ステージアシリーズ1 『神器の器』

 

よく晴れた雲ひとつない春の空。
王城らしき壮麗な石造りの建物に囲まれた中庭の一角。
燃えたぎる炎の様な真紅色の髪をした少女がいる。
彼女は地べたに直接座り込んでいた。
ただ空を見上げ、黙って。
ふと、何かに気付いた様に植木に目を向ける。

「あ…見つかっちゃった」

植木から顔を出したのは小柄な少年だ。
大きな獣の耳がぴょっこり生えている。
どうやら獣人の少年らしい。

「獣に近しい者とは思えないな。気配を消し切れてなかった」

少々呆れた様な表情を浮かべつつ少女が答える。
少年は金の髪を揺らしながらよいせと植木から這い出ると少女の隣に座った。

「行くんでしょ?」

少年は少女を見ずにそう言った。

「獣の勘か?」
「まぁ、そんなトコかな」

にっこりと幼い笑みを浮かべそう言う。

「でも忘れないでね…あのコト」

真剣な瞳の少年。
溜息をつき肩をすくめる少女。

「またその話かぁ?」
「何度でも言うよ、タケル様は俺達の姫様だ」
「何を根拠にそんなコト言うんだよ…?」
「根拠なんて…でも俺はトリビュートの王子として断言出来る」

強く言い切る王子らしき獣人の少年。
タケルと呼ばれた少女は何も言わず黙っている。
ふい、と視線を上げると再び空を見上げた。

 

 

 

 

 

広い部屋。
中央に置かれた大きなベッドに小さな荷物の包みが置かれている。
その包みの上には大振りの剣。
魔力を帯びているのか微かな光が発せられている。
この部屋の主の姿は…窓際にあった。
窓枠に腰を掛けて本を読んでいた。

「タケル」

開け放たれていた扉の方から声をかけられる。
顔の向きはそのままに視線だけを向ける部屋の主・タケル。

「アレクか。どうした?」

本に視線を戻し、声だけで反応して見せる。

「素っ気ないな」

アレクというらしい男はふっと薄い笑いを浮かべて見せる。
視線はベッドの上の荷物に注がれている。

「何も言わずに行く気だったんだな」

腕を組み、ドア枠に寄りかかる様に立つ。
タケルが口を開こうとしたその時。

「まあ!王子様っ☆あれ程タケル様のお部屋にお一人で入られてはいけませんと申し上げましたのに…」

突然、甲高い声が響いた。
掃除に来た召使いだ。
驚いたアレク王子は後ろの召使いの方に向き直ってしまった。

「ま、まだ入ってないだろ!?」

驚きの余り言い訳までしている。

「でもこれからお入りになるおつもりだったのでしょう?」

詰め寄られるアレク王子。

「お可愛そうに…ご婚約者であられるお二方の元にはまっったく!通われてないのに…」
「お、俺はあの二人を正室にも側室にも迎えるつもりはない!何度言えば婚約取り消されるんだ!?」
「それはわたくしに言われましても…」
「タケル!お前は…あ?タケル!?」

つい先刻まで窓に腰掛け読書していたハズのタケルの姿が見えなくなっている。
ベッドの上に置かれていた荷物も見当たらない。

「タケル様がどうかなさいましたか?」

事態を飲み込めていない召使いは王子に問い掛ける。

「さっきまで窓際にタケルがいたんだが…どこに行ったんだ?」
「え?でも、出入り口はこの扉しかないんですよ?」
「まさか…!アイツ窓から飛び降りたのか!?」

勢い良く窓際に駆け寄ると眼下を見下ろす。
ここは足掛かりになるものがなにひとつない王城。
飛び降りることはつまり死を意味する様なものだ。
しかもこの部屋は5階に位置する。
防衛の為、城壁の近くには大木などは植えられていない。
ではタケルはどこから?

 

 

 

そのタケルはここにいる。

「ちょっと…きつかったな」

溜息をつきつつ、小さな荷物と大振りの剣を背にしたタケルがポソリ。
場所は厩舎だ。
片手に旅用の軽い鞍が抱えられている。どうやら馬に乗って行くらしい。
ところで先程はどこから出てきたのであろうか?
答えは単純明快。
あの城壁を飛び降りただけである。
元々運動神経と反射神経に恵まれている上に彼女は魔法も使える魔法剣士なのだ。
飛翔系の魔法を使いつつ飛び降りればさして問題はない。

「さて、見つからないうちにココ出なきゃだぞ?」

そう愛馬に語りかける。
愛馬専用の馬具をかたっぱしからひっつかみ、荷物に詰め込む。
手早く装鞍・装勒を済ますと厩舎から出ずに馬に跨った。

「とばして行くよォ」

楽しそうな声でそう言うと思い切りよく厩舎から飛び出して行く。
長い赤髪をなびかせ城門目指し馬を走らせた。

 

 

 

「タケル!…っ、聞こえないか」

タケルの部屋から階下を見渡していたアレク王子がその姿に気付き叫びかける。
しかし聞こえるはずもなくタケルはとうとう城門の外へ飛び出して行ってしまう。
間もなく姿さえ見えなくなってしまった。

「しかし…行くアテはあるのか?」

王城暮らしの長いタケルにそんなアテなどあるワケがない。
無鉄砲な性格も考え物である。

「タケル様…もしや城をお出になられたのですか!?」
「あ?あぁ、外の世界で生きてゆくのが夢なんだそうだ」

それを聞いた召使いは慌てて部屋を出て行く。
国王にでも知らせに行ったのだろう。
何故かタケルは国王に気にかけられている。

「父上がなんて言うか…。あ!?もしやしぼられるのって俺か?」

 

