目覚メ知ラヌ者ヨ…
此処コソ安住ノ地ナリ

 

 

 

 

目的、達せられたし

 

 

 

 

 

驚きで呆然とするしかないカカシ達。
その後、どんな反応を返されるのかが怖ろしい
水影の娘ならば敵だと、木の葉にいるべきではないと、あからさまな敵意を向けられるのではないかと。
ただ怖ろしかった。
また帰る場所を失うかもしれない恐怖が胸中に渦巻いている。

「えーと…もう一回言って?」
「私は水影の娘です。何度聞き直しても…変わりませんよ」

カカシが遠慮気味に言う。
それに は躊躇いがちに、だがはっきりと答えたのだった。

「…信じられねぇ」
「あの、やっぱりマズイですよね…」

サスケは呆然としながらぽつり、と。
ナルトとサクラは声も出せずに顔を見合わせている。
そんな三人を見てカカシに問う
泣き笑いの様な、今にもひきつりそうな顔をして。

「やー…こればっかりはオレにはなんとも‥・」

本当に困った顔で髪をかき混ぜているカカシ。
「大丈夫だよ」と、そう言ってやりたいがそういうわけにもいかない。
万が一、霧隠れの里から"娘を返して欲しい"などと言われればすぐにでも返還しなければならないだろう。
その後の の末路が悲惨なものであったとしても。
水影が娘をどうしようと木の葉には関係のない事なのだ。
何も言葉が見付からず、シン、としてしまう蔵の中。
そこへ…‥

バタバタッ

なにやら騒々しい音が聞こえてくる。
すかさず身構える一同。
まさか、こんな時に、追っ手が?皆の考えは一緒だった様だ。
しかしそこへ現れたのは追っ手とは思えない一羽の梟。

「な、なんだよッ。フクロウ!?」
!」

拍子抜けして裏返った声をあげるナルト。
カカシもサスケもサクラもどこから入り込んだのだと梟を凝視している。
だが だけは嬉しそうな笑みをこぼし、自身へ飛び込んできた梟を抱き締めた。

