疲れた時には甘いモノを

 

 

 

 

 

冷たい光を宿した瞳。
何本ものコードが繋がれたコンピューターと向かい合っているそれは画面の左から右へと文字列を追いかけている。
周りにも同じ様に作業に没頭するツナギ姿の整備員らしき男達。
汗でずり落ちかけた眼鏡を押し上げると、冷たい瞳を周りの男へ向け次々と指示を飛ばす。
現場の紅一点にして責任者。
は新型MSの開発チームの一員なのだ。
機体自体は既に完成し、残すはOSや各部の細かい調整のみ。
最後の追い込みとでも言おうか。

「ここまでね。作業終了!」

よく通る声がその場に響く。
丁度その時姿を現した人物。
が担当している機体、GAT−X131カラミティのパイロットに決まった少年オルガだ。

「機体でも見に来たのですか?」
「あ?あぁ か。まだ出来ねぇのか?コイツ」
「ほぼ完成、といったとこですね。後は貴方がシミュレーションで出したデータを参考に調整するだけです」

資料を小脇に抱えた はそびえ立つ派手な色のMSを見上げた。
オルガはそんな の横顔を眺める。
きっちりとまとめられた髪。
切れ長の冷たい印象を与える瞳。
整った顔立ち。
どこをどう取っても美人の部類に入るだろう は化粧気もなく汗と油にまみれている。

(勿体ないよな、せっかく綺麗なのによ)

そう思いながら溜息を吐くオルガ。
視線と溜息に気付いた は隣に立つオルガを見る。

「何か?」
「え…あー…。これやるよ」

思わず突っ込んだポケットに入っていた包み。
小さなキャンディだ。

「?」
「オペレーター候補の女どもがさ、くれたんだよな。疲れた時には甘いモンがいいってさ」
「オルガが貰ったんでしょう?日々のトレーニングで疲れているだろう、と」
「へっ、あの程度でへばってられるかよ。疲れてるのは寧ろ の方だろ?」

そう言って無理矢理その手に押し付ける。

「他の二機は完成したって言うしな。無理してんだろ?」

フッと不敵な笑みを見せるオルガ。
間近で見たその笑みにときめかないわけではないが、 は相変わらず表情を変えない。
いや、無理に押し留めただけかも知れない。
自分が常に周りに負けぬ様に、女だからと甘く見られぬ様にと気を張り詰めて何処か無理をしていた。
それに気付いた人物など今までいなかった。
それだけに心に響いたのだが、ここで気を緩めては今までの努力が水の泡になってしまう。
ぐっと堪えた

「無理などしているつもりはありません。これは有り難く頂戴しておきます。では」

律儀に頭を下げるとオルガに背を向ける。
心の中で安堵の溜息を漏らした はふいに自分の体が傾ぐのを感じた。

(え!?)

オルガに背を向けて安心し過ぎたのか。
疲れがピークに達していた の意識は闇へと沈んだ。

 

 

 

 

 

の耳に微かな音が届く。
紙が捲られる音。
一定のスピードで聞こえてくるそれは本のページを捲る音だ。
音を発しているのは読書家であるオルガ。
は意識が覚醒しきらないがゆっくり起き上がる。
それによって聞こえた布の擦れる音。
次の瞬間には閉められていたカーテンが開き、眩しい明かりが目に突き刺さる。
思わず顔を背ける

「あ、悪ぃ。…大丈夫か?」

は眠たそうな瞳をオルガに向ける。

「オルガ…私?」
「倒れたんだよ。だから無理すんなって言っただろうが」

呆れたという表情を向けてくるオルガは盛大な溜息を吐くとベッドの端に腰掛けた。
は自分の記憶をたぐり寄せて倒れた事を理解する。
その後オルガがベッドまで運んでくれたのだろう。
しかし。
の記憶の限り、此処は自室ではない。
そう思い部屋を見渡す。

