捕虜の薔薇

 

 

 

 

 

額に包帯を巻かれた
右手で頭をさすっている。

「痛むのか?」

フラガが問いかける。

「いや、こんな怪我久し振りだな〜って」

そう言い空笑いをすると、ベッドの周りに集まるアークエンジェルのクルーを見渡した。

「ま、私も軍人だからこんな怪我の一つや二つ何ともないし?尋問ど〜ぞ?」

にこにこと笑いながら言ってのける。
捕虜となった自覚はあるのだろうか?

「…えぇと、先ずは名前を聞かせてくれるかしら」

完全に の空気に飲まれてしまっているのは艦長であるラミアス。
しかし横にいるバジルールも同様なので、それについては誰も触れなかった。

。知っての通りザフトのいちパイロット。因みに腕だけでのし上がって来たから大した価値はないよ」

あっけらかんと答える。
その表情は、言うなれば無邪気。
とても敵艦に捕らえられた、しかも敵の士官達に囲まれている状態でする顔ではない。

「“戦場の薔薇”が大した価値を持たないって?阿呆言うなよ〜?」

むにっと頬を抓るフラガ。
勿論力は込めていない。

「孤児だから家柄良いかなんてわからんし〜。腕が良いだけにテイのイイ捨て駒でしょ、私なんて」
「なんだ、孤児だったのか」
「一応、一世代目のコーディネイターだってのはわかってるんだけど」

普通なら暗い雰囲気にでもなりそうな話題だが、 の空気は変わらない。

「と言う事は、ザフトについての機密事項の類は…」
「知らなーい」

バジルールの言葉を途中で遮って返事を返す。
一瞬眉間にシワを寄せるバジルールだったが、相変わらずの に溜息を吐いて黙った。

「では、 さん。貴女には悪いのですが捕虜という事になりますので……」
「大人しく閉じ込められてくれ、でしょ?怪我のせいかアッタマくらくらしてて動きたくないし、
たまにで良いからエンディミオンの鷹貸してくれるなら喜んで閉じ込められとく♪」

にっこりとフラガに微笑む

「だそうですが?フラガ大尉」

笑いを堪えつつラミアスはフラガを覗き込む。

「あー…わかった、わかったよ。えーと、 だったな。
その“エンディミオンの鷹”呼ばわりはやめてくれ。俺の名前はムウ・ラ・フラガだ。覚えたか?」
「ハイ。ムウ・ラ・フラガね、ムウって呼んで良いですか〜?エンディミオンの鷹」
「……はぁ。何でもお好きに、お姫様」

何やら厄介な人物を捕虜にしてしまったな、と頭を抱え込むフラガであった。

 

 

 

空いていた士官部屋で休んでいる
このアークエンジェルには捕虜を収容する為の簡易牢くらいはある。
が、 の飄々とした雰囲気と憎めない性格を目の当たりにするとそんな所に閉じ込めるのも気が引ける。

「随分と甘ちゃんな艦長さんなのね」

ポツリと呟く。
その部屋には現在 しか居ないので、誰に聞かれる心配もない。
監視カメラも盗聴器の類も仕掛けられていないのは確認済み。
扉にロックはかけられてはいたが の手にかかればアッサリと開くだろう。
しかし、この部屋を逃げ出しても仕方がない。
愛機の動力が破壊されていて脱出する術はないのだから。

「取り敢えずあのクルー達じゃ、何をされるって心配もないよね〜」

言いながらゴロゴロとベッドを転げ回る。
確かにアークエンジェルのクルー達は軍人にしては人が良過ぎる。

シュン

軽いエア音と共に扉が開く。
寝転んだ姿のまま音のした方へ視線を向ける。

「ノックするとか、声かけるとか、出来ないの〜?エンディミオンの鷹」
「捕虜相手にそこまで気は使わないだろ、普通。ただでさえ甘い処置なんだしな〜」
「あぁ、やっぱりムウはそう思うんだ?私も同意見ね」

入って来たのはエンディミオンの鷹ことフラガだ。
その手には食事のトレーが乗っている。

「腹減らねぇか?」
「減った。運動後だしねー」

億劫そうに上体を起こし、「くれ」と言わんばかりに両手を前に突き出した。
随分と図々しい捕虜もいるものだ。

「食べさせてやろーか、お姫様?」

フラガは口の端を引き上げる。

「あーん」

フラガの言葉に素直に口を開ける
マイペースは崩れそうにもない。
フラガは呆れるしかない。

「お前、自分が捕虜だってちゃあんと理解してるかぁ?」
「頭ではねvv」
「それ、理解してねぇんじゃねぇのか?」

そう言いつつも律儀にスプーンに取ったオムライスを突き出す。
は躊躇いなくそれにパクつく。

「捕虜経験、あるのか?」
「まっさか。こんな失態初めてだよぉ。今頃クルーゼの奴ほくそ笑んでるんじゃないの〜?」

悔しそうにスプーンを囓る。

「行儀の悪いお姫様だな。残さず食えよ、怪我人」

ポンポンと頭を叩く。

「あれ、もー行っちゃうの?」
「…あんまり長居すると他の奴等が冷やかすんだよッ」
「ああ、そういう事。んじゃ、この食事も冷やかされつつ押し付けられたんだぁ?」

ニヤニヤと笑ってみせる
右手は変わらずスプーンを持っている。
空いている筈の左手は……しっかりとフラガの手を握って放しそうにもない。

「もう少しゆっくりしていけば?」

 

 

暫くの間、困った様に頭をかき回すフラガの姿が何度も目撃される事になる。

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

マイペース、マイペース♪
フラガ少佐、大変ね。変なのに懐かれて(笑)
それにしても…なかなか名前呼んでくれないなぁ(お前が書いてんだろうが)
えー、恐らく次回辺りで完結です
どーしよーかなー??(まだ迷ってんのか!?)

−2003/6/8−