ステージアシリーズ1 『神器の器』

 

 

「お客様は明らかにお困りです。お引き取り下さい」

めげずに食いつく看板娘。

「勘違いとわかったんですもの。帰ったらよろしいのに…」

サレイは冷ややかな視線を送りつつ冷たく言い放った。

「気が削がれた…。看板娘さん、部屋の方へお茶とパンでも持ってきてくれないか?」
「あ、はい!すぐにお持ちします。お部屋へどうぞ」
「お待ち下さい!!」

その言葉が耳に入っていないかの様に無言で個室を出る二人。
部屋へ戻るべく階段を登るタケルとサレイ。
追っ手数人はそのまま二人を追おうと付いてくる。

「宿泊客以外の方が2階へあがるのはお断りさせて頂いております」

店主が追っ手達へ声をかける。

「しかし彼女は…!」

言葉は続かなかった。
何故ならば、その追っ手は気絶していたのだ。

「主人、娘。下がっててくれ」

いつの間にか、獣の様な鋭い目つきをしたタケルが階下にいた。

「はあぁっ」

気合いと共に追っ手は倒れていく。
タケルは全員気絶したのを確かめると、宿の外へ乱暴に放り出す。

「ったく。二度と来んな!」

おまけで足蹴を食らわす。

「勘違いとは言え騒がせたな」

呆然とする店主と看板娘に向かって詫びを入れる。

「タケル…今、何したの?」

よく見えなかったらしく、サレイは問い掛ける。

「何って…回し蹴り。得意技ってつい出てくるんだよな〜」

カラカラと笑うタケル。

「そう言えば私の追っ手も回し蹴りで倒されてた奴いたわね…」

 

 

 

翌朝−

サレイが鏡台で髪をまとめている。
昨日までとは違う雰囲気にしている様だ。
追っ手対策と思われる。
一方タケルは…まだ布団にくるまっていた。
一向に目を覚ます気配もなく爆睡している。

「いつまで寝てるつもりかしら…」

呆れ気味のサレイ。

コンコン

ノックだ。

「何よ、こんなに朝早くに…はーい?」

ガチャ

顔を覗かせたのは看板娘だった。

「あのぅ…昨日の方々が宿の入り口で待ち伏せをしている様なんですが…」

懲りない追っ手がまた来たらしい。

「なんですって?」

至極嫌そうな顔をしてみせると窓から入り口の方を見下ろす。

「本当だわ…」
「宿の外にいる以上、私達ではどうしようもないんです。お客様方が出て行くまで去るつもりもないでしょうし…」
「ちょっと!タケル起きてよ」

取り敢えずタケルを乱暴に揺すって起こす。

「あぁ?」

凶悪な顔。
寝起きが悪いらしい。

「ちょ…ちょっと、また追っ手来てるわよ」

思わず引き気味になってしまった。

「追っ手……またか?」

独り言の様に言うと即着替えを始める。

「何か良い案あるの?」

サレイの問い掛け。
しかしタケルは黙ったまま。
黙々と着替えている。
上着に袖を通し、髪をまとめた。

「裏口には張ってたのか?」

支度が済むと突然振り返りそう聞く。

「え、あ…いえ、確かいなかったかと…」

看板娘は答える。

「じゃあ裏から出て行こう。もし追っ手達が出て来ないのを不審に思えば主人かアンタに何か聞いて来る筈。そしたら昨夜のうちに出て行った事にして欲しい」
「成程。夜のうちに出た事にすれば既に遠くまで行ったと錯覚させられるわね」

