ふらふらと歩いていた。
それだけ。
アテなんてなかった。
気の向くままに、進もうが戻ろうがどっちだって良かった。
それが……此処に居たい、そう思う様になっていた。

 

 

 

 

定位置

 

 

 

 

俺は幼い頃に一人にされた。
ちょっと遊びに行くつもりで村を離れた隙に。
空が橙色に染められる頃、空腹のお腹をさすりながら帰って来てみれば何もかもがなくなっていた。
残されていたのは絶望と、なくても良い幸せの残骸。
焼かれた村の悲惨な姿。

一人じゃ何も出来ないガキにどう生きろと?

そう漠然と考えつつも結局生き抜いていた。
気が付けば生きる術を身に付けていた。
子供らしからぬ術を。
それだけを頼りにこうして今も生きている。
何の望みもないままに。
ただただ……
そう、俺だけの居場所を求めていたのかも知れない。
どれだけ多くの土地を訪れただろう。

 

 

 

「…夕暮れか。今日はここらで一泊かねぇ?」

森の中の開けた場所。
は一人大木に背を預けて座り込んだ格好。
眠りに落ちたのかその瞳は静かに閉じられている。
足下には炎が揺れ、時折パチパチと音がたつ。
次第に暗くなる森。
薄暗い森の中でゆっくりと は瞳を開く。
近くに何者かの気配を感じたからだ。

(妖怪でも獣でもない…人間か?)

用心の為、腕に抱いている得物を持つ手に力を込める。
気配はこちらに向かっている。
どうやら の足下に灯る炎を目指しているらしい。

(追い剥ぎの類か〜?)

呑気にそんな事を考える。
気配は複数。
の間合い一歩手前で気配は立ち止まる。

(おや?コッチの間合い読まれた?結構腕立つのかねぇ)

思わず首を傾げそうになるのを何とか堪える。

(んー5人、6人か……いや7人だな。一人微妙な気配だけど…)

ヒュンッ

きらめく刃が を狙う。

「いきなり攻撃してくんのかよ」

小さく毒づくと素早い身のこなしで飛び上がる。
再び間合いは広がる。

「へぇ、この俺の攻撃を避けるなんてやるじゃねぇか」

楽しげな声。

「別にどぉって事ないけどー?」

飄々と言い返す

「ふん、言ってくれんじゃん。…お?なんだお前結構男前じゃーんvv」

炎で僅かに確認出来る の顔を見た相手は嬉々とした表情。

「へ?…俺が男前ねぇ。そう言うアンタも結構可愛いっぽいんじゃない?」

も嬉しそうに口元で笑う。

「「………」」

しばし見つめ合う二人。

「なぁ、アンタ名前は?」

先に口を開いたのは だった。

「俺は蛇骨だ。お前は?」
「俺は 。蛇骨か、男だろ?」
「あぁ」
「期待裏切って悪いけど…俺こう見えて女だぜ?」

は苦笑を浮かべる。

「何ぃぃぃっ!?」

徐々に表情が邪悪になってゆく蛇骨。

「やっぱ勘違いされてたか〜。でも俺、お前気に入った!」
「…俺は別にお前に気に入られてもなぁ」

蛇骨はつい溜息を漏らしてしまう。
戦闘モードに入りかけてた蛇骨は、緊張感のない によって普段の表情に引き戻されてしまった。

「まーいいわ。俺もお前を殺すのは惜しい気がしてきたしな」
「そりゃ有り難い」
「ったく。女が男みてぇな出で立ちで、しかも俺達の獲物を横取りしたなんてよ〜」

武器を背に納めながら呟く。

「蛇骨達の獲物?俺が昼間襲った城の事か…悪かったな。そろそろ金が尽きてきたからさ」

そう言いつつ思い出し笑いを堪える様な表情で手にしている愛刀の柄を撫でる。

「!?……へぇぇ、何だ も俺達と似た様なモンか。楽しかったか?」

ニヤリと笑みを浮かべる。

「まぁね」

もニヤリと返す。
これ以降、 は蛇骨達七人隊と行動を共にする様になる。

 

 

 

「なー蛇骨〜」

気の抜けた の声。

「んぁ?」

それに答えた蛇骨の声も負けじと気が抜けている。

「腹減った…」

溜息混じりに吐き出す。

「あー俺もだわ。一緒に飯食いに行くかー」
「おぅ行こう〜」

二人仲良く並んで歩く姿。
その背中を蛇骨がこれまで時間を共にした仲間が見やった。

「遅くなるなよ」

という声で見送っている。

「食ったらスグ帰って来るよ」

満面の笑みで返事したのは

 

俺はようやく見付けられたのかも知れない。
楽しい場所。
幸せだと思える時間。
俺だけの空間を。
ずっと、これからも此処にいたいと思える俺がいるべき"定位置"を。
血塗られた上に立つモノであっても良いじゃないか。
俺が良ければ。

 

「蛇骨」

聞こえないかも知れない小さな声で呼ぶ。

「何だ、

蛇骨は聞き逃さずに反応し、 の方へ目を向ける。

「好きだっ」

眩しく笑い、蛇骨の手を取る。

「わかってるよ…俺だって好きなんだからな。忘れてねぇだろうな」

に握られた手を握り返す蛇骨。

 

俺はずっとずっと…死ぬまで蛇骨の隣に居たい……

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

こぉれヒロインかぁぁ??
男主人公の間違いなんじゃ…って自分でツッコミ入れても仕方ないッスね
いや、もー…すみませんm(_ _)m
可愛い蛇骨×格好良いヒロインで書いてみたいなぁ
…なんて考えた涼風が悪かったんだね
話もかなり詰め込んだし
取り敢えず涼風が書きたかったのは最後の部分だけです、ハイ(笑)

−2003/4/13−