人間は妖怪を怖れる。
その力を恐れる。
そんな妖怪は現在滅び去り、もういない。
そう思われている。
いや…妖怪などは迷信だったのだと思われている。

 

 

 

 

時代に残された者 〜古の故郷を求める少女〜

 

 

 

 

今日は学校。
しかも試験がある日だ。

「あー疲れるなぁ。私、受験なんてしないのにさ〜」

そう、私、 は中学3年生。
一般的には受験生だ。

「高校くらい行っても良いのではない?」

そう言ったのは の母。

「母様…私もう勉強はしたくないからイイ。仕事だってあるんだし」
「そう?貴女がそれで良いのなら私は文句はありませんよ。家業を継いでくれるなんて嬉しい話ですしね」

ふわりと笑む母。
穏やかそうな の母はピシッとした巫女装束に身を包んでいる。

「さぁ、遅刻をせぬ様に出掛けて下さいね」
「わかってる。あ、テスト終わったらまた向こう行くからさ…学校の方ぅ〜」
「わかっていますよ。あちらの方々にご迷惑だけはかけないで下さいね。学校の方への言い訳は任せておいてくれて良いわ」

変わらず穏やかに微笑む母の姿に安堵の笑みをもらした

「じゃあ行ってきます!」

カバンを掴むと艶のある黒髪をなびかせて元気良く家を出て行った。

 

 

 

「あー疲れたぁぁ〜」

大きく伸びをする
どうやら本日のテストは終了したらしい。

「あぁ、

ふと教師に声をかけられる。

「あ、はい?」
「お前いつになったらそのピアスを外してくるつもりだね?」

呆れた様な声音を発する老教師。

「あー…」

もう何度この注意を受けた事か。
この教師が呆れてしまうのもわかる。

「えーとぉ。これはちょっと…ウチのお守りなんで、外すワケにはいかないんですけどー」
の家が神社なのは知っているがね。ピアスのお守りなんて聞いた事がないな」
「身に付けやすいお守りを私の為に作って貰っただけです」

はにっこりと答えるとカバンを持ってさっさと教室を出て行く。
それを追いかける一人のクラスメイト。
廊下ですぐに追い付いたクラスメイトは日暮かごめ。

「ねぇ、 さん!」
「え?あぁ、日暮さん。どうしたの?」
「あ、さっきの先生の話聞こえて…」
「あはは〜。聞こえちゃった?もーこのピアスちょっと外すワケにいかない理由あってさ〜」

笑って誤魔化す。

「そっちじゃなくて…家が神社って本当?」
「あーそっちか…まぁね」

少し迷ったが誤魔化しようがないので頷く

「嘘!?本当に!!?ウチもなの!知らなかったぁぁ〜」
「んーまぁ、あまり人に言った事なかったしね」
「あっねぇ、一緒に帰らない?」
「いいよ」

 

 

 


「じゃあ ちゃんは高校行かずに実家の巫女さんになるんだぁ」
「うん、ずっとそのつもりだったから」
神社って何の神様奉ってるの?」
「ウチは犬神様。白銀の犬らしいんだけどね」
「え…い、犬?」

思わず犬夜叉を連想してしまうかごめ。
噂をすれば…とは言えないが、かごめにとっては最悪のタイミングで声がかけられる。

「かごめーっ!」

勿論、犬夜叉である。

「げっ!!」

一歩引いてしまうかごめ。

「「ん?」」

顔を見合わせてしまう犬夜叉と
かごめは冷や汗をかいている。どう、言い訳するべきか考えている様子。

か?」
「犬夜叉じゃん。こんなトコで何してんの?」
「何でぃ、その髪の色はよー」
「かごめちゃんと知り合いなの?」
「お前、かごめと同じ服着てるじゃねぇか」
「どうやってコッチ来たのよ」

(なんだか全然話が噛み合ってないんだけど…)

