ステージアシリーズ1 『神器の器』
「魔法が使えるんだー?」
「ま、せっかく学べる環境に住んでたからな。夢中になって覚えたよ。魔法も剣も」そう言うタケルを尊敬の眼差しで見るオカミ。
「ねぇ、これから向かうトリビュートってどんな国なの?」
初めての遠出に浮き足立つサレイ。
「トリビュートは獣人達が治める国でプラド王国ととても仲の良い国なの」
オカミがさらさらっと答える。
まるで言い慣れた台詞の様に。「へぇ。その獣人の一人がターセルくんなのね?」
「ええ、そうです。俺は純系ですが国には鳥系と狐系の者もいますよ」
「じゅんけい??」首を傾げるサレイにタケルが答える。
「人間で言う人種みたいな違いだよ。
鳥系は翼を持っていて自由に空を駆る事が出来、狐系は大地を愛する俊足の種族なんだよ。
純系は個人差が激しくて一定の特徴はないんだけどね」
「詳しいのねぇ」意外だという顔をして見せてサレイが言う。
「タケル様と俺は幼い時からの付き合いがあるからね。トリビュートにも何度か来た事あったし」
「ふぅん…。で、ターセルくんは何でタケルを様付けで呼ぶの?」聞くタイミングを待っていたかの様に気持ち早口で問う。
その顔は好奇心に満ちている。
タケルは思わず冷ややかでもあり、無表情でもある微妙な顔をさせている。
今にも引きつりそうだ。「さぁ、行こう」
他には何も言わずに一人歩き出す。
「あっ、ちょっと!答えなさいよ〜」
「タケルが聞かれたくない様な理由でもあるの?」オカミはターセルに問う。
ターセルはにっこりと笑いを浮かべると無言でタケルの後について歩き出して行く。「あ…逃げられちゃったわ」
オカミは苦笑している。
その隣でサレイは歯をキリキリ言わせている。「タケル様、言ってないよ?一応伝えておくけど。俺まだ死にたくないしvv」
先に歩き出したタケルに追いついたターセルは言い訳を述べる。
語尾の可愛らしさが何とも言えないvv(爆)「当たり前だよ。俺だってお前の戯言程度にしか思ってないのに…サレイが聞いたら笑われるのがオチさ」
「あ、ちょっと非道い言い方だね。俺ちょっと切ないよ」両手を胸に当てて項垂れて見せる。
空に向かって伸びていた耳まで横に向いている。「止めろよ…」
苦い顔でタケル。
「置いて行かないでよ〜?」
小走りでサレイとオカミがやって来る。
「ところで…追っ手の方々は来てないよね?」
オカミはキョロキョロと辺りを見渡している。
「追っ手?追われてるの?」
「あ、ターセルくんは知らなかったよね。タケルが追われてるの」
「タケル様が?」
「そ、城からの追っ手が来ててさ。かわして来たトコ。兵達じゃないから人の捜索や追うのは不得意なんだぁね」ニヤリ。
「城から?…まぁ、この先に二人程連れて来てるから容易に振り切れると思うよ」
お気楽そうに答える幼い笑みの王子。
国境近くの桟橋−
「いたいた。あそこにいる二人が俺の連れだよ」
小一時間程歩いた一行はプラドとトリビュートの国境付近へやって来ていた。
「翼が生えてるわ!あれが鳥系の獣人ね?」
賢者の端くれらしく興味深そうにしているサレイ。
「さっさと国境を越えよう」
タケルが低い声で囁く。
「え?」
オカミがタケルのいる後方を振り向く。
「!」
その視界に入ったのは馬で駆けて来る3人の男達。
服装からして城の者だろう。「何時気付いたの!?」
「つい今しがただ」そう吐き捨てると引いていた愛馬に跨る。
「サレイさん、オカミさん、彼らに掴まって下さい」
ターセル王子が二人の連れを示す。
翼の生えた鳥系獣人の少女とフサフサのしっぽを生やした狐系獣人の少年だ。
少年は黙ってオカミを抱き上げる。「わっ、な、何!?」
儚い笑みを浮かべている少女はサレイの手を取った。
「えーと…?」
「ご紹介している暇なんてないみたいだね。お二人はじっとしてて下さればいいから」そう言うターセルは連れ二人に預けていた馬に跨っている。
「とにかくトリビュートに入るまで大人しくしててくれよ?あいつらは国境を越えられない筈だからな」
吐き捨てる様に言うとタケルは愛馬に脚を入れる。
愛馬は素早く反応し走り出した。
それに続いてターセルの馬も走り出す。
更にサレイの手を取った少女が空から、オカミを抱きかかえた少年が走って追う。
タケルとターセルの巧みな手綱さばきに追っ手はついて来れず、その姿は遠ざかるばかりだ。
追っ手が豆粒程の大きさになった頃。「じゃあな!」
タケルが加速する馬上から片手を挙げて見せたと思ったら、横道へ逸れて行ってしまう。