「あ、俺 の部屋知らねぇから取り敢えず俺の部屋連れて来ちまった。起きられるか?部屋戻るなら連れて行くけどよ」

心配そうに の顔を覗き込むオルガ。
の表情はいつものキリッとしたものではなく、呆けている様なぽやんとした表情だ。
あの冷たい印象はどこへやら。
驚きを隠せないオルガは思わず凝視してしまう。
気が付いた時には頭を撫でていた。

(あ、ヤベ。怒るかなコイツ)

しかし怒るどころか猫の様に目を細めてされるがまま。
はそのままきゅっとオルガにくっついてくる。

??」
「部屋…戻りたくない」

消え入りそうな声で は言った。
はっきりとオルガの耳には届いたものの、オルガは信じられないとでも言いたげに を見る。
雰囲気どころか口調まで一変している。

(コイツここまで自分押し殺してたのかよ…)

オルガは壊れ物を扱うかの様に優しく抱き寄せる。
は抵抗するどころかオルガの軍服を握り締めてすり寄っている。

「此処にいさせて」
「…好きなだけ休んでけ。あー…ベッド、これしかないのわかってるよなぁ?」
「ん。オルガが良いなら一緒に寝かせて?」

それに笑顔で答えたオルガは を抱き締めたままベッドへと倒れ込む。
を抱き枕にしたオルガは布団を被る。
二人は寄り添い合って眠り、朝を迎えた。

 

 

 

 

 

いつもの時間に目を覚ましたオルガ。
昨夜、腕に抱いて寝た筈の の姿は見当たらない。
ベッドには僅かに残る温もり。
鈍い動きで起き上がるとカーテンを勢い良く開ける。

「あ?」

そこには無造作に軍服を羽織った の姿。
片手には湯気の立つティーカップ。

「おはよう、オルガ。コーヒーと紅茶どっちが良い?」

いつもと変わらぬカッチリとした雰囲気を纏っている
昨日の は幻だったのかと目を何度も瞬かせる。

「…こ、コーヒー頼む」
「ちょっと待ってね〜」

いや、いつも通りではない。
口調は崩されている。
表情もいつもに比べれば幾分か柔らかい。

「インスタントだけど勘弁ね」

は熱いマグカップを差し出す。
オルガは無言でそれを受け取るとチラリと を盗み見る。

「…ねぇ、オルガ?」
「な、何だよ」
「昨夜の事はオルガの心の中に秘めておいてくれないかな〜?私ね、疲れた時に半端じゃない甘え癖発揮するんだよね。恥ずかしながら」
「そーいう事かよ。…あ!?っつーか、他のヤローにやったりなんてっっ」
「してません」

キッパリ言い切るとオルガが無理矢理押し付けたキャンディの包みを開いて口の中へ放り込んでいる。

「なら良いけどよ」
「ふーん、何がどう良いのかしら?意外と心配性で優しくてヤキモチ焼きなオルガ君?」

ニヤリと笑う は口を尖らせていたオルガを覗き見る。

「んなっ!」

一気に顔を赤くさせ、仰け反る様にして から顔を遠ざけるオルガ。
はそれを見て楽しそうにケラケラ笑っている。
馬鹿にされている様で気持ちの良くないオルガ。
しかし、自然に笑っている を見て次第に顔を緩ませてしまう。

「あ、
「なぁに?」
「宿泊代貰っとくぜ」

くい、と顎を掴むと有無を言わせず唇を合わせる。
驚いて一瞬瞳を見開く
が、すぐに瞳を閉じるとオルガの腰に腕を回して受け入れる。

「甘ぇー」
「って言うか、その飴くれたんじゃなかったの?」

オルガの舌に攫われてしまったキャンディ。

「なら返すよ」

そう言って再び の唇を塞いだ。

 

 

 


 

++後書き…もとい言い訳++

おんやぁ??
どっちが攻めなんだかわからん関係に…(汗)
えー、初のオルガ夢です
如何でしたでしょうか?
非常に不安です
何故かオルガは書きにくい気がしますッ
どっかに良いネタ転がってないかな〜(転がってるか!)

−2003/7/24−