知り合いな様なので僅かに安堵するかごめ。
しかし何故知り合いなのかが疑問である。

…お前なんか、にんっ痛ぇってててっ」
「かごめちゃんちょっと犬夜叉借りるね〜」

犬夜叉の言葉を途中で遮り、耳を掴んでギリギリと引っ張っていく

「え、あ、うん…」
「いてぇっつってんだろ! っ!!」

かごめから少し離れた所まで引っ張られた犬夜叉は非常に不満そうだ。

「ちょっと少し静かに出来ないの?まぁいいわ。とにかくさ、私の事は一切黙ってて」
「はぁ? の事って…向こうでの事か?」
「そう、全部よ全部!いい?」

ギロリと怖い瞳で犬夜叉を睨み付ける。

「わ、わかったよ。怖い顔すんなっての」

犬夜叉は思わず小さく縮こまってしまう。
それを確認した は満足げに笑むとかごめの元へと戻って行く。

「ごめんねぇ、かごめちゃん」
「あ、いいよ気にしないで。でも ちゃんいつ犬夜叉と知り合ったの?」
「んーいつだったかな?そんなに前ではないよ〜。かごめちゃんこそどうやって?もしかして向こう行ってたり…なんて言わないよねぇ?」
「え! ちゃん!向こうって、戦国時代の事!?」
「あー…やっぱそうだよねぇ。じゃなきゃ犬夜叉と知り合うなんて無理だよね」

は苦笑している。
「嘘ぉ………マジ?」

真顔で確認するかごめ。

「マジ」

同じ様に も真顔で返す。

「ふふvvじゃ、私コッチだから〜。向こうで会えると良いね♪」
「あ、そうだね!また向こうでねっ!」
「俺は会いたくなんてねぇよ…」

ボソッと小声で悪態をつく犬夜叉。
それを睨んで牽制してからかごめに向かって手を振りながら走り去って行った。

 

 

 

「ねぇ犬夜叉ぁぁー」
「あぁ?」
「なんで ちゃんと知り合いだって言ってくれなかったのよ〜」

かごめは頬を膨らませて犬夜叉を見上げる。

「ンな事言われてもよ。お前らが知り合いだったなんて知らなかったんだから仕方ねぇだろーが」

犬夜叉の言い分はもっともである。
かごめも無言で納得したらしい。不満そうな表情は変わらないが。

「かごめちゃん。 ちゃんって?」

膝で丸まる雲母を撫でながら珊瑚が口を開く。

「あ、私が居るトコでの友達なんだけどね。何だか犬夜叉と知り合いだったらしくて…」
「犬夜叉と、ですか?」
ちゃんもこっちに来れるらしいの。それで犬夜叉と知り合ったみたい」
「それではそのうち会えるかも知れませんね」

にっこりと微笑む弥勒。
何か下心がありそうに見えるのは気のせいであろうか…。

「法師様?なぁに良からぬ事考えてるの?」

珊瑚は不審な瞳で隣に座る弥勒を見やった。

「良からぬ事とは失敬な…」

 

 

 


落ち着いた声が を呼ぶ。

「何?」

同様に落ち着いた の声。

「犬夜叉の匂いがする」
「え、ほんと!?」

嬉しそうに声の主に近づく。

「近いな…」

 

 

 


「!?」

急に立ち止まる犬夜叉。
暫しの休憩の後、歩き出して間もなくの事だ。

「どうした?犬夜叉」
「この匂いっ…!」

そう一言残して匂いの元へ走り出した犬夜叉。

「あっちょっとー!犬夜叉っ待ちなさいよ!!」

喚くかごめを余所に一人でさっさと行ってしまう。あっという間にその姿は見えなくなってしまった。

「仕方ない。追いかけますか…」

いつもの事だ、と肩を竦めたのは弥勒。
珊瑚も同じ意味で溜息を吐いた。

「もーっ、勝手なんだから!」

そう言いつつも置いて行くわけにもいかず、渋々だが犬夜叉の消えた方へと一行は足を向けた。
細い獣道をだた真っ直ぐ歩いて行く。
やがて開けた場所が見えてきた。
日の光が燦々と降り注ぐ明るい場所。
薄暗い森の中を歩いていた一行は一瞬眩しさで目を細める。
次の瞬間には犬夜叉の後ろ姿が見えた。
その向こうには…

「あれは…殺生丸ですな」
「もう一人いるね、誰だろう」

犬夜叉と向き合っていたのは、腹違いの弟を冷たく見る殺生丸と見た事のない人物だ。
犬夜叉や殺生丸の様に見事な長く美しい銀髪をしている。
男物の着物に身を包んではいるが女性である事は間違いない。

