突発的休暇

 

 

 

 

 

コツコツと軽い靴音を立てて歩く少女。
揺れている背中まであるカラス色の髪。
大きな瞳は明るい緑色。
彼女は大西洋連邦に所属する歴とした軍人である。
それを証明する様にピンク色の軍服に身を包んでいる。
真面目な性格で仕事もそつなくこなす。
しかし真面目であるが故に無理をしてしまうのが欠点。
よって、本日は上官によって休暇を取る様に言い渡されてしまった。

「眠いけど…昼間からなんて眠れないよね〜」

別に休暇など言い渡されずとも、今日は特にする事がなかったのだけれど。
仕事は殆ど片付けてしまったから。
内心そうも思いながら艦内をぶらつく。
曲がり角を曲がると、前方に色違いの軍服姿の人物が目に留まる。
あまり人の寄らない其処は格好の隠れ家的休憩場所となっている。
青い軍服のその人物。
背中を丸め、覗き込む様な姿勢で手元のゲーム機に集中しているクロトだ。
思わず足を止めてその姿を凝視してしまう。

(クロトだ。何もこんなトコでゲームしなくても……)

僅かに呆れた様な表情を浮かべるが、止めるでもなくその場に立ち尽くす。
声をかけようか、見付からないうちに立ち去るか。
迷っているうちにクロトが顔を上げる。

「何?」

どうやら最初から気付かれていた様だ。

「え…あっ。別に用はないんだけどっ」

緊張が声に出て裏返ってしまう。
それもそうだろう。
滅多に会話する事もない片想いの相手なのだから。

「休憩?」
「んー、休憩って言うか休暇。艦長が休め、って」

苦笑して肩を竦める。

は真面目過ぎるんだよ。根詰めて仕事して寝不足になって楽しい?」
「…楽しいワケないでしょ。そう言うクロトは楽しくゲームして寝不足、だよね」
「どうせ寝不足になるなら楽しい事してた方がいいだろ」

拗ねた様に横を向くクロト。
は小さく笑うとクロトの隣に座る。

「それ面白い?」

ゲーム機を指差して問う
クロトは無言で の手を掴むとその掌にゲーム機を乗せる。
キョトンとする

「やってみれば?」
「…いいの?」
「じゃなきゃ貸さないだろ」
「そっか。んじゃお借りします」

ペコリと首を折る
掌に乗るゲーム機はクロトの熱で僅かに温かくなっている。
それを感じて何やら照れくさい だが、なんとか押し留めてゲームを始めた。
ゲームは好きだが苦手な
なかなか思うように先へ進まない。
隣にクロトがいると思うと余計に。
ふわりと頬に当たる柔らかい感触。
チラリと横目で見ればクロトの明るい色の髪。
の手に収まっているゲーム機を覗き込んでいる為に寄り添っている様にも見える。
それに気付いてしまった は更に緊張する。
緊張の度合いが大きくなるのに反比例してゲームのスコアは下がる一方。

「下手くそ」

真横から呟かれる言葉。

「むぅぅ…」

誰のせいよ!?などと心の中で叫びを上げながらも無理矢理ゲームに意識を向けていく。
そうしているうちにすっかりゲームに集中していた
そこそこのスコアを叩き出し、どうだ!と言わんばかりに顔を上げた途端に感じた重み。
肩が重い。
まさか…と思いつつぎこちない動きで隣を見ると……
案の定。
寝息を立てるクロトの頭が乗っている。

ぅわわわっっ!!

ぎょっとして体を固くする。
そうやって身動ぎしたせいで、クロトはずるずると滑り落ちて…

ぽすっ

の太股に乗ってしまうクロトの頭。
俗に言う膝枕。

きゃーーーーッ!

