耳にも休憩を
自室の扉を開けた瞬間、ベッドからだらりとぶら下がっている足が見えた。
微かに聞こえてくるのは音楽。
「またか…」
部屋の主である は溜息を吐くとベッドの方へと歩を進めた。
「こら!不法侵入者」
はベッドに寝転びウォークマンで音楽を聴いていたシャニを小突く。
シャニは眉間にシワを寄せてゆっくりと瞼を持ち上げる。
一瞬
と目が合うがすぐに逸らされる。
「無視しないでくれない?」
これだけの近距離であればウォークマンをしていても
の声は聞こえる筈だ。
例えシャニがいつも大音量で聴いていても、だ。
はシャニの横に座るとウォークマンを外してしまう。
「……何?」
「そりゃ私のセリフでしょう」
「別に」
「別に、って…何で用もないのに来るのよ?」
「………」
ただでさえ言葉数が少ないシャニは無言になってしまう。
に背を向けて丸まっている。
その姿と手元にあるウォークマンを見比べる
。
ふと以前からどうしても試してみたかった事があったのを思い出す。
ニヤ、と口元に笑みを浮かべるとそっと立ち上がる。
ウォークマンを机に置くと、引き出しから何かを取り出した。
空いている手で照明を掴むと、ズルズルとコードを引き連れてシャニの丸まっているベッドへと置いた。
流石に柔らかいベッドの上では安定感に欠けるが倒れる事はないだろう。
パッと明るくなると、シャニは眩しそうに目を細める。
「何してんの?」
言いながら背後に座っている
を振り向こうと体を捩る。
が。
「コッチ向くな」
の手によって元の方向へ戻されてしまう。
照明の方向を修正した
はシャニの髪に触れる。
細い指先で髪をよけると次は耳に触れる。
今まで何度となく
の部屋へ侵入した経験のあるシャニだが、こんな風に触れられた事などない。
何やら気恥ずかしい様なくすぐったい様な。
幸せな様な。
は特に反抗してこないのを確認してから、引き出しから取り出した物を持ち直す。
耳かきである。
「前から試してみたかったんだよねー」
嬉しそうに呟きながら、
は耳掃除を始める。
漸くシャニも
のしたかった事を理解する。
「何で耳掃除なんかしたかったの?」
気持ちよさでうとうとと瞼を閉じたシャニは問いかける。
「ん?だって、ほら〜、ウォークマン使う人ってスグ耳つまっちゃうって言うじゃない?本当なのか気になってたんだ」
「それだけ?」
「そぅそれだけ。でもちゃんと耳掃除すると聞こえ良くなるよ。いっつもウォークマン使ってるんだから少しは気遣った方いいんじゃないの?」
「じゃあ
がやってよ」
シャニの言葉で一瞬動きを止めてしまう 。
「こーいうのは彼女にでも頼んだら?私のは今回限りって事で……」
プイッと横を向く。
それを聞いたシャニはのそりと起き上がると耳かきを握った
の手に自分の手を重ねる。
「それなら
が俺の彼女になれば問題ないんだ?」
「え…?」
弾かれる様にシャニに顔を向ける
。
その顔は徐々に紅潮していく。
口元に笑みを浮かべているシャニを呆然と見る事しか出来ない。
「問題ないんだろ?」
シャニは再び問う。
「え、あのぅ、そ、それはー…」
しどろもどろな 。
「俺の事嫌い?」
悲しげな表情を浮かべたシャニは の顔を覗き込む。
「えっ、き、嫌いじゃないよ!」
「じゃあ好き?」
「へ!?あ、うー」
「俺は
の事大好きなんだけど」
真っ赤になって呻る
。
シャニは優しく笑んで、
の頬に指を滑らせた。
「わ、私も…好き、です…」
恥ずかしいのか俯いてしまう。
そんな
を愛おしそうに包み込むシャニ。
のさらさらな髪を梳きながら額にキスを落とす。
「また耳掃除して…」
「わかってる。シャニ専属の耳かき師にならせて頂きマス」
赤い顔で言った は、シャニの背に腕を回し意外に逞しい胸に頬を寄せた。
++後書き…もとい言い訳++
あらら〜?
最初考えてたのと随分違う様な??
しかも短いしー
ま、いっか
しかし、シャニに「俺の事嫌い?」って言われて嫌いと答えられるワケがなかろう!?
とか自分で書いてて思ってしまいました(笑)
いや、涼風の本命はクロトですけどv
−2003/7/24−