ステージアシリーズ1 『神器の器』
割と決断のお早い事で。
「もう顔隠してる意味ないわね」
そう独り言の様に言うとかぶり物を取るお嬢様。
長い金の髪がきらびやかな輝きを放ち舞う。「いかにも…って感じだな。金持ちのお嬢様らしい金髪」
「それって偏見じゃないの?ウチの父は茶髪だし母は銀髪よ」
「銀髪?もしかして王族の血族か?」
「あら、よく知ってるわね。王族の者って銀髪の方多いのよね」自分の金髪をつまみ上げ見詰めながらそう言う。
「そういう貴女は珍しい赤い髪ね」
「あぁ、母さんは深緑なんだけどな。父さんの血なのかなぁ?」タケルは他人事の様にぼやく。
「なのかなぁって、貴女…」
お嬢様は思わず立ち止まってしまう。
タケルも足を止め、お嬢様の方へ振り返る。
あの嘘臭い笑顔で。「そ。俺父さんに会った事ないんだ。どんな人かも知らないし…」
そう言うと何も言わずにひとつの建物を指差す。
タケルの取った宿だ。「あ、あそこ?…古い宿じゃなくて嬉しいわ」
お嬢様の素直な感想。
「アンタ…」
「名前でしょう?サレイよ、サレイ・クリスタル」
「サレイさんね…俺はタケル・サファイアだ」ここはタケルの取った部屋。
「サレイでいいわよ。これから旅する仲間だし」
「クリスタル家の者か…王家にかなり近しい貴族の家だな」何気なく発した一言。
「タケル、貴女…王家の事詳しいわね」
そう言ってタケルの顔を興味津々な表情で覗き込んでいる。
「一応王都育ちだし…」
「王都から来たの?じゃあタケルだってそれなりの家柄じゃない。あの辺りは由緒正しき家柄の屋敷ばかりあるもの」サレイは思い付く限りの家を指折り数えている。
「……サファイア家なんてあったかしら?」
「王都だからって有力家しかいないワケじゃないだろ」腰に短刀を装備しつつタケル。
「どこか行くの?」
「飯、食べないの?」
「食べるけど…どこまで食べに行くのよ」不審な顔で返す。
「この下の階に決まってるだろ?簡易装備はしてた方いいぞ」
サレイはいまいち納得出来ていない様だ。
首を傾げている。「お嬢様はいつもボディーガードに頼ってたからわからんだろうな。誰も助けてくれないんだぜ?」
そう言ってサレイに予備の短刀を投げてよこす。
「あ、ありがと。随分と準備いいのね?」
「短刀は使い捨てくらいの気持ちで数本所持しといた方いーから」さも当たり前という顔でタケル。
「そ…冒険者の心得ってワケね」
なんとなく納得したサレイは渡された短刀を装備する。
宿の食堂−
さすがに食事時だけあって宿泊客やそれ以外の食事や晩酌を楽しむ客で溢れかえっている。
「ねぇタケル。混んでるケド…食べられるの?」
「予約してあるから大丈夫だよ」そう言ったタケルはカウンターで客と話をしている宿の主人に声をかける。
「主人、予約してたタケルだ。空いてるか?」
「あぁ、空いてるよ。二名様だったね」
「あたしがご案内しまーす」カウンターの奥から茶髪の女性が出てくる。
「若い従業員だな。俺達と同じくらいか?」
「あぁ、娘でして…失礼もあるかも知れませんが…この時間は忙しいので手伝って貰っているのですよ」
「失礼なんてないだろう?ここの看板娘じゃないか」主人と話をしていた客が言う。
常連客の様だ。
酒がまわっているらしい。かなり赤い顔をしている。「んじゃ、こちらへどーぞっ。ご予約の個室でーす」
明るい看板娘の案内で個室へ向かうタケルとサレイ。
「個室なんてあるのね」
感心した様にサレイがポツリともらす。
「サレイ…一般人の生活なめてるだろ?」
タケルはすっかり呆れ返っている。
「主に女性客の為だな。酔った男性客に絡まれる事もあるから」
「そっか…でもタケル強いし個室使うなんて意外だわ」
「俺一人なら使わなかったさ。お前の為に急遽予約したんだよ」
「あー…そうなの?ごめん、ありがと」頭をかきつつ礼を言う。
「ではご注文承ります。何になさいますか?」
個室の席につくと、看板娘は早速注文を取り始める。
「そうだな、先ずは食前酒。他に何か見繕ってくれ。サレイは?」
「わたくしも食前酒を頂くわ。その後に何かスープを」
「はい、かしこまりました」伝票に注文の品を書き込むと看板娘は背中を向けた。
タケルがふと思い出した様に付け加える。「あ、俺野菜嫌いだから野菜以外でお願いね」
と。
「貴女、肉を食べるの?」
何故か嫌そうにサレイが聞く。
「さすがお嬢育ち。ベジタリアンか?」
得意のニヤリ笑いで聞き返す。
「冒険者の方で食べ物の好き嫌いがある方なんて初めて会った…」
看板娘が思わず漏らす。
「嫌いなモンは仕方ないだろー」
むぅ、っとしてタケルが小声で言う。
「あ、注文はとりあえず以上ね。後でまた追加するわ」
「は、はい。ではお持ちします。少々お待ち下さい」看板娘がパタパタと個室を出ていく。
「なんかさ、今追い出したみたいじゃないか?」
