戦場の薔薇

 

 

 

 

 

ひらりと軍服の裾をひるがえして仁王立ちしている少女。
鋭い眼差しでドックにそびえ立つ金属の人形を見上げている。

金属の人形――少女の愛機である紅い色に染められたシグーだ。

青銀色の髪と綺麗なコントラストを描いているそれは本来白い色をした指揮官専用機である。
しかし彼女は指揮官ではない。
このザフト内でも指折りのパイロット。
それ故にこの機体を与えられている。
とは言え…
彼女の戦い方が非常にムラのあるものである事は有名である。
その時の気分によって左右されるのだと言う。
死と直結する戦場において気分も何もないのだが…。

しかし。
ひとつだけ必ず輝かしい戦果を残す条件がある。
その為、彼女はどこの隊にも属さずにその条件に合う戦場にのみ送り出される。
非常に特殊なパイロットなのだ。

紅いシグーから視線を逸らした少女。
今度はその瞳で同じ様に紅い別の機体を捉えている。

「あれがヘリオポリスの裏で連合が開発した機体ね」

GAT−X303イージスだ。

?… なのか!?」

少女の背後から聞こえた声。
僅かに驚きが込められている。

「ん?あーアスランじゃない。久し振りね」

くるりと振り返った少女―― は柔らかく笑んで見せた。

「ああ久し振り。 と会うなんて珍しいな」
「そうだねー。ま、私はあちこちの隊を渡り歩いてるからいつかは会うだろうと思ってたけど」

そう言ってへらっと笑う。

「あーまぁ…。でも は何で隊に所属しないんだ?」
「そりゃ、効率良く戦争する為でしょ♪」
「効率?」

アスランは首を傾げている。

「そ、効率。私が張り切って戦闘に挑む条件を満たす戦場にしか送り出してくれないのよ。上のお偉いさんがね〜」
「条件って…。戦争するのに張り切る条件なんて必要ないだろ?一歩間違えれば死ぬんだぞ?」
「いや、私もそうは思ってるけどさ。普通に戦ってるつもりだよ?いつでも!
…だけど〜、何か、周りから言わせるともっと真面目にやれって感じらしくてね」

むっとした様に口を尖らせて肩を竦める。

「で、此処は が真面目に戦いに集中する条件が揃ってるのか?」
「そうなの〜vvクルーゼ隊長はいい顔しないでしょうけど」

くすくすと笑いをもらす。

「んじゃ、私は隊長とミーティングあるから行くね。また後で〜」

年齢より幼い笑顔でひらひらと手を振ると弱い重力の中を泳ぐ様にドックを出て行く。
曖昧に会話を切られたアスランは「相変わらずだな…」と戦友である少女の後ろ姿を見送った。

 

 

 

クルーゼとのミーティングを終わらせ、ガモフにて愛機の整備を行っている
整備、と言っても殆どする事はないに等しい。
常に万全の状態を保てる様に気遣っている為、せいぜい一通りのチェックを行う程度だ。
ここ暫く戦闘に参加していないのも手伝って傷一つ付いていない。

「あー…暇ひまヒマーッ」

コクピットに沈み込む様に座った は四肢を投げ出して言った。
そんな の言葉に顔をしかめるイザーク。

「さっきから煩いヤツだな、貴様は」

紅いシグーの隣に列ぶデュエルの整備をしていた筈のイザークは、いつの間にか を見下ろす様にシグーのコクピット前に居る。

「だって暇なのよ」

真顔で言い放つ。
イザークはつい溜息を漏らした。

「そんなに戦いたいのか?」
「んー…当たらずも遠からずってトコかなぁ?あ、別に戦闘狂じゃないよ、言っとくけど!」

ビシッとイザークの鼻先に人差し指を突き付ける。
イザークは「もういい」とでも言いたげにその手を押し退けた。
丁度それと同時だった。
艦内に響くけたたましいアラート。
次いで戦闘配備のアナウンスが流れる。
二人は瞬時に機体を蹴ってドック脇にある更衣室へ飛び込む。
流石に宇宙空間ではパイロットスーツは必須。
慣れた動作で早々に着替えを済ませると再びコクピットに収まる。
とイザークがコクピットに乗り込んだ頃には、ドックへやって来たニコルとディアッカの姿が目に入る。

「お二人とも早いですね」
「フン、貴様等が遅いだけだろう」
「まぁた、イザークは。私達たまたまドックにいただけだよ。んじゃ、先行くね」

先に出撃準備が整っていた 機とイザーク機は瞬かない星が彩る戦舞台へと飛び出して行く。
ヴェサリウスからはアスランのイージスも出撃している。
そのヴェサリウスにて口元に笑みを浮かべる人物在り。
ラウ・ル・クルーゼだ。

「"戦場の薔薇"と謳われる 嬢か。お手並み拝見、といこうか」

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

取り敢えずヒロイン紹介編?
故に短くなってしまった…
次のお話はヒロインが突進してくれる筈です(笑)
"彼"に!
ここでアスランとイザークが出張ってるのは涼風の趣味ですかね?(聞くなよ)

−2003/6/4−