タケルはニッっと笑って見せる。

「あ、じゃあ私、父に伝えて来ます」
「あぁ、頼んだ。それと…」

ふと思い付いた様に付け足す。

「はい、何でしょう?」
「誰でもいい。この辺の地理に詳しい者を一人案内に使いたい」
「わかりました」

頷くと看板娘はパタパタと足音をたてて階下へ降りて行く。

「って事は荷造りしなきゃだわ」

サレイがハッっとしてそれに取り掛かる。

「あんま大荷物にするなよォ?」

そう言いつつ窓から追っ手達を見下ろす。

「…どう見ても城の追っ手、だよなァ」

サレイに聞こえない様な小さな声でポツリと漏らす。

「ねぇ、ちょっと。タケル荷物は?」
「え?コレ」

小さな包みをひょいと持ち上げて見せる。

「えぇ!?それだけ〜?」

開いた口が塞がらない状態。
貴族のお嬢様から見れば当然…なのだろう。

コンコン

「どぞ〜」
「支度は済んでますか?」
「あぁ、大丈夫」
「あら?もしかして貴女が案内に付いてくれるの?」
「はい。私、オカミと申します」

そう言うと深くお辞儀する。
職業柄だろうか。

「俺はタケル、こっちはサレイ。宜しくな」

大通り−

「ねぇ、こんな目立つトコ歩いてて大丈夫なの?」
「大丈夫、だいじょぉーぶっ」

お気楽に答えるタケル。

「ところで…何処へ向かいます?」
「国境まで案内してくれれば良いよ」
「国境越えるの?」

よっぽど大事に育てられてきたのだろう。
あまり遠出をした事がない様に見受けられる。
瞳はキラッキラに輝いている、これでもかと…。

「この町はトリビュートとの国境に1番近いトコですけど…あの国へ行かれるなんて珍しいですね」

看板娘オカミは不思議そうにしている。

「プラドから国境越えると言ったら反対側のコラードってのが一般的だからねー」
「裏をかくって事?」
「そんなトコ♪」

楽しそうにそう言ったタケルが不意に足を止める。

「タケル?」

タケルは聞き慣れない言葉で誰かに声をかける様に叫んだ。

「え…な、何!?」

サレイとオカミは面食らっている。
誰かが走り寄って来た。
背の低い…少年だろうか?
頭には大きな三角のものが飛び出している。

「あれ、耳…?」

サレイが聞く。
足の横から顔を出しているのは尻尾だ。
タケルが王城で話していた獣人の少年。
そう、一行の目的地トリビュートの王子らしい少年だ。

「タイミング良いな。これからそっちへ行こうと思っていたんだ」

タケルは親しげに話し出す。

「本当?じゃあ俺がエスコートしていーんだね」

幼い笑顔を向けるトリビュートの王子。

「あのぅ、タケルさん?」
「あ、コイツはトリビュートの獣人族の者なんだ」
「俺はターセル。タケル様のご友人方?」
「えぇ、まぁ。私はサレイ。こちらはオカミと言うの」

ターセルの無邪気な笑顔についつられ笑顔を返すサレイ。

「そうそう。オカミ、"タケルさん"はやめて欲しいんだけど…タケルでいい」
「お客様を呼び捨てにするわけにはいきませんよ」

キッパリ断られる。

「客ぅ?私聞いちゃったけどね」

意地悪そうな顔をしたサレイ。

「聞い…え、えぇ!?」

急に焦り出すオカミ。非常に怪しい。
何か心当たりがある様だ。

「白状なさい?」

自白を促すサレイはタケルの様にニヤリと笑う。

「う…父さんには家を出るって言ってきたの」

オカミは小さな声でボソボソと告げる。

「俺達と、か?」

オカミはただ頷く。

「ふん。じゃあ仲間だね、呼び捨て決定!」

本家本元タケルのニヤリ笑い。

「晴れて仲間と認められたトコロで、改めて自己紹介するわ。私はサレイ・クリスタル。貴族出身よ」
「俺はタケル・サファイア。しがない一般市民」
「あたしはオカミ・カラットよ。知っての通り宿屋を経営する家の娘」
「そう言えば…オカミの格好、ちょっと冒険には向かないな?」

タケルは小さな荷物から上着を引っ張り出す。

「これ、着ろよ。一応魔法の品だからある程度の防御にもなる」
「いいの?鎧とかなかったから助かる〜」
「お二人はどんな技能を修得しているの?」

耳を真っ直ぐに立てたターセルが問い掛ける。

「私は…セージレベルはそこそこ、かな。冒険に役立ちそうな技能はこれといってないわ」

肩をすくめてサレイ。

「あたしも冒険の役には立ちそうもない。レンジャーレベル2ってトコ」
「レンジャーか…サレイよりは使えるな」
「ごめんね?使えなくて!」

そう言ってタケルの両頬をつねる。

「いひゃい、いひゃい〜」

戯れているだけの様だ…。

「タケルは?」
「強いわよ、タケルは」
「親が冒険者だったからな。必然的に覚えたって感じだよ」
「で?何の技能なの?」
「ファイター、ソーサラー、セージ、シーフ…そんなトコか」

指折り数えるタケル。
どうやら王城では学問より剣や魔法の修行にばかり精を出していたと見られる。

 

 

 


 

中書き
担当:涼風

宿屋の看板娘「オカミ」が仲間入りしました〜
最初に登場した獣人の少年「ターセル王子」が再登場
やっと名前出してあげられた…
早刀流の予想通りになりそうですね
次回辺りから本格的に物語が動き出しそうな気配です
これでやっと話の核心に触れられるわ〜(ニヤ)
これから登場するキャラも多いケド
取り敢えず主人公3人は揃った
ステータス表とか作ろうかなぁ