「みたいじゃなくてそうなの。店の者が客の前で私語を漏らすなんて」
「お前が行く様な高級店とは違うんだぞォ?こういう店では客と冒険話をするのも仕事のひとつだし」疲れた様にタケルは言った。
「そうなの?」
さらりと金髪を揺らして首を傾げる。
「そうなの!以後気を付ける様に。お嬢様?」
またまたニヤリと笑ってみせるタケル。
「もう、お嬢様って言わないでよ。そう言うタケルこそ良家の出でしょう?」
「だから王都には住んでたけど家柄はいいわけじゃないって。出身は真珠村ってトコだし」
「あら、そうなの?確か真珠村って王都に近いけど田舎よね」
「冒険者の村って言われてるトコだよ。俺、小さい頃そこで育ったから冒険の心得必然的に身に付いたんだよ」お嬢様…もとい、サレイは納得した様に頷いている。
そこへ食前酒を持って看板娘がやって来た。「お待たせ致しました。ご注文の食前酒です」
「あ、ども〜」無邪気な笑顔で受け取るタケル。
サレイはそれを意外そうな顔で見やりながら酒を受け取っている。
タケルがそんなサレイの視線に気付く。「なに?」
不審な顔をしてみせる。
「何って…普通の笑顔出来るんだなぁって思っただけよ?」
クスリと笑いを含んで皮肉を放つ。
「俺何回もサレイの前で笑ってただろー?」
眉間にしわを寄せてタケル。
「だって、わざとらしーい笑顔ばっかだったもの」
「あ…そりゃあんなトコで生活してたら似非笑顔も身に付くよなぁ…」王城生活を思い出しつつ呟く。
「あんなトコ?」
流れる金の髪。
「嫌でも愛想良くしとかなきゃいけないだろ?城…うぁっ、っと…」
「しろ…って?まさか王城!?」カツーン
高い音をたててカップをテーブルに叩き置くサレイ。
「ま、まさかっ。あ、そだ、すぐスープとか持って来てくれるか?」
焦る様に看板娘へ話をふる。
「はい。今お持ちします」
笑顔で対応する看板娘。
看板娘が個室を出て行くのを確認すると、サレイは話題を戻す。「タケル、貴女…王族だったの!?」
「違う。母さんが城に仕えてたんだよ。で、一緒に城で生活してただけ。単なる使用人!」きっぱり言い放つ。
「使用人か、なーんだ。驚かせないでよ」
吐き捨てる様に言うと酒を口に含む。
「そっちが勝手に勘違いしたんだろ?」
「だぁって、そっちが途中で言葉切るからアヤシーって思ったんじゃない」タケルはむぅっとして酒を一気に飲み干した。
「俺が王族だったら、サレイにだって何かしらの式典やパーティーで会ってる筈じゃないか?」
「ん、そう言えばそうかも」納得。
話が一段落したちょうどその時。
個室に数人入ってきた。
客ではなさそうだ。
サレイはキョトンとしている。彼女の追っ手ではないらしい。
タケルは…少々青ざめている。「タケル様ですね?」
一人が口を開く。
「確かに。俺の名はタケルだが?」
取り敢えず冷静を装う。
「国王陛下も王子もお待ちです。城へ…帰りましょう」
「!?」サレイが驚きの余り固まっている。
先程否定された事が覆された、と思っているのだろう。「国王や王子が何故俺などを待つんだ?」
何の事だかわからない、という顔をしたタケル。
「何故?タケル様はお二方が大変お気に召していらっしゃいます。そんな貴女がいなくなってしまわれたら…」
「だからさ。それがわからないって言ってるんだよ。俺は国王にも王子にも会った事ないんだけど?」嘘も方便。
いけしゃあしゃあと嘘を吐くタケル。「あ、あの…タケル・コランダム様で間違いありませんよね?」
「あ?なんだー、やっぱ人違いじゃん。俺はタケル・サファイアっての。なぁ?サレイ?」
「え!?え、えぇ!そうよ」ようやく我に返ったサレイはなんとか誤魔化しの言葉を絞り出した。
「あ、あの!申し訳ありませんが出て頂けます!?お客様へのご用なら私が承ります!」
看板娘がタケルと数人の使い達の間に割り込んで来た。
「いや、目の前にいらっしゃる方への用をわざわざ他人を介する必要はありませんので…」
あっさり断られてしまった。
中書き
担当:早刀流ちょっと更新のタイミングずれたな…
毎週水曜の更新のつもりだったのに早くも3回目にして終わった
いや、言い訳すると涼風がCGIにばかりかまけて作業が進まなかったんですね
コレ嫌味ね(笑)
で、折角だからこのサイトの日記もCGIのに変えて貰う事に!
おっと
中書きを書かねば(汗)今回は特に話は先に進んでない
ちょっとタケルがトラブってますねー
強さは相変わらずだが
何と言うか、そろそろ話がぐちゃぐちゃになってきた様な気がするなぁ(汗)
いや、今回は仕方ないんだ(言い訳か、これ?)
次回で動きがあるんで待ってて頂ければ…
本格的に話が核へ向かって動き出すのは「その5」くらいと予想している(俺は)次週こそ水曜更新を目指し執筆に勤しみます
見捨てないでくれ!(笑)