汗ばんだ手から落ちそうになるゲーム機を慌ててきゅっと握り締める。
肩から滑り落ちた事で目を覚ますかと思われたがクロトが目を覚ます気配はない。
安堵した はゲーム機をそっと脇に置く。
ドキドキと高鳴る胸を押さえる様に片手を置くと、静かに深呼吸して自分を落ち着かせる。
目覚めそうにないのをいい事に、柔らかそうな髪に触れる。
それでもクロトは目覚めない。

こ、こんなチャンス滅多にないよねぇっ!?
うわー…クロトの寝顔可愛い〜ッ

穏やかに眠るクロトの髪を梳きながらその寝顔を眺めている。
そうしているうちに にも眠気が襲う。

う…
クロトがあんまりにも気持ちよさそうに寝てるからぁぁ

しかしクロトに膝枕をしている状態であり、 は動く事もままならない。
時折カクッと首が落ちる度に目を瞬かせて必死に堪える。
が、それもむなしく次第に眠りの世界へと誘われていった。

 

 

 

 

 

どれだけの時間が過ぎたのか。
うっすらと の瞳が開かれる。

「起きたか?」

頭上から聞こえた声。
クロトだ。
は遅い動きでそちらを見上げる。

「ん…。私、寝てた?」

そう言ってからはたと気付く。

私、クロトの事膝枕してなかったっけ?

何故自分がクロトを見上げているのか。
よく見れば体勢が逆転しているではないか。
クロトが を膝枕しているのだ。
慌てて起き上がる。

「寝てていいのに」
「なっ何言ってるの!ごめん、私ったら…」

言いながら火照る頬を両手で包み込む。

「別に…。僕こそいつの間にか寝てたし」

クロトは寝癖のついた の髪を梳く。
それに更に顔を赤くする

「いいよ、自分で直す…」
「お前さ、ちゃんと寝ろよ。隈作ってまで頑張る必要ねぇだろ」

髪を梳く手を止めずにクロトはぶっきらぼうに言う。

「えっ、ヤダ!隈見えるの!?」

化粧で誤魔化しきれてると思っていた は勢い良くクロトを振り返る。

「他のヤツはどうか知らないけど。僕は気付いた」

未だ頬を包んだままになっている の手。
その上からクロトの手が重ねられる。

僕“は”気付いた?それって…
って言うかこの状態は何!?

パニックを起こしそうな
クロトはそんな を引き寄せて優しく包み込む。
そして耳元で囁いた。

気付いてないけどさ。僕いつも見てたんだけど?」

大きく瞳を見開いた はクロトをただ見上げる事しか出来ない。
恥ずかしくても目を逸らす事も腕から逃れる事も出来ずに固まっている。

いつも見てた?
ろくに喋った事もなかったのに?
いや、それは私も同じだけど…
でもこれってつまり…私達って……
私達って

「そんな緊張しなくても何もしねぇよ。今は」
「えぇっ!?ちょっ、何、今はって!」

悪戯っ子の様な笑みを浮かべたクロトに緊張感を解かれた は、クロトの胸をポカポカと叩く。
しかしその行動にクロトは笑みを深くするばかりだ。
むぅっと頬を膨らませる を再び腕の中に収めると言った。

「まだ寝てていいよ。夕食の時間になったら起こしてやるから。早くその隈消せよな」
「ごめんね!隈作った不細工な顔で!!」

自棄になって言い捨てるとクロトの胸に額を押し付けた。

「誰が不細工なんて言ったよ。僕、一生懸命な が好きなんだ。でもそこまで無理してんの見たら心配になるだろ」

さり気なく想いを伝えるクロト。
その頬は僅かに赤い。
には見えていないが。

「…わかった。もう無理はしない。私も好きなクロトに心配なんてかけたくないし……だから、おやすみ!」

思いがけない返事に腕の力が抜けてしまうクロト。
一瞬の間の後に漸く理解したクロトは抱きしめる腕に力を込めた。
疲れの溜まっていた は互いに想いを寄せ合っていたと判明したばかりの想い人に体を預けて眠った。
幸せそうな笑みを浮かべた寝顔で。

 

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

いきなりクロト夢
最近煮詰まっててサッパリ書けない〜(T-T)
なんて思ってたら突如として降って来たネタ
短期連載はどぉした!?
多分フラマリュのせいだ…だから書けないんだぁぁ(責任転嫁するな)
連合三人組ヒットしてるせいかなぁ
シャニ夢も書きたいな(オルガは?)

−2003/7/10−