茜色の薔薇

 

 

 

 

 

メネラオスへとランチで移動し、シャトルへと乗り込んで行く避難民。
その中に赤い軍服を纏った少女の姿もある。
フラガにまとわりついていた だ。
周りの人々はザフトの軍服を着ている少女に驚き、距離を置いている。

「…私ってば警戒されてる??」

キョトンとした
メネラオスのクルーは呆れている様な視線を送っている。
どうせアークエンジェルにいたのならせめて連合軍の軍服を着ていれば良かったのに、とでも言いたげだ。
実際アークエンジェルで臨時クルーとして働いていた時は、主にドックでの整備の手伝いをしていた為にツナギを着ていた。
よって連合の軍服には袖を通す機会がなかったのである。
油やすすで汚れたツナギでシャトルに乗り込むワケにもいかずに着替えたのだが、自分の持っている服はこのザフトの軍服だけ。
考えなしにこれを着てしまったのだが、間違いだっただろうか。

「君も早く搭乗を」

避難民の搭乗がほぼ終了し、 も搭乗を促される。
少し惜しむ様にゆっくりと足を進める。
すると、けたたましい音が耳を突き刺した。

「戦闘アラート!?…皆……」

かつての仲間であった筈のザフトの面々を、つい先程まで笑い合っていたアークエンジェルの面々を交互に思い出す
その心情は複雑だ。
にとってはどちらも大事な仲間。
そんな人達が争い合うなど悲しい以外の何事でもない。

「ほら、急いで!」

は急かされ、背を押され、シャトルへと軽く突き飛ばされ慣性で流れた。

 

 

 

連合の艦から次々とMA・メビウスが吐き出されていく。
それに向かって行くのはジン。そして奪われたXナンバーだ。
ザフトの力は圧倒的で、ものの数分で四隻もの連合艦が沈められてしまう。
そんな中でアークエンジェルはただじっとその場にある。
出撃命令が下っていないからだ。
もどかしい思いを抱えながらも戦局を見守る事しか出来ない。
ドックで待機中のフラガはブリッジへその思いをぶつけてしまう始末。

「おい!なんで俺は発進待機なんだよ!第八艦隊ったって、あれ四機相手じゃヤバイぞ!」
<フラガ大尉…>
「って、まぁ、俺一機出たとこでたいして変わんねぇだろうがさぁ!」
<本艦への出撃指示はまだありません!引き続き待機して下さい!>

ラミアスは言い終えると、まだ食らい付いてくるフラガを無視して通信を切ってしまう。
助けに出て行きたいのは何もフラガだけではない。
ラミアスとて出来るなら参戦したい。
しかしあくまでアークエンジェルの目的は地球降下。
ここでむざむざ墜とされるわけにはいかないのだ。
迷いはしたが、ラミアスは決意した。

「降りる!?この状況でか?」

ドックにてラミアスの決意を聞いたフラガは声をあげた。
それもそうだろう。
この激闘の中で無地に事が運ぶとは限らない。

「俺に怒鳴ったってしゃあねぇでしょう?ま、このまんまズルズルよりゃいいんじゃねぇんですか?」
「だがなぁ…」
「ザフト艦とジンは振り切れても、あの四機が問題ですよね」

フラガとマードックの耳に聞き慣れた、だがこの場にはそぐわない声が飛び込んでくる。

「坊主!?」

降りたと思っていた少年――キラ・ヤマトだ。
二人は驚いているがキラはあっけらかんとしている。

「ストライクで待機します。まだ第一戦闘配備ですよね」

そう言い残してストライクへと向かって行ってしまう。

「あんま若い頃から戦場とか戦争なんかに浮かされちまうと、後の人生キツイぜ…」

フラガは呟く様に吐き出した。
そしてアークエンジェルは降下シークエンスを開始する。
しかし当然その間も戦闘は続いていく。
どんどん追い込まれていく第八艦隊。
このままでは降下どころかアークエンジェルすら墜とされかねない。
とうとうアークエンジェルのハッチからストライクとメビウス<ゼロ>が飛び出して行ったのだった。
ストライクはデュエルと、メビウス<ゼロ>はバスターと交戦し始める。
だが間もなく一隻のザフト艦がメネラオスへと突っ込んで来た。
間に連合艦が立ちはだかるが激しい攻撃にあえなく沈んでいく。
最早メネラオスは目前だ。
メビウス<ゼロ>もメネラオス防衛の為に尽くすが力及ばず、メネラオスは敵艦の攻撃にさらされた。
無鉄砲とも言える攻撃にメネラオスは為す術もない。
民間人の乗ったシャトルを射出すると、炎の上がった姿で地球へと引かれて行った。
それをブリッジで見ていたラミアスは涙を浮かべ、敬礼で沈みゆく艦を見送る。
そこへ掛けられる高い声。

