ステージアシリーズ1 『神器の器』

 

 

うーん、今のって誤魔化せたんだろうか?それとも怪しまれたかなぁ?
そんな事を考えつつも宿探しをする。

「あれ…?なんで俺、王族って事になってんだ?」

 

 

 

「さっきの方…本当にタケル様じゃないのか?」

やはり疑っていたらしい城仕え。

「まだ言ってるんですか?タケル様の髪じゃ、あの髪型は出来ませんよ」

こちらは微塵も疑っていない様だ。
きっとタケルの髪をまとめた経験があるのだろう。

 

 

 

真新しい宿−

「やっぱ気になるよなァ」

ようやく見付けた宿の一室。
タケルはベッドに寝転びながら先程の城仕え達の言葉を思い返していた。

「俺ただの王子付きの学友なんだけど…生まれだって田舎の方だしなぁ」

タケルは真珠村という王都に近い村で生まれ、幼いうちに王子付きの学友として城で生活する様になったのだ。
よって王族ではない。
母は王都で生まれ育ったらしいが王族なんて事はないだろう…なにせ盗賊業をしていたのだから。
今でこそ王城へ仕えてはいるが。
しかしタケルは母の働く姿など見た事はなかった。
まぁ、興味すら抱かなかったというのもある。

「単なる城仕えを探そうとしても情報集まんないからな。王族って事にすれば探しやすいし…それだけの話だろ、きっと」

タケルは割と人に好かれるタイプだ。
アレク王子とも学友どころか親友状態になっているし国王もタケルを気にかけてくれている。
城仕えのほとんどとも仲良くやって来たのだ。
そんなタケルを惜しいと思って追っ手を放ったのだろう。
勝手にそう完結させてしまう。

「そんな事よりもこれからドコ向かおうかな…そっちのが問題だよなー。仲間も見付けた方いいし」

思い立ったらじっとなどしていられない。
すぐに飛び起き、宿の主人に出掛ける事を告げるとアテもない町の中を歩き出す。

「どこ行けばいいかな…。冒険者の集まりそうな所と言ったら…武器屋か薬草屋あたりかな?」

あくまでいきあたりばったり。
適当にそれらしい店を探しながら町を散策してみる事にする。
だが思いの外あっさりと武器屋を見付けてしまった。

「全然散策出来てないよ…」

まーいいや、と気を取り直し武器屋に足を踏み入れる。

「はい、いらっしゃ…。なんだ?女の子のお客とは珍しいなぁ」

かたそうなヒゲをたくわえた店主の第一声。

「お嬢さん、この町の娘じゃないね?見掛けない顔だ」
「あぁ、王都から来たんだ」

そう何気なく答える。

「王都?…アンタまさか、城の者が探していたタケル様じゃないのか!?」
「またその話か。その城の者とやらにはさっき会ったよ。人違いさ」

店内の様子を窺いながら答える。もうその話題には触れて欲しくないのが本音だ。

「そうかい、悪かったな」

ありきたりな謝り方をされてもイマイチ気分は晴れない。

「なぁ、オヤジ。ここに冒険者は来ないのか?」

さっさと用事を済ませたいタケルは本題を切り出す。

「冒険者?たまになら来るがなぁ…普段は護身用の武器・防具を買う方の方が多いんだよ」
「そうか、商売の邪魔したな」

そう言い捨てると背を向け店を出て行こうとする。

「お、おい。用事はそれだけか?」

慌ててオヤジが声をかける。

「あ?そうだが…」
「お嬢さん冒険者にでもなるつもりかい?」
「悪いか?」
「悪いという事はないが…なにもその若さで死にに急ぐ様な真似する事ないだろうに」

呆れたという顔をしている店主。

「誰も死ぬつもりなんかない。別に冒険者でなくてもいいしー…」
「王都から来たのなら途中小さな森を抜けて来ただろう?あそこだって追い剥ぎや獣が出る。だが、冒険者になればもっと危険な場所にだって行く事になる。
お嬢さんではあの森の追い剥ぎ共にだってかなわないのは目に見えてる。早く帰った方がいい」