「良かった、無事だったんだね」

涙ぐみながら梟を優しく撫でている
梟もホゥと小さくひとなきして の頬にすり寄った。

「え、 さんのフクロウなの?」
「そうよ。 っていうの」

我に返ったサクラが と梟―― を交互に見ながら問いかける。
は肯定し、 の顔を皆に向けて紹介した。

、再会を喜ぶのは後にしろ。巻物は見付けたんだろ」

四人の姿を一瞥した後、すぐに に向き直った は言葉を発する。
どうやらだたの梟というわけではないらしい。

「え?う、うん。家系図と契約の巻物なら」
「だったらさっさと署名しろ」

手に持っていた一本を振って見せながら答える
はそれに名を連ねろと言う。

「なに言ってんだってばよー、コイツ」

の巻物に他者が名を連ねて良い筈がない。
そう思ったナルトは を睨む。

「俺は今まで先代の命で に仕えてきた。これからはお前に仕える。その為に署名しろと言ってんだよ」

ナルトの言葉など聞きもしていない
無視されたナルトは一人怒って騒いでいる。

に仕える?お前、 の口寄せ動物だろ。どういう事だ?」

サスケも口を挟む。
こちらは言葉こそなかったが視線を返される。
と深い関わりを持つ。
その本家にあたるうちはの者を無下には出来ないのだろう。

、何か知ってるんだね?」
「心して聞けよ。‥‥・お前は水影の娘であり、 の後継者なんだよ」

再びその場を沈黙が支配する。
水影の娘である事は既に聞いた。
が、 の後継者というのはどういう事だろうか。
は続ける。

「母だと思っていたのは単なる養母。先代当主こそ本当の母だ。だからこそお前は今、木の葉にいる。 を継ぐ為に」

真っ直ぐに を見詰める猛禽類独特の鋭い双眸。
は信じられずに視線を泳がせている。

ちゃんが木の葉に来る様に言われていたのは、この真実を知る為?」
「そういう事だな」

のすぐ隣に移動したカカシは を見る。
はぶっきらぼうに答えた。

が… の者」
「お母さん達が仕組んでいたのね」

ぼうっと を見ているサスケ。
分家とは言え、同じうちは一族の人間が現れたのだ。
感慨も深い事だろう。

「と言う事はー、 ちゃんが木の葉にいてもなーんの問題もないってワケだねー」

カカシはニコニコと笑いながら の顔を覗き見る。

「あ、そうよ!先代は攫われて霧隠れに連れていかれたんだもの」

パンと両手を合わせてサクラは笑顔になる。
攫われた木の葉の者が攫われた先で強制的に生まされた娘を、木の葉が保護しても何ら問題はない。
こういった事情では霧隠れが迂闊に の返還を催促してくる可能性はないと言い切れるだろう。
は純粋な霧隠れの人間ではないのだから。

「い、いいのかな?」
「なんかよくわかんねーけど…良かったな! ねぇちゃん!」
「ま、そーゆー事だ。火影様が ちゃんを里に置く事にしたのもそれに気付いてたからだよ」

漸く納得がいったカカシ。
あの時のあの嬉しそうな顔は、 の者の帰還を喜んでのものだったのだ。
水影の娘だったのは予想外だろうが。
報告した時の顔が見物だ。

「火影様が気付いて?」
「そ。 ちゃんの事、ハナから疑おうともしてなかったしねぇ」

火影はきっと の母親を知っていて、 にその面影を見出したのだ。

「でも、その為に義母さんは…‥」

項垂れる
そう、養母は を故郷へ帰す為に命を犠牲にした。
それを自分のせいだと思ってしまうのは当然。

「「「「‥‥‥」」」」

下手な事は言えず、四人は黙ってしまう。

「覚悟の上での事だ。あの者はお前を本当の娘の様に想っていたからな」

そう言って、 を慰める様にホゥとそっと鳴いて身を寄せた。
に弱々しい笑みを向けて小さく「ありがとう」と呟き、四人にも笑みを向ける。

「ほらよ」

最後に目の合ったサスケは契約の巻物を へ放る。

「サスケくん?」
「二人の母親の願いだろ。ここなら忍の道も開くぜ」

フッと笑むサスケ。
まるで大丈夫だと力強く言う様な、そんな笑み。

「そ、っか‥。私が忍者になったら、二人共喜んでくれるかな」

顔を見た事すらないが の将来を考えてくれていた実母。
いつも優しく見守り育ててくれた養母。
二人への言い尽くせない感謝で胸がいっぱいになりながら、 は指先を噛み切った。
その体に流れる の血で、 に仕え続ける口寄せ動物と契約する為、巻物に自分の名を一画一画丁寧に書き込んでいく。
最後に拇印を押すと、 の肩から降りて正面に回る。

「よし。今より を我が主として認めよう」

の主、そして の当主の座についた瞬間である。
同時に、木の葉が帰る場所となった事を実感した瞬間でもあった。
熱くなった の瞳は僅かに潤んでいる。

ちゃん」

優しい声音で呼びかけるカカシの声。
ゆっくりと隣に座っていたカカシを見上げる
カカシは笑顔で言った。

「おかえり」

その言葉で涙は溢れ、頬を伝った。
は泣き顔を隠す様に俯いて、カカシの胸に縋る。
カカシはあやす様に の背をぽんぽんと叩く。

やっと、やっと帰って来られた。
もうひとつの、知らなかった故郷に。
そしてこれこそが二人の母の目的だったのである。
長い時を費やした優しい思惑は、達せられた。

 

 

 

++後書き…もとい言い訳++

はい、出会い編完結ですー!
そうなんですね、ヒロインさんは霧隠れの人間でもあり木の葉の人間でもあるのです。
ま、霧隠れからは切り捨てられてるから、もう木の葉の人間だと胸を張って言えますよ〜。
んで次回からはアプローチ編開始ー。
当初の予定ではお題は番外編として書くつもりだったんですがね。
もう、きっぱりすっぱりカカシ連載でいく事に決めました。
3話を書いた頃にはその方向に進路変更してたんだケロも。
まだ暫くは逆ハーっぽく進める予定。
キャラも一部しか出てないしさ。もっと登場させねば!

−2004/12/15−