「艦長!通信ですっ」
「通信?一体誰から…」

 

 

 

戦線を離脱し、アークエンジェルへ戻っていたフラガは項垂れていた。
ストライクとデュエルの間で爆発したシャトルの映像を見てしまったからだ。
あのシャトルには も乗っていた。
つまり は…‥

「…くっそ!」

フラガは今更思い知らされた自らの感情を持て余していた。
自分の周りをウロチョロしてはちょっかいを出し、まとわりついていた
他のクルーにはからかいの種にされるしで、解放されたと思っていた。
だが自分でも気付かないうちに、 が心を占める割合が大きくなっていたらしい。

(ガキか俺は…)

そう思い、溜息を吐く。

「あ、ムウだー♪」
(こりゃ相当ヤバイな。幻聴まで聞こえてくるなんてなー)

耳に入った の明るい声にそんな事を考えるフラガ。

「ちょっとー。人が声掛けて無視しないでくれる?そーんなに私の事キライなんだ」
「なワケねぇだろ!俺は…、な、なにー!?」

反論すると同時に顔を上げたフラガは目を剥いた。

(幻聴じゃなかったのかぁ?)

目の前にはザフトの軍服を着た の姿があったのだ。
幻でも幽霊でもなく、まぎれもない本物の

「ちょ、ちょっと、急に大声出さな…ッ、ひゃあ!」

一瞬、面食らってフラガを凝視してしまった だが、すぐに気を取り直して文句を言う。
が、それは最後まで続く事はなかった。
はすっぽりとフラガに包み込まれていたから。
どれだけの間そうしていたか。
を抱き込んだまま、フラガは漸く口を開く。

「時に ちゃん?」
「んー、ナニ?」

抱き締められているせいで返ってくる言葉は少しくぐもって聞こえる。

「どうして君がここにいるのかなぁ?」
「着艦許可貰ったから」
「…わかんないだろ、それじゃ」

相変わらずの にフラガは嘆息。

「んーとねー。ま、私もパイロットだし?こんな状況でじっとしてられなくて。ハルバートンさんに頼み込んでMA一機貸して貰った。あの人スゴイね」
「まぁ、その気持ちはわからんでもないな。俺も少し前までそう思いながら戦局を見守ってたしな。で、スゴイって何がだ?」
「うん、ザフトの軍服着てる私にMA貸せちゃうトコがさ。敵だった人間、敵対してる種族を信じられるってのが」
「そうか、そうだな」

優しく返すと、泣いているのか僅かに肩を揺らす を更に抱き締める。

「あー!!」

突然 は叫び顔を上げる。

「くっ… 、頼むから急に動くな」
「あ…ゴメーン」

フラガは涙目で顎を押さえていた…。

「んで?」
「あーそうそう。さっき、何言いかけたの〜?」

キラキラと期待の眼差しを向ける
フラガは苦い顔だ。

「ねぇねぇ、『なワケねぇだろ!俺は…』なんなの?」

なんで忘れていてくれないんだ、とフラガは心の中で悪態をついてしまう。
焦っているのか、既にその腕に を抱いている事など頭にない様だ。

「そっか…やっぱキライなんだね…‥」

フフ、と遠い目をして見せる

「だっ、だからだなぁ…」
「うん、だから?」
「とにかくッ。もう俺の側から離れんな。あんな思いすんの二度とゴメンだぞ!」

怒鳴る様に言い放つと、ぎゅうっと を抱いた。
は言葉ではなく、抱き返す事で返事をした。

因みに、この光景はマードックらが影で見届けていたのは言うまでもないだろう。
からかいの種はまだまだ消えないのだった。

 

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

先ずは、大変お待たせしました事をお詫び致しますm(_ _)m
前の話書き終えた日付見てびっくりしたな。2003年9月28日だなんて…;;
1年半も停滞してたとは…。
小説って一度詰まっちゃうとほんとに全然書けなくなっちゃうから困るんだ(-_-)
えーと、これでこの長編は完結です!
どうやらフラガの苦悩は続く模様(笑)

−2005/3/14−