何故ここで説教されねばならぬのだ?機嫌を損ねられたタケル。

「獣や追い剥ぎ程度取るに足らんね。つい先程も追い剥ぎ一味をのして来たところさ」

そう言って背中の剣を握ると店主の鼻先に突き付ける。

「同じ年頃の女ではこの剣を片手で持ち上げる事すらかなわん。ま、俺ならコイツを片手に持ったまま徒手空拳で戦う事も可能だが?」

悪戯っぽい笑みを浮かべると剣を握っていた手を開いた。
見るからに重そうな大振りの魔法剣が大きな音をたてて落ちた。
ただ剣が落とされただけでカウンターに浅い溝が出来上がってしまう。
店主は青ざめた顔で引きつった笑いをするしかなかった。

「…ふん。今度こそ失礼するよ」

軽い嘲笑を残し、タケルは武器屋を後にした。

「ちくしょー、この町じゃどこ行っても意味ないって事じゃん。仲間探しは別の町だな」

剣を肩に担ぎ、仕方なく宿に戻る事にする。

   ドンッ

突然だった。

「いって…」

後ろから誰かに追突されてしまった。

「あっごめんなさい!よそ見してて」

顔を隠した同じ年頃の娘だった。
この慌て様、どうやら追われているらしい。

「いや、事情ありそうだしな。追われてるんだろ?」
「え!?……」

空気が張り詰める。
追っ手と勘違いをされてしまった様だ。

「あー…勘違いすんなよ?俺、戦闘の心得とか冒険の心得あるんだ。それ応用すれば人の感情読むの簡単だから」

とりあえず言い訳してみる。
タケルは困ってる女性に弱いのだった。
男勝りな性格だからだろうか?

「すぐそこに宿を取ってある。行くか?アンタ一人放っといたらあっという間にとっつかまりそうだしさ」

親切で言ったつもりだったが相手は気を悪くした様に見える。

「失礼ねっ、わたくし一人でも逃げきれますわっ」

ふいっと顔を背ける。
その言動からしてよほどのお嬢様育ちと思われる。

「あ、そう?じゃあ…あの追っ手からも助けなくて良い?」

お嬢様らしき娘の後方を指差しながら意地悪そうに言う。

「!?」

追っ手という言葉に驚いて背後を振り返る。
数人の雇われ冒険者の走ってくる姿が見える。

「さっきの冒険者だわ〜」

わたわたと立ち上がり、逃げる為走り出す。
ところが流石お嬢様。
足が遅いのなんの。
思わず溜息を漏らしつつ傍観してしまうタケル。
目の前では既にお嬢様が冒険者に囲まれている。

「お退きなさい!わたくしは屋敷に帰るつもりはないと言ったはずよ」
「んな事言われてもねぇ、こっちもお嬢さんの父君に金で雇われた以上仕事はしねぇとナ」

そう冒険者が言うと仲間の一人がお嬢様を担ぎ上げる。

「なっ、何するの!?下ろしなさい!!」

じたばたとあばれるお嬢様。
そんなお嬢様を気にもせず冒険者のリーダーらしき人物がタケルに話しかけてきた。

「アンタがお嬢さんの足止めしてくれたおかげで捕まえられた様なモンだしな。とっときな」

気の良さそうな冒険者がタケルに上質の薬草を差し出す。

「そうよ!貴女のせいで捕まったのよっ。報酬は払うわ、なんとかして頂戴!戦闘の心得あるんでしょ!?」

甲高い声で騒ぎ立てるお嬢様。
ハッキリ言ってみっともない姿ではある。
まぁ、それだけ逃げ出したい気持ちが強いという事か。

「…いいぜ。キチンと報酬は貰うからな?」

ニヤリ。
そんな笑いを浮かべるとタケルの姿が宙に舞う。
空中で背に手を回すと愛剣を鞘から抜いた。
着地と同時に警戒態勢に入ったリーダーに一撃を食らわす。
脳天に一発。

