視界

 

 

 

 

 

〜」

彼女の1日はこの一言から始まる。
声の発信源はムウ・ラ・フラガ大尉(28)。
しつこい程に言い寄ってくる軍人である。

今日も食堂で落ち着いて朝食を摂っている最中にひょっこりと姿を現した。
は思わず口に運びかけたスプーンを止め、間抜けにも口を開けた状態でフラガを見た。
スプーンを持った手を一旦皿に下ろす。

「おはよ〜ございます。フラガさん」

どうでも良さげに挨拶を返すとさっさと食事に精を出し始める。
フラガの存在など気にもしてません、という風に。
それを見たフラガは大袈裟な溜息を一つ。
こんなにもアピールしてもなびかなかったのは くらいなのだろうか。
落胆の色が垣間見える。

「ああ、おはよう」

取り敢えず挨拶だけは返しておく。
さて、どうしたものか…と、 の方をチラッと盗み見る。
すると は、フラガがそうする事をわかっていたかの様にしっかりとフラガの目を見てニッコリと微笑んで見せた。
ぱぁっと笑顔を咲かせるフラガ。
だが、次の瞬間には の意識は食事に向けられてしまう。
それと同時にフラガの表情も沈んでしまう。

「な〜、 。俺の事そんなに嫌いか?」
「どうして?」

花開くイメージがピッタリの微笑みを向けた の声音はどこか冷たい。
それを聞いたフラガは首を竦ませて苦い表情だ。

「どうしてってなぁ。 、誰に対しても人懐こくて可愛いくて優しいのに…俺にだけ冷たいじゃないの」

そう言って不満だ!と口を尖らせる。

「そう?私は皆平等に接してるつもりだけど。取り敢えず…“可愛くて優しい”ってのは誉め言葉として受け取っておくね〜vv」

フラガの大好きな笑顔を残して、食事が乗っていたトレーを下げると は食堂を去った。
その場に残された、 の笑顔に頬を緩ませつつも眉間にシワを寄せたフラガ。

「惚れた弱みってヤツですかね…」

 

 

 

「マードック軍曹〜、コッチ終わりましたよ〜ぅ」

言いながらちょこちょことマードック達整備士の元へ歩み寄る。

「あぁ、なら休憩入っていいぞ」
「らじゃ〜♪」

見様見真似でへにょっと敬礼して見せた は、メビウス<ゼロ>へ向かってちょこまかと走り出した。
その小動物を連想させる動きに整備士一同は目尻を下げさせられている。
はキラが拾った救命ポットに乗っていた民間人の一人だったが、その技師としての腕を買われ機体整備などの仕事を手伝っていた。

「あ、フラガさん…いたの?」

メビウス<ゼロ>の元へ辿り着いた が見付けたのは、自分の手でOSのメンテをしているフラガの姿。

「つめったいな〜

溜息を吐くと同時にガックリと首を落とすフラガ。

「あ〜いやらしいモン見っけ!」

嬉々とした表情でフラガが収まっているコクピットの片隅へと手を伸ばす。
“それ”を手にした はパラパラとページを捲っている。
フラガは慌てて“それ”を から奪い返そうと身を乗り出した。
しかし はゼロの機体を軽く押してフラガとの距離を広げ空中を漂う。

!返しなさいっての」
「慌てちゃって〜。…随分使い込んでるねぇ。ページの端が折れてるし」
「使っ!?… ちゃん?俺の事何だと思ってるのよ」
「えー?おかずにしたんじゃないのぉ??…あぁ!この艦の男性の手を渡り歩いた代物なんだぁ〜」
「…… 〜〜」
「あはは♪この宇宙空間じゃあ新しいの入手不可だもんね〜、大事なモンはこんなトコに置いといちゃ駄目だよ?」

小悪魔と化した は悪戯っぽい笑みを浮かべてフラガを見上げた。
本でポンと軽くフラガの頭を叩いてから元にあった場所へと戻す。
そして今度はフラガに寄り添う様にしてメンテ中のプログラムを覗き込む。

