天使の薔薇

 

 

 

 

 

クスクスと笑う声。
ニヤニヤと笑う顔。
それに対してうんざりするフラガと、満足げな笑みを浮かべている

「なぁ… ?」
「なぁに?ムウ」

フラガは隣に座っている を横目で見る。
はフラガを覗き込む様にして返す。

「お前さ、捕虜だよなぁ?」
「捕虜だね」

大きく溜息を吐くフラガ。

「んじゃ何でこんなトコでくつろいでるんだ!?」

思わず声を荒げるフラガ。
そう、二人が現在居るのは食堂。
笑っていたのは休憩中のクルーだ。

「艦長さんの許可は頂いてるんだけど?」
「一体どーゆー許可を貰ったんだよ!」
「ムウと一緒なら艦内自由に出歩いていい、ってvv」

嬉しそうに話す に爆笑するクルー達。
既に数少ない娯楽の一つにでもされている様だ。

「つーか!!普通そんな事許可しねぇだろ!? はザフトの軍人なんだぞー?」
「この艦について余計な詮索はしないって約束したモン♪ストライクを奪取するつもりもないし。私さー、連合に寝返ってもイイ?」

笑顔でとんでもない事を言い出す始末だ。
フラガは頭を抱えるしかない。

「いいなーソレ!フラガ大尉と一緒にエースパイロットなっちゃえば?」

トノムラが悪乗りする。

「おっ、そっかー。私の腕なら他のパイロット押し退けてムウの隣に余裕で並べちゃうモンね〜♪トノムラ、ナイスー!」

いつの間にやら仲良くなっていたのか、二人は楽しそうに喋り始める。
明るい性格の とトノムラ。
そのノリの良さですぐに打ち解けたのであろう。

 

 

 

 

 

はそれらしくない捕虜として過ごし、早くも数日が経過している。
あれからザフト側より についての追求は一切無い。
の言う通り、優秀とは言えいちパイロットに過ぎない は切り捨てられたのだろう。
少しくらい落ち込んでも良いものだが…。
は毎日変わらずフラガの周辺をうろちょろしてはちょっかいを出して過ごしている。
その上アークエンジェルの臨時クルーとして働く姿まで見える。
もザフトを見限ったのかも知れない。
元々天涯孤独の身。
意地になってまでプラント側に付かなければならない理由はないのだ。

「ねー予備パーツはぁ?」

ドックに響く の高い声。
どうやら整備の手伝いをしているらしい。

「ほら〜、これこれ!もー交換時なんだけど?」

古いパーツを振りかざしながらマードックの方を向いている。

「いつものトコになかったか?」
「うん、なかった!」
「んじゃ、倉庫の方見てくれ」
「めんどー…」

顔をしかめて重力の弱い空中へパーツを放り投げる。
しかしハッとして再びマードックの方へ体を向けた。

「ねぇ、私のシグーは!?」
「あぁ?あの機体がどうかしたか?あれなら…ほら、あそこに放置したままだ」

マードックはドックの隅の方を指差した。
そこにはボロボロになった紅いシグーが横たえられている。
回収後、誰にも触れられていないのだろう。
そんなシグーの方へ泳ぐ様に移動する
手には工具が握られている。
そんな遣り取りが繰り広げられているところへやって来たのはフラガだ。
メビウス<ゼロ>の整備にでも来たのだろうか。
フラガは放置されていた紅い機体をいじっている の姿を見付ける。
ふわふわと愛機を通り過ぎ、真っ直ぐ を目指す。