「ハイ、終わり。次は誰ぇ?」

心底楽しそうにしているタケル。

「てめっ、女でも容赦しねーぞ!」
「容赦されちゃつまんないしィ。本気でドーゾ?」

挑発された冒険者は二人で一斉に飛びかかって来る。
それを確認したタケルはスッと剣を下ろし、冒険者に向かって真っ直ぐ手のひらを向けた。

「何しているの!?」

お嬢様が悲鳴に近い声を上げている。
タケルはそれをよそにニッコリと嘘臭い笑顔を見せる。

「おやすみなさ〜い♪」

その言葉と同時に手のひらから光の玉を発した。
光の玉は真っ直ぐ二人の冒険者にぶつかって行く。
冒険者は光が当たったと同時に倒れ込んでしまった。

「今の…魔法?」

お嬢様はポカンとしている。
残った冒険者は一人だけ。
その装束からして魔法使い。

「お前もソーサラーか…だが経験は浅そうだな」

ふっと笑って杖を向ける。

「残念、魔法対決するつもりねぇよ」

いつの間にか魔法使いの背後を取ったタケルがポツリ。
それと同時に回し蹴りが炸裂した。

「ついでに言うが…経験浅いのはお前の方だろ。杖がなきゃ魔法使えないレベルのクセに。ま、聞こえてないだろうけど〜」

剣を鞘に納めるとお嬢様の元へ。

「立てるか?」
「ええ、怪我はしてないわ」

そう言うとお嬢様は立ち上がる。

「でも…こんな町中で4人も殺して大丈夫なの?」
「は!?馬鹿言うなよっ、気絶してるだけだって!」

リーダーは剣のハラで、一斉に飛びかかって来た二人は睡眠の魔法で、魔法使いは回し蹴りで気絶させられただけである。
死ぬわけはない。
そう説明してやると。

「なんだ、そうなの」

やっと納得してくれた。

「はぁ…んで?これからどうするんだ?」
「あ、わたくし?どうしましょう…」
「おいおいおい!何も考えてないのか!?…もう家帰れば?」

流石お嬢様…って事か?

「ねぇ、貴女も冒険者なんでしょ?貴女の一行に入れてよ」
「あ?俺の一行?……ぷっ」

思わず吹き出してしまった。
当然だ。タケルは一行どころか一人きりなのだから。

「!?なにが可笑しいんですの(怒)」
「俺まだ仲間いねぇよ、一人きりだ」

お嬢様は無言だ。
どうやら衝撃を受けたらしい。

「女性の一人旅なんですの!?危険だわ!」
「冒険者の一行にお嬢様が入るよりは安全だと思うけど…」

ぐうの音も出ないお嬢様。

「ま、二人旅で良いなら一緒しても俺は構わないけどさ。どうする?」
「いいわ、二人でも。貴女かなり強い様だし」

 

 

 


 

中書き
担当:涼風

神器の器その2、いかがでした?
タケルちょっと暴走気味ですね(笑)
まぁ、タケルらしいかな…と。
このお話は涼風が高一の時に考えたものです。
設定とかだけ考えて放置されてたもの(汗)
早刀流との共作という事になりますがカタチに出来て良かったです。
今回一人仲間が出来ました。
まだ名前出てないケド…。
お嬢様…さて彼女は活躍するのか!?
追っ手放たれてる二人がパーティー組んだら恐ろしい事になるよね…。
追っ手も2倍?
ふふ…。
早くもタケルに関する伏線も出てますね〜。
真偽の程や如何に!?

イラストはまだお待ち下さいね(汗)
何分涼風はスキャナがないので…。
友達にお願いします☆