力加減

 

 

 

 

 

じりじりと焼け付く様な日差し。
真夏の日差しは容赦なく降り注いでいる。

「ぅあっちぃぃぃ〜」

力なくそう言ったのは長い髪をアップにし、暑苦しい軍服を袖まくりした少女。
確かにこんな日に軍服など着ていたら暑くて適わないだろう。
いや、軽装であったとしても暑い事には変わりないが。

「暑い言うな。余計暑苦しいんだよ」

手に持っていた本で少女の頭を叩いたのはオルガだ。

「なぁんでオルガはそんなに涼しげな顔してるのよー」
「気にし始めたらきりねぇだろーが。余計暑く感じるぞ」
「うぅ…。そーだけどさぁ。あーあ、どうせ暑いなら海とか行きたいなー。泳ぎたい!いっその事プールでもイイ!」
「… 、仕事は?」
「うふふ…」

変な笑いをして明後日の方向を見る。
その姿を見たオルガは嘆息。

「うぅみぃはぁぁ、広いぃなー、おっきーぃなぁぁ〜…ふぅ、あづ!」
「だから暑い言うな!どうせさぼってんなら部屋戻れよ。クーラー効かせて涼めばいいだろ?」
「あー、残念!私の部屋のクーラーさ……ふふ、壊れたみたい」
「……そうか。じゃーな」

暑さでどんどん壊れていく
既に目が虚ろだ。
そんな に構うのは自分が疲れそうだと判断したオルガは早々にその場から逃げる事にする。
しかしそうは問屋が下ろさない。

「おわっ!」

そんな声と共に床に突っ込むオルガ。
はニヤリと不気味に笑っている。
オルガが何もない所で転ぶワケがない。
タイミング良く出された の足に引っ掛けられたのだ。

っ、てめぇ…」

打った顔を押さえながら起き上がる。

「あらー?痛かった?ごめぇん」

棒読みで言う

(ヤバイ。こいつ逝きかけてる…)

「チッ。仕方ねぇな。お前なら問題なく涼める上にお茶も出て来るトコへ案内してやる」
「えぇー!?何々っ、それ!何処よ、んなトコあったぁ?」

ガバッと飛び付いてくる

「暑さで脳みそ溶けたか?…行くぞ」

くっついて来た の腰にさり気なく手を回して歩き出す。
脳の活性率が低下している はそれに気付かず一緒に歩き出した。

 

 

 

 

 

「ねー、何処まで行くの?」
「ホラ、そこだ」

二人がやって来たのは上司であるアズラエルの職務室。

「…やめようよ。そういう冗談」
「冗談でこんなとこ来るかよ。お前なら大丈夫だ。アズラエルのお気に入りなんだからな」
「だから嫌なんじゃん…」

むーっと口を尖らせて横を向く。
それに構わずオルガは部屋の扉を開け放ってしまった。
瞬間、 は「何するんだ!」と凄い形相でオルガを見上げるが時既に遅し。
アズラエルの視線に捉えられていた。

「おや、 ではありませんか。良いところにいらっしゃいましたね」

笑顔で手招きしているアズラエル。

「い、いーところって何でしょーか?」

は恐る恐る口を開く。

「ええ、知人からスイカを頂きまして。 はスイカ、お好きですか?」
「スイカ!?わーっ、私スイカ大好き!!」

興奮気味の はオルガの袖を引っ張りながら職務室へと足を踏み入れた。

「ぅあっ!オイ、 っ。俺を引っ張り込むな!」

そう言いながらも無理に手を振りほどく事など出来るわけもなく、引かれるまま室内へと入る事となった。

「オルガ、君もいたんですか」
「いちゃ悪いのかよ。それより、 の部屋のクーラー壊れてるらしいからさっさと直してやってくんねぇか?暑さで逝きかけてたぞ」
「なんと!クーラーが!?この暑さではさぞ困った事でしょう。
そうですね、今夜は私の部屋へ泊まりに来るというのはどうでしょう?クーラーの修理は明日にでも」
「結構です!断固お断り致します!修理だけお願いします!!」

スイカを抱えて は叫ぶ。
アズラエルと同じ部屋で夜を過ごして無事で済むわけがない。

「そうですか?残念ですね」

(残念じゃないよ。アンタだけだってのー、そう思うの。恐怖で魂抜けるかと思ったよ!)

