ファースト・インプレッション

 

 

 

コロニーに潜入し、現地の派遣員と連絡を取って衣装などを調えて以後のこと、イザークは半ば呆れたようにぼやいた。

 

 

「何だ、この馬鹿騒ぎは?」

「今はこのコロニーの創立何十周年だかの記念祭が催されてるんだね。こういう時でもなきゃ、いくらなんでも誤魔化しての入国は難しかったし」

 

 

冷静に言いながら周囲を見回す の視界にも、色とりどりの色彩が溢れている。
大通りには人が溢れるように闊歩し、話し、踊り、飲み、食っている。
喧騒の極致、その真っ只中だからこその堂々とした――――潜在的には敵地であることを考えればいっそ不遜なほどの――――会話だ。

 

彼女はやや危なっかしい手つきで地図を広げた。

 

 

「さて、まずはブルーコスモスと繋ぎを取らないといけない・・・んだけども」

 

 

はなぜかイザークを見、自分の胸元を見、しばし思案。

 

 

「うん。ココが一番無難だ」

 

 

地図の一点を指差した を覗き込むと、細っこい指が指しているのはひとつの建物だ。
それは距離的には近く、比較的わかりやすそうな場所にある。だが、これは・・・。

 

 

「おい、馬鹿」

「馬・・・、その呼び方やめてよね・・・何?」

「ココに何の意味がある?」

「うーん・・・。まあ、ブルーコスモスも色々なんだって事だよ」

「どういう意味だ?」

「んー、来ればわかるって。
ココはブルーコスモスの街って言われるほどだから窓口はいたるところにあるけど、ガードはそれなりに固いんだ。
きちんと手順を踏んで、話はそれからだよ」

 

 

にこりと笑んで、 は先に立って歩き出し・・・、不本意ながらついてきたイザークは、程なくして先ほどの地図の場所に出た。
そこは、

 

 

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。どれにするね?」

 

 

色とりどりの色彩と、それを冷やすための簡素なドライアイスの冷蔵装置。
いわゆるところの――――アイスクリーム屋だ。

 

 

彼女はそのショーケースを興味深げに見回していたが、やがて謎かけめいた言葉を吐いた。

 

 

「あたし、こんなのよりももっとキレイなアイスが食べたいな」

「?」

 

 

不意にそれまでの明朗さと違って棒読みとも取れる口調で彼女はそう言った。
怪訝そうにするイザークを一度だけ横目で一瞥すると、

 

 

「こんな陳腐な、『間違った』色はイヤ。あたしはもっとキレイなものが食べたい。例えば――――

 

 

それまでの人の良さそうな表情から一点、針のような視線をこちらに向けてくる主人に対し、 はどこか挑発するような微笑で先を続けた。

 

 

「そう。例えば、青いアイスなんていいよね。一回食べたら忘れられない、『まるで清浄な世界を示すような』・・・」

 

 

三者の間で、探るような視線と挑発的な視線が交錯した。

 

 

ややあって、まず態度を変えたのは店主だった。
彼は最前の愛想良さを取り戻し、『お嬢ちゃんは見込みがあるね。そしたら特別にこのアイスをあげよう』と、
の手に青い色彩のアイスクリームを手渡した
代金は要求されない。

 

 

「頼んでもよかったのに。っていうか、そのほうが都合よかった」

 

 

冷たいのが苦手で噛めないのか貧乏性なのか、舌先だけでアイスクリームをちろちろ舐めながら、 はぽつりと言った。

 

 

「どういうことだ?」

 

 

訊けば、彼女はこれ、とアイスを目線で示した。

 

 

「さっき、『見所がある』ってあたしは言われた。だからこれを出されたんだけど・・・」

 

 

ちょっとだけもったいぶって、 は簡潔に説明した。

 

 

「このアイスの名前は"ブルーコスモス"」

「!?」

「この街には他にもそういう事がたくさんある。"ブルーコスモス"っていうのはアイスじゃなくて他の食べ物だったり、本だったりもする。
まずはそうやってつなぎを取るシステムになってるし、そのシステムが無駄なく機能するほど、その事はこの街に溶け込んでいる・・・
"ブルーコスモスの街"って呼び名は伊達じゃないってコトだね」

「・・・なるほど。じゃあさっきから感じてるこの執拗な視線もその一環か」

 

 

カモフラージュにかけていたやや度のきつい眼鏡を外し、イザークは視線だけを背後を窺うように横に向けた。
と、と が呟き、驚いて突っ込んだせいで口の周りについたアイスを舌で拭いながら視線を向けてくる。

 

 

「・・・さすが。トップガンも伊達じゃないね」

「今回は相方がこんな馬鹿だからな」

 

 

その言に少女は何か言いたげな顔をしていたが、イザークが視線を合わせなかったので何も言わなかった。
再び舌先でアイスを舐めながら、頷き。

 

 

「"ブルーコスモス"の銘のあるものを持ってるのは、入会――――じゃない、なんだろーね、上手い言い方思いつかないや――――志願者だけ。
コレを持ってるあたしも、あたしと一緒にいる君も、今は志願者として見られてる」

「らしいな。――――あからさまなのか格下なのか、視線で丸わかりだ」

 

 

は答えず、溶けかけのアイスをわずかに噛んだ。
路地に入り、入り組んだある一点で足を止める。

 

 

その向こうには、数名の男がいた。

 

 

は笑んで、それまで手に持っていたアイスを手指からすべり落とさせた。
べちゃ、と情けない音とともにアイスは地面に落ち、石畳に安っぽい青の色が広がる。
それを見ず、視界には武装した男たちだけを見据え、 は微笑を深くする。

 

 

そして囁く言葉は、唯一無二の決り文句。

 

 

「我らが青き清浄なる世界のために」

 

 

こうして、不倶戴天の敵との危なっかしい"接触"が幕を開けるのだ。

 

 

 

 


 

あとがき

ていうか展開早いでしょうか(汗)。むしろアイス屋で接触取れるブルーコスモスって一体・・・。
このコロニーは、影でブルーコスモスとつながりを持っています。
言わば宇宙における入隊所といいますか、そんな感じで捉えていただければ。
でもまあ、これくらいでぐいぐい行きましょう。
じかいはちょっと面白いかもしれませんねー。戦闘シーンアリ?(笑)