「お、遅ぇーぞお前ら!」

かごめ達が追い付いた事に気付いた犬夜叉が振り返った途端発した言葉はこれだ。

「アンタが一人で行っちゃうからでしょ!」

食ってかかるかごめ。

「かごめちゃん。怒らない、怒らない」

そう言ったのは…銀髪の女性だ。

「え??」

キョトンとしてしまうかごめ。

「あ、ゴメン。わかんない?私だよ、
「へ?……ええぇぇぇーっっ!?」
「何を驚いてるんだぁ?」

犬夜叉は の方を向く。

「んー…やっぱこの髪の色とか?」
ちゃん!どういう事!?」

かごめは の肩をガシッと掴んだ。

「此処、見て」

そう言って は髪をよけて耳たぶを見せた。

「え?…あ、ピアスがない」

学校で老教師に注意されていた深い蒼色のピアスが見当たらない。

「つまりそういう事なのよ。あのピアスをしてないとこの姿になってしまうの。私は純粋な妖怪だから」
「あの時見た 、どう見ても人間そのものだったよなぁ」
「だから人間そのものになりきってたんだってば」
「よ、妖怪? ちゃんが?え、だって ちゃんは私と同じ時代の人で…あ、あれ?」

混乱してくるかごめ。

「確かにね、私はかごめちゃんと同じ時代で生まれ育ってきたけど。妖怪である事は間違いないよ」

キッパリ断言する。

「現代で生まれた妖怪、って事?」
「そう。もう僅かにしか残ってないけどね。私の両親も紛れもない妖怪よ」
「そ、そうなんだ…」

未だに信じられない、という顔をしているが信じざるを得ない状況だ。
が現代で普通に生活しているのは目にしている。こうして妖怪の姿である所も見てしまった。
これ以上の証拠はないだろう。

「でもね、現代でずっと生き続けるのは難しいのよ。そう年を取らないウチに死んだ事にしないと…」

困った様に は言う。

「なんで!?」
「だって人間と妖怪じゃ老化速度も寿命も違うでしょう?父様も表向き死んだ事になってるし。
私もそう遠くない未来には生きながらにして死んだ事になるの」
「な、成程。でも…どうやって生活していくの?」
「私は妖怪でありながら巫女としての力を持ったせいか、時空(とき)を越える能力を持ってるの。
だからこの時代で暮らそうと決めてる」

ふわりと、幸せそうな笑顔を浮かべる

「?」

その笑顔に気付いたかごめは首を傾げる。

(なんでそんなに幸せそうなの?)

…」

の背後で何も語らず静かに佇んでいた殺生丸がようやく口を開いた。

「あ、うん。わかった」

殺生丸の方を振り返りそう言った 。今の一言で殺生丸の言いたかった事がわかったらしい。

「じゃ、私達もう行くね。また顔会わせる事もあるでしょ。じゃあね!」
「あっ…」

待って、という言葉は続かなかった。
何故なら…
は腰に巻いたふわふわとした毛皮(と言うか尻尾)を左右になびかせながら、
殺生丸の腕に自分の腕を絡ませて何やら言葉を交わしていたのだ。
これ以上にない綺麗な笑顔を浮かべて。

「そっか。そういう事か」

ついかごめも笑顔をこぼす。
隣では犬夜叉が固まっている事にも気付かずに。

「犬夜叉?どうしたんじゃ?」

七宝が犬夜叉の顔を覗き込んでいる。

「見ましたか?珊瑚」
「うん、見た。あの殺生丸が、あんな優しそうな表情出来るなんて知らなかったよ」

犬夜叉が固まった原因に気付けた二人も驚きを隠せないでいた。

 

 

 


「いつになったら私の元へ来るつもりだ?」

僅かに不機嫌そうな声音の殺生丸。

「だからまだ先だってばー。少なくともあと10年後、かな?」
「待っていられん…」
「じゃぁ他の妖怪の女と結婚でも何でもしちゃえばぁ〜?」

ニヤリと笑いながら殺生丸から一歩下がる
しかしそれ以上下がる前に は腕を引かれ、殺生丸の腕の中に閉じ込められていた。

「冗談ではない。私の妻となるべきは だけ…」

言い終わらぬうちに、その唇は の唇に静かに重ねられた。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

うっわー…
すげぇだらだらと…(滝汗)
しかも内容薄いー(T-T)
殺様夢なのに出番少ないってどうよ!?
思い付いたネタを考えなしに勢いで書いちゃいけないね、しくしく
いや…でも現代に生き残る妖怪
良いネタだと思ったんだよーッ

−2003/5/6−