 

 

 

 

「だいぶ来たな…。まずは服と髪型を変えないと」

ここは城からある程度離れた場所にある小さな森。
愛馬を木に繋ぐと軽い身のこなしでその木を登って行く。
葉に覆われた木の上で素早く着替えを済まし、髪型を変える。
愛馬はのんびりと草を食んでいる。
そこへ何人かの男達が通りかかる。

「オイ、馬がいるぞ」

男達は周囲を見渡す。
勿論誰の姿も見えない。

「持ち主が戻って来る前に頂いてくか」

人相の悪い男はニヤリと笑いを浮かべている。
一方着替えの済んだタケルはその様子を木の上から見下ろしていた。
戦闘の心得のあるタケルが人の気配に気付かないなど有り得ない。
相手の出方や技量をうかがっている様だ。
男達が馬に手をかける。
馬は低い嘶きを上げ、噛み付こうと首をのばす。

「なんだ、気の悪い馬だなっ」

噛み付かれそうになった腕を引っ込め、持っていた短刀の柄で殴りつけた。
その時だった。
赤い影が木から降りてくる。
影が地に着いたかと思うと男は動く間もなく意識を失っていた。
木から飛び降りたタケルが着地と同時に回し蹴りを食らわしたのだ。

「人の愛馬に手を出さないで貰おうか」

鋭い目つきで残った男達を一瞥するタケル。

「なんだ、女じゃねぇか…」
「赤い髪…珍しいな。売れば儲かるかも知れねぇなぁ」

男達は目配せすると一斉に飛びかかって来る。

「ふん…」

鼻で嘲笑するとタケルの姿が男達の視界から消える。

「!?」

動揺を隠せない男達。
周囲を見渡すがタケルの姿は見当たらない。
そのうち一人、また一人と倒れる男達。

「アホか?お前らごときが俺にかなうワケないだろうが」

木の上から降りて来たタケルが冷たく言い放つ。

「さて、支度も済んだし行こうか」

馬ににっこりと笑いかける。
剣を背負い直し馬を引いて歩き出す。
魔法によって倒された男達を残して。

「とりあえず適当な宿を見付けないとだな」

そんな独り言をもらしながら道なりになんとなくで歩いて行く一人と一頭。
やがて小さな町に入った。
いつの間に町に入ったのだろう?などと首をかしげつつタケルは宿を探す。
なにやら騒がしい。

「なんか騒動でもあったのかな?」

楽しそうに人だかりに中に入って行ってみる。
そこにあったのは…。

「!?…やばっ」

なんと人だかりの中心には城仕えの者がいたのだ。
城内をほぼ自由に行き来出来たタケルはほとんどの城仕え達と顔見知り状態にあった。
目が合ってしまったタケルは一瞬固まってしまう。
どうやら早くも追っ手が放たれた様だ。

「タケル様!?」

あっさりバレる…。

「あ、いや…」

どう誤魔化そうか思案する…が、良い案は浮かばない。
どうしようか困っていると、もう一人の城仕えが口を挟む。

「髪型が違いますよ?タケル様の髪はクセが強くてまとめるのさえ難しいんですもの」

そう、タケルの髪程いうこときかない髪はきっとないだろう。
どの召使い達も手こずらされた強固な髪なのだ。
勿論、下手に髪型をいじられたくなかったタケルが施した呪術の一種に因って…だが。

「どこのタケルさんか知らないけど…アンタ達の言うタケルでない事は確かだよ」

内心ほっとしながらそう言ってみる。

「ほら」
「そうか…あ、いや、失礼しました。人違いだった様ですね」

困った様な笑顔で謝る城仕え。

「でも…もし貴方と同じ様な赤い髪の『タケル・コランダム』という王族の方を見掛けましたらプラド王城までお知らせ下さい」
「王族のタケル・コランダム…?わかったよ、見たら連絡するよ」

引っ掛かるものを感じながらもそう答える。

「あの、もしよろしければお名前教えて頂けます?」
「俺?タケル・サファイアだよ。タケルってよくある平凡な名前だからね」

平然と、しかも笑顔で嘘をつけるタケル。
その笑顔を持続させたままその場を後にする。

 

 

 


 

中書き(後書きじゃないから…)
えー、まずは共同作品として「ステージアシリーズ1"神器の器"」をお送りしております
中書きは交互に書いてゆこうかと思っています
今回は早刀流担当

オフラインで会う事なく小説を二人で作るというのは大変な事だった…
1番の感想はこれに尽きるかと思います
執筆量は早刀流が多いです
涼風はこれにイラストを付けるという作業があったからね
俺には出来ない仕事
設定、ストーリーは涼風が全部考えましたが…
内容はまだ始まったばかりなのでなんとも言い難い
あえて言うならばタケル強すぎなんじゃ?って事
でも涼風にタケルはとびきり強いから!ってしつこく言われてたし…
後から加わる仲間が弱いらしい
全員同じくらいのレベルじゃ面白くないって事か?

あ、最後に。
あんまり縦に長くなるのも…と思い、ワード5ページ分で切ってます
次ページも同じ長さ
いや、それ以降も
しかしイラストがどれだけ挿入されるかによって変化あり
場合によって重いページになりかねん…