後を継ぐ者の物語〜プロローグ〜
ぐすっ、ぐすっ…ぐすん。
暗い暗い深夜の森の中。
幼い子供の啜り泣く声。「うぅっ……誰も…いないのぉ?」
立ち止まり周りを伺う子供。
視界の悪い森の奥、まして夜の更けたこの時間、人の気配など微塵もないのは明らかだ。
感じられるのは徘徊する野獣の気配くらいだろう。「助けてよ…だ れ か……」
ドサッ
子供は極度の緊張と疲労で倒れてしまう。
すぐ近くまで迫った人の気配に気付く事も無く。ザク ザク ザク
落ち葉の絨毯を踏み締める音。
「人の声が聞こえた様に思ったけど…?」
声の主は淡く輝く杖をかざして周囲を見渡してみる。
「!」
ようやく子供の姿を確認した、その時だった。
ガルルルゥッ
低い唸り声を上げた獣が襲い掛かって来た!
「邪魔だっ!」
獰猛な獣に向かって浴びせられた幼い少女の声。
倒れている子供と変わらない年頃だろうか。
杖が放っていた淡い光は不意に激しい光に取って代わる。
少女は激しく輝く杖を振りかざし、発した光を獣目掛け放った。ギャン!
光に弾き飛ばされた獣は動かない。
即死。
放たれた光はおそらく攻撃魔法だったのだろう。
少女は獣には見向きもせず倒れている子供の元へ歩み寄る。「おい!生きてるか?」
軽く肩を揺すって声を掛ける。
僅かではあるが子供に反応が見られた。「生きてるか…だが子供一人である筈がないな、何処かに親か連れの者がいると思うが…」
柔らかい土に残された子供の足跡を確認し、子供の来た方向に目を凝らす。
しかし昼間でも薄暗い鬱蒼としたこの森では何も見える筈もなく、程なくして視線を子供に戻す。「連れの捜索は夜が明けてからだな」
チチ チチチ
朝の小鳥のさえずりが聞こえて来る。「ん…?」
飛び込んでくる心地良い眩しさ。
朝の光。「もうあさ…?」
寝ぼけ眼の子供。
ゆっくりとした動作で起き上がる。「目が覚めたか?もう少し寝ていた方がいい、自分で思っているより疲れが残っていると思うからな」
ガラリと開けた扉の外に立っていたのは、長く伸ばした髪を後ろで一つにまとめた同じ年頃の少女。
女の子らしい外見とは裏腹に男勝りなその口調。「状況が見えないって顔してるな、まぁ無理もないか」
ぺたぺたと足音をたてて部屋の中へ入って来る。
「あの…誰が僕を助けてくれたの?」
子供、いや少年は遠慮がちに聞く。
「あ、えと…お礼言いたいし」
小さな声で付け足す。
「たまたま通り掛かっただけだ、礼を言われる程の事はしていない」
この少女にしてみれば森の獣を退治する事など別にどうという事でもないらしい。
「…?ま…さか、君が……!?」
驚きのあまり呆然とする少年。
「そんな事はそうでもいい。それより大人達がお前の連れの捜索をしているんだ。人数とそれぞれの特徴があれば教えてくれ」
「連れ…?」少年はキョトンとしている。
が、それが次第に驚愕の表情に変わるのに時間はかからなかった。「おいっ、どうした!?」
その変化に気付いた少女はすかさず声を掛けた。
だが少年はがたがたと震えるばかり。「獣にでも襲われたのか?」
一人呟く少女。
「な…んでっ、何も………僕は……僕……………誰?」
少年は呆然とするしかなかった。
誰しも持っている昔の思い出、楽しかった出来事、辛かった出来事、家族の事。
つまり記憶の一切が自分のどこにも無くなっていたのだ。「ねぇ、僕はどこから来たの?」
悲痛な面持ちで問う少年。
「……記憶喪失?」
今度は少女が呆然とする番だった。
だが少女はすぐに気を取り直し、床にどっかりと座る。「あたしは昨晩深夜にこの近くの森で行き倒れていたお前を助けた。それだけだ。だからお前がどこから来たのかはわからない」
そう一気に喋りきる。「その身なりからして魔術師でも戦士でもなさそうだから、誰かに連れられていたのは間違いないと思うんだが…。本当に何も思い出せないのか?」
少し困った表情をしてみる少女。
「あ、名前…名前なら覚えてる」
「本当か?あ、あたしは『トキル』って言うんだ」ようやく子供らしい表情で笑って見せる少女。
それにつられて少年も笑顔を見せる。「僕は…『ルバイラ』だよ」
もう何年も昔の話。
少女トキルと少年ルバイラの穏やかな出会い。
そして二人は今……。
後を継ぐ者の物語の序章です
というワケで一応続きます
お楽しみに♪
って、楽しみにしてくれる方はいるのか!?
本編はトキルとルバイラもう少し大人になってます
そういえば、はっきり年齢決めてたっけ…?(オイ!)
二人の正体が暴かれる!!(どんなんだよ?)
まぁ、仲の悪いコンビになってます
意外な結末が待っているかも知れません
そう、かもです(爆)