「……ちょっとコレ無理矢理」

ぽそっと呟く
その呟きもフラガの耳には届いていない。
何故ならば、鼻孔をくすぐる の香りに意識が向けられてしまっていたから。
かつてここまで二人の距離が縮められた事があっただろうか?
いや、ないだろう。
そんなワケでフラガはガラにもなく照れてしまっている。
ところが時間が経てばいつもの調子も取り戻すワケで…。
ちゃっかりと の腰に腕を回し、髪に顔を埋める。
フラガがそんな事をしているにも関わらず、 は勝手にOSをいじりだした。
よって の意識は腰を引き寄せるフラガの腕ではなく、ゼロのOSプログラムに向けられてしまっている。
哀れフラガ…(合掌)
やがて何の反応もない に首を傾げたフラガ。

「あ!コラ、 何してんだ!?勝手に…勝手、に……!?」

忙しなく動き回る の手元、書き換えられてゆくプログラム。
その両方に目を奪われる。
鮮やかなスピードで成されていくそれは見事なものだった。

「まったく!パイロットなんだからOSくらいキチンと組み立てられる様にしなきゃ駄目じゃない。
取り敢えずスペックは変えてないよ〜。整理しただけだから」
「あ、ああ…そういや の仕事ぶりって見た事なかったな。まるで坊主を見てる様だった」
「坊主ってキラ君の事でしょ?いくらなんでもコーディネイターのキラ君には適わないよ」
「いや、でもプログラムにも精通してるとはなぁ」
「モルゲンレーテの工場で働いてた一人だしね。これくらいは出来るよ。さて、この手をどけて貰おうかな〜」

そう言った は、腰に置かれているフラガの手の甲を容赦なく抓った。

「いってぇっ!」

痛みに手を引っ込めてしまうフラガ。

「少しは加減して欲しいな〜、 ちゃ〜ん」

フラガは情けない声を出す。
それを無視した はキーボードを押し戻すと言った。

「もう、やる事ないんでしょ?」

言いながらずいっと顔を近づける。

「んぁ?…ないな。何だ、遊んでくれるのか?」

ニヤリと笑うフラガ。
いかにも下心あります、といった雰囲気だ。
いつの間にか片手が の顎に添えられている。

「じゃあお休みなさい。寝てないんでしょー?パイロットは休める時に休んでおくのも仕事でしょ」

ニッコリ言い放つと顎に添えられたフラガの手をパシッと叩いた。
いつも通り慌てず動じずに。
その様子にフラガは内心苛立ってくる。

なんだって はこうまで落ち着いてるんだ!?俺ってそんなに魅力ないのか!!?
惚れた女にここまで邪険にされたら…いや、されてないけどさ。アッサリかわされたらショックだぜ?おい〜

僅かに歯噛みしているフラガを認めた は、フラガに気付かれず口元に笑みを浮かべる。

そうそう、それでいいの♪
悔しいでしょー?
私はその辺の女と違って簡単に落ちて見せたりしないんだから
これでもか!!って程振り回して、他の誰も見えない様にしてやるんだから
貴方の視界に入れるのは私だけだも〜ん
もう少しの間、我慢してよね〜
もう少し、もう少しだよ?私が貴方だけのモノになるのはvv

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

フラガ少佐って女の子を振り回してそうなイメージあるので…
敢えて逆に振り回されて貰った(笑)
強かなヒロインsanだぁね
可愛いな〜と思ったら実は強い子でした、って感じで
気が向いたらその後のお話でも書こうかなぁ
恋人編かな、やっぱ
くっついても振り回されるのか?フラガ少佐は!?
あ、因みにこのお話は宇宙に居た頃なのでまだ"大尉"です
つぅか、今日はキラの誕生日なのにフラガ夢書いてて良いのか?
…ネタないしイイやッ☆(コラ)

−2003/5/18−