「何してんだ?今更」
「ん…?あぁムゥか。ストライクのパーツが足りなくてね。倉庫まで行くの面倒だからこれから取っちゃおうと思って」

作業を続けながら、なんて事なさそうに答える。

「…いいのかぁ?今まで一緒に戦って来た相棒だろーが」

僅かに呆れている様な顔をしている。

「だってもう不要でしょ。だったら有効活用してあげた方がいーでしょ?たださえこの艦は物資が不足してるんだし」
「んまぁ、そうだけどな。そういや聞いたか?合流の話」

アークエンジェルはもうじき第八艦隊と合流出来る事になっている。

「うん、艦長に聞いたよ。二人で話し合って今後の身の振り方も決めたし」
「そう……あ!?俺は何も聞いてないぞ〜?」
「えー…いやー、だってさぁ」

あらぬ方向を見て誤魔化す

「しつこく俺の周りをうろついといてこの仕打ちとはなぁ…」
わざとらしく肩を落として見せる。

「で?どうするんだ」
「ん。オーブへ亡命する事にした。だから避難民と一緒のシャトル乗って地球降りるよ」
「そうか。それもいいかもな」

フッと笑いを浮かべたフラガは の頭をかき混ぜる様に撫でた。
は猫の様に目を細めてされるがままだ。
それから数時間後。
アークエンジェルは第八艦隊との合流を果たし、補給及び避難民のシャトルの搭乗が行われている。
もこのシャトルに乗り込んで地球へ下りる事になる。

「なんか名残惜しいぃぃー」

うるうると瞳を潤ませる
目前には些かげんなりした風であるフラガの姿。
のそれが演技であると気付いている様だ。
勿論 も相手にバレている事などわかっている。
要するに面白がってからかっているのだ。

「いいからさっさと行け!置いて行かれても知らねぇからな、俺は」
「あ、ひっどーい!…ねぇねぇ、もし置いてかれたらぁ、面倒見てくれる?」

ニヤニヤと笑いながら腕を絡ませる。

「寝言は寝てから言うモンだぞ、
「冷たいわ〜。 ちゃん泣いちゃうんだからッ☆」
「何が泣いちゃうだ。嫌になるくらい笑ってるヤツがっ」

フラガはむにむにーっと の頬を抓る。
抓られている は「痛いよーぅ」などと喚きながらも顔は終始笑顔。
とても別れの場面には見えない。
いや、再会の確証がないからこそ敢えてそうしているのかも知れない。
何せ今は戦争の真っ只中なのだから。

「もー、ザフト軍人である私が此処に残る事なんて出来っこないんだからさぁ。
こーゆー時くらい甘い事言ってくれても良さそうなモンなのにな〜。私の目論見が甘かったわ」

両頬をさすりながらわざとらしい舌打ちをしてみせる。
すると次の瞬間には穏やかな笑みで真っ直ぐフラガを見詰める。
その姿を瞳に焼き付ける様に。
その笑顔に思わず魅せられ、凝視してしまうフラガ。
思わぬ武器を隠していたものだ。
とは言え本人は自分の顔を見る事が出来ない為に気付いてもいないが。

「んじゃ、戦後にね。言っておくけど誰にも落とされるんじゃないよ?ムウを落とすのは私なんだから!!」

後半をずびしっ!と指差して言い放つと早々にその場から去った。
フラガに言葉を紡がせる隙を与えずに。

「…ったく。最後まで振り回されっぱなしだったな、俺とした事が」

僅かな寂しさを浮かべたフラガはガシガシと髪をかき混ぜた。
戦後に、と言った の姿が浮かぶ。
例え生き残ったとしても会えるとは限らない。
一言で地球と言っても広い。
何よりあの性格の が大人しくオーブ本国におさまっているとも思えないのだ。

「じゃあな、 …」

ポツリと呟かれた別れの言葉は誰の耳にも届かない。

 

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

まずは…
申し訳ありませんでした!!(土下座)
何ヶ月放置してんだ、こらーッ☆
漸く5話目をお届け致します
しかも5話では終わりませんでした;;
6話目で完結予定です
でも、このヒロインは書いてて楽しい子だわー
凹んでる時だけに書いてると気分が修正されるし(ぇ)

−2003/9/28−