(マテ)
ええ、そうですよ!
文太は拓海とヒロインをくっつけようと暗躍していたのです!(笑)
文太の策略にハマってみて如何でしたか?(違うって…)−2003/2/11−