「気を付けてね!お二人も!」
ターセルも反対側の横道へ行ってしまう。
「な、何!?何処へ行くの、二人とも!」
サレイが慌てる。
オカミは何も言えず口をぱくぱくさせている。「舌を噛んでしまいます。喋らずに」
少女が小さいが良く通る声で注意する。
その次の瞬間には空高く舞い上がっていた。
オカミと少年だけが真っ直ぐに突き進んで行く。
俊足とは言っていたが尋常ではない速さだ。
「久々だな…道忘れたかもー…」
馬を高速で走らせたまま独り言を漏らす。
しかし道を忘れたでは済まされない…(汗)
それでも速度を落とそうともせずに森の中を走り抜けて行く。
その時。
突然灰色の影が目前に躍り出て来た。
タケルは動じる事なく馬を止める。
ここまで来た以上追っ手でない事は確かだ。「いってぇー…」
飛び出して来たのは芦毛の馬とその馬に跨っていたと思われる男。
男は馬上から放り出され転がっている。
タケルは用心しつつも下馬し男に近寄る。「オイ」
見下ろす様にして冷たい視線を投げかける。
「あー大丈夫、大丈夫!俺丈夫だからさ〜」
男は片手をひらひらさせながらタケルに言う。
「そんな事は聞いていない」
冷たくあしらうタケル。
「あら?冷たいねぇ」
ふざけた口調で言うと立ち上がる。
「お前、回復魔法は使えるか?」
タケルは男を見ずに話しかけた。
「回復?いや、使えないな。どっか怪我?あー…薬草持って来てないんだよなぁ。町まで遠いし」
「そうか」悲しげに吐き捨てると愛剣に手をかける。
それに気付いた男は後ろ手に隠していた短刀に手をやる。
タケルは変わらず男には見向きもしない。
男はその様子をいぶかしんでいる様だ。
タケルは剣を鞘から引き抜き、地を蹴った。
ふわりと宙に舞う。
赤い髪をなびかせ着地と共に灰色の影の主であった芦毛の馬に斬り付けた。「!?」
男は驚きの余り呆然と立ち尽くしている。
タケルの剣線は寸分の狂いもなく芦毛馬の心臓を貫いていた。
ゆっくりと剣を引き抜く。
タケルは男に背を向け、ただ馬を見下ろしている。
血の滴る剣がするりとタケルの手から離れた。
その剣を拾おうともしないタケル。「…何のつもりだ?」
地に落ちた剣の乾いた音で正気を取り戻したらしい男。
「……」
タケルは答えない。
ようやく剣を拾うと顔を背けて愛馬の近くに戻る。
男は芦毛馬に目をやる。
心臓からあふれ出す血、そして…。「!?」
無惨にも脚が本来あり得ぬ方向に折れていたのだ。
「…そういう事か。悪かったな」
納得した様子の男。
完全に折れてしまった馬の脚を治す術がない。
だからこそタケルは馬を苦しませぬ為に殺したのだ。
タケルは何も言わずに愛馬の首に顔を埋めている。「ん?アンタ女か!?あんまり勇ましいからてっきり男かと…」
男はそこで言葉を止めた。
タケルが涙の筋の残る顔で振り向いたからだ。「!?」
男はぎょっとしている。
タケルははらはらと泣くばかりだ。
愛馬は涙を拭う様に頬をすり寄せる。「あ、あの…?俺なんか悪い事したか?」
思わず聞いてしまう。
「俺…回復魔法……」
声を詰まらせながらしゃべり出す。
「うん?回復魔法が?」
男は聞いてやるしかない状況だ。
「使えないんだ……」
「へ??」かっくりと力の抜ける男。
緑色に輝く瞳は血の気が失せてゆく馬を見詰めている。「あぁ、回復魔法が使えれば馬を助けてやれたって事か」
全て納得出来た男。
「仕方なかったんだよ」
そう言い、男はタケルを抱き寄せようと背に腕を回す。
ガツンッ
「ぐへっ」
男はよろけている。
剣の柄で顎を突かれたらしい。「何のマネだ?」
タケルが睨み付けている。
「な、なんのって…女の子が泣いてたらさー…」
「余計なお世話だ!」隣にいる栗毛馬までもが耳を伏せて怒りの表情だ。
中書き
担当:早刀流あれ?
おかしい…話が核に向かうまで至らなかった
まぁ、予定外に「男」が登場したからな
もう少し先で登場予定だったキャラなんだが、ここで登場させる事に
お約束な気もするが、やはり名前が出てこなかった
次回で出すか出さないかすら未定だったりするが…
今後重要なキャラでもあるんで覚えてやってくれると嬉しいです
しかし…
不甲斐ないぞ!男!
抱き締めようとして反撃を食らうなど!
涼風…ちょっとタケルの強さにある意味問題がある様に思えて来たんだが?
俺だけか?
いや、タケルにもう少し女らしさがあっても…むにゃむにゃ
(↑涼風に殺されそうだから断言はしない、俺も不甲斐ない人間の一人だ(笑))