時間外の見舞客
白で統一された静かな室内。
木の葉病院の一室だ。
先の任務で怪我をした は数日の病院生活を余儀なくされていた。「…すっごい暇」
忍の才能に恵まれていた は常に任務任務で忙しい日々を送っていた。
仲間達にはいい骨休めだ、とは言われたもののゆったりとした時間の過ごし方を知らない にとっては退屈なだけ。
その上怪我をしたのが両手だから笑えない。
印を組めない様に両手を狙うのは有効的な手段。
だが、自分がそれをされると非常に不便この上ない。
ギプスで固められた両手を眺めては溜息ばかりを吐いている。「 ちゃーん」
ガラッと開かれた扉から顔を出したのは顔の殆どを隠した同僚、はたけカカシだ。
「あ、カカシ〜」
ぱあぁっと笑顔を咲かせる 。
「なになにー?そんなにオレに会いたかった?」
「うんにゃ、誰でも良いから来て欲しかった」
「…それって喜べないねぇ」笑顔に笑顔で、しかし何気なく酷い言葉で返されたカカシは苦笑している。
「でも ちゃん顔広いから見舞いに来てくれる人多いデショ?」
「んー、でもそんなに頻繁になんて来てくれないよ。任務で怪我なんて珍しくもないし、皆も任務あるし」
「…‥じゃあこの見舞い品の山は?」
「ふふふ〜」傍らに積まれた数々の品を指差すカカシと曖昧に笑って誤魔化す 。
多少お転婆な所もあるが、男女問わず好かれる への点数稼ぎに贈られた品々であろう。
はそれを承知で、しかし素知らぬ振りで受け取るのだ。「カカシはなんも持って来てくれないよねー」
「じゃあオレが花束持って現れたらどうする?」
「ヤメテクダサイ…ガイが薔薇の花束持って来た事思い出すから」ふっと遠い目をしてしまう。
「ぶっ。ガイが?薔薇の花束!?」
「卒倒するかと思ったわ」思わず吹き出すカカシと真面目に苦情をもらす 。
「ま、ほら、オレは愛をたーくさん持って‥」
「それはイラナイ」
「つれないな〜、 ちゃんは」ベッド脇に置かれている椅子ではなく、ちゃっかりベッドの端に座って にぴったりとくっついているカカシ。
はにっこりと微笑んですぐ隣のカカシを見詰める。「カカシ、アンタいっつもうっとーしい!」
と、ベッドから突き落とされたのだった。
入院してから毎日これを繰り返しているというのに懲りない男だ。
鬱陶しいと言いつつも受け入れているのは暇な病院での生活には丁度良い時間潰しだから。「ひっどいなぁ、も〜。ま、オレもこれから任務だし?もう帰るよ」
「え、うっそ、もう?また暇になるー」ふて腐れた様にベッドに沈み込む。
「また後でねー」
の額に唇を落とし、ひらひらと手を振って病室を後にした。
カカシの唇が触れた箇所をさすりながら「二度と来んな」と零す。
ふう、と溜息を吐くと病室にかけられたカレンダーに目がいく。「あ…クリスマスだったんだ」
常日頃なら任務で忙しく行事になんて気が付かない場合が多い。
それなのに気付いた時に限ってこんな状態。
楽しむどころではない。(さみしいクリスマスだな…)
味気ない病院の食事をたいらげ、する事もなくすぐに布団に潜り込んでいた 。
浅い眠りの中で感じたのは人の気配。
巡回の看護婦かな、と思ったが違う様だ。
気配の位置は窓の外。
不審に思うが無闇に動くのは危険だ。
は身動ぎひとつせず布団の中から様子を窺う。
まずは相手の動きを待つ事にする。
すると窓の開く音。(え!?ちょっとちょっと、窓の鍵閉めてないのー?)
警戒を強める 。
だが、何かおかしい。
他国の忍に狙われる様な覚えはないし、何より相手は気配を一切断っていないのだ。ギシッ
気配の主がベッドに手をつく。
その瞬間に布団を蹴り上げ相手の首筋にクナイを突き付ける。「カ、カカシじゃないッ!何してるのよ…」
両手を挙げた降参ポーズで苦笑しているカカシ。
「んー。お見舞い?ほんっと ちゃんてば優秀なんだから〜」
カカシは首のひんやりとした感触を押しやりながら、 を落ち着かせようとしているのか髪を梳く。
「なんで疑問系なワケ?っつーより、今、何時か理解してんの?とっくに面会時間終わってるんだけど」
「そーんな事いいからサ。おいでおいで」開け放たれた窓の前で手招きしているカカシ。
「…?」
「ほーら早く♪」
「へッ?なっ、きゃあ‥」何をする気だろうとベッドに座り込んで首を傾げる。
そんな をカカシはさっと抱き上げる。
お姫様抱っこ、というヤツだ。「こら静かにしないとー。人が来ちゃうデショー?」
楽しげに言いながら、 を抱いたカカシはひらりと窓から飛び出した。
冷たい風を全身に受けて駆けていく影。「カカシ、一体ドコ行くのよ。私寒いんだけど」
「ん。もーちょっとだけ我慢してねー」パジャマ姿の に冬の夜風はかなり堪える。
それをあまり感じさせないのは忍ならでは、か。(やけにゴキゲンねぇ…)
「はーい、とーちゃっく!」
「…あのさ、ほんとなんなの?」連れて来られたのは見晴らしの良い高所。
風を遮る物のないそこは…とにかく寒い。「せっかくのイヴの夜にそーんなコワイ顔しちゃダメでしょー?笑って笑って♪」
「はぁ…こんのクソ寒い中ニコニコしてられるとでも?」
「じゃあ、 ちゃんにクリスマスプレゼント!」
「プレゼント…?」どこからか取り出した小さな箱を差し出すカカシ。
唯一自由になるギプスから覗く指先で箱を受け取る。
が、何故こんなトコでプレゼントを渡されなければならないのか。「とりあえず座って?」
「う、うん」
「やっぱりコレだよねー♪」カカシは の手にある箱を開けてくれる。
「はぁ?ケーキぃ??」
白い箱に入っていたのは小さなケーキ。
女の子が好みそうな可愛いくて美味しそうなケーキだ。「そ。はい、あーんしてー」
「んな…!バ、バカ言わないでよッ」どこに隠し持っていたのかフォークを取り出して、一口分を の口元に差し出す。
今まであんなに寒かったのがどこかへ吹っ飛んだ気がした。
寧ろ、暑い。顔が熱い。「わー、 ちゃんったら真っ赤ー。かーわいー」
「うるさい!ケーキくらい‥」
「食べられないデショ…その手」
「あ…」両手ギプスの が自力でケーキを食べるのは少し難しい。
結局、カカシに食べさせて貰うしかなかったモヨウ…
++後書き…もとい言い訳++
最初は病室でギャーギャー言いながらもケーキ食べさせて貰う筈だったのに…。
気が付いたら外に出て行っちゃったよ!あ、あれぇ?
しかし両手ギプスはキビシイッスね。
普段の食事はどうしてたんだ?トカ思っても突っ込んじゃダメ!(笑)
この後、きっと、巡回の看護婦さんに無断外出がバレてカカシが叱られるんですよ。
ヒロインは無理に連れ出されただけだから被害者扱いだな、うん。
…えー、甘さの足らないもので申し訳ないデス(-_-)−2004/11/30・黙 涼風−