「あ、スイカ頂いて行って良いんですよね?」
「ええ。いくつでもお好きなだけどうぞ。オルガ、君もどうだい?」
「あ?俺は別に…」
「何でよー!せっかくだから何個か貰って行こうよ〜。んでんで、二人でスイカ割りしよーう!!」

力んで拳を突き上げる
その後、割ったスイカをどうするかなど微塵も考えていないであろう。

「スイカ割り〜?」
「そうよ、この暑さ!そして大量のスイカ!そうきたらスイカ割りするしかないでしょう!?」
「どういう方程式だよ」

最早呆れるしかない。
その暑さでうだうだしていたという面影は綺麗さっぱり消えている。

「楽しそうですねぇ。良ければ私も…」
「じゃ!私達は失礼します。お忙しいトコ申し訳ありませんでした。クーラーの修理の手配だけお願いしますね、アズラエル様」

気持ち早口でまくしたて、いかにもハートマークが付いていそうな笑顔を向けるとスイカだけはしっかりと手にして職務室を後にした。
言いたい事を遮られ、口を挟む余裕すら与えられなかったアズラエル。
しかし最後に向けられた笑顔にあてられ口元を緩めていた。

 

 

 

 

 

「よぅし。準備は完了ー。さーオルガ、割って貰おうかな♪」

楽しそうに は何処から持って来たのか木の棒を差し出す。

「何で俺がこんな事…」
「涼む為とは言え私をアズラエルの餌食にしようとしたクセに!これくらい付き合ってくれたって罰は当たらないでしょ。ったく〜、そんなに私が嫌いか!」
「いや、嫌いとかじゃなくてよ。お前が抵抗すればアイツだって何もしねぇだろ?お前に嫌われる事ほど悪い事はない、ってヤツなんだし」
「もー充分嫌ってるよ。さ、目隠しするよー」

やはり何処から持ってきたのか知れない目隠しを取り出すとオルガの背後に回る。
布を目元へ当てようとするが、身長差があって届かない。
は布を自分の方へと思い切り引いた。

「ぐえっ。がはっ、 !て、てめ…殺す気か!?」

布が当てられていたのは丁度首の辺り。
見事に首を絞められる状態に陥ったオルガは木の棒を握り締めて を睨み付ける。

「だぁって〜。届かないんだもん。屈んでよ」
「なら言葉で言え!」

ぶつぶつ文句を並べながらも律儀に屈んでやるオルガ。
は今度こそ目元に布を当てるときゅっと後頭部にリボン結びを作った。

「はい、おっけ〜。見えてないよね?」
「あー、見えねぇよ。ちゃんとスイカに当たる様に誘導しろよ」
「わかってる、わかってる。まかせろー♪」

再びオルガの前方へと戻った はスイカがなるべく転がらぬ様に置いた。

「まずはねー、三歩くらい前。……あ、もう半歩くらい」

楽しげな の声に誘導されるオルガは黙って従う。
余計な事を言えばスイカが飛んで来るかも知れない。
黙って従う他ないだろう。

「もーちょい、右。あ、違った左だ左、あははー。よーし、いいぞオルガ!叩き割れ〜ッ!」
「大丈夫だろうな?行くぞ」
「おぅ、行っちゃってくれぃ」

棒を高く振りかざし、一気に振り下ろす。
は瞳を輝かせてスイカが真っ二つに割れるのを待っている。

ドシャ

オルガの耳にスイカが割れたらしき音が飛び込んでくる。

「どーだ?」
「…あー、何て言うかぁ、これって失敗なのかな?」
「あぁ?」

聞こえた音と手応えからして確実に割れた筈。
失敗とはどういう事か。
手にしていた棒を適当に放ると目隠しを取り去った。
一瞬明るさに目を細めて、目前にあるであろうスイカを見る。
すると。
どうであろう。
見事に砕け散ったスイカの残骸が広がっていた。
真っ二つに割れるどころか木っ端微塵。

「…オルガの筋肉って凄いなーとは思ってたけど、これ程までとは思わなかったよ。スイカ木っ端じゃん」

小さなスイカの欠片を囓りながら はオルガを見る。

「わ、悪りぃっ、まさかこんな簡単にバラバラになるとは…」
「んー…まぁ、いいでしょ。食べやすくて。ほら、オルガも食べるべし」

ニコニコと食べやすいサイズに砕けたスイカの欠片をオルガへ差し出す。

「確かに切る手間は一切ないけどな」

オルガはスイカを受け取りながら苦笑する。
の隣に腰を下ろしてから受け取ったスイカに齧り付いた。
次にスイカ割りをするときはもう少し加減しよう、などと思いながら。
が弾け飛んだスイカを見た瞬間に次からは普通に切って食べようと心に誓っていた事などつゆ知らず。

 

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

あ、有り得ねぇ…
いくらオルガの筋肉が凄いったってスイカが木っ端微塵はないだろう
なーんて自主ツッコミ
アズラエル様なんて変態入ってる感じだしー
涼風は決してアズラエル様を嫌っているワケでは…あわわ
寧ろ好きなんだって!信じてッ

−2003/8/3−