ステージアシリーズ1 『神器の器』
「こんな所で余計な時間を食ったな…行こう」
栗毛の愛馬に優しく微笑むと優雅な身のこなしでまたがった。
「あ…なんかズルイなぁ」
男が一言。
タケルは鋭い視線を送る。「俺には無愛想なのに馬には可愛い顔してさー」
不満そうな表情で男が言う。
「かっ…!」
タケルはかぁっと赤くなった。
怒り…ではない様だ。「あれ〜?」
男が面白そうに馬上のタケルを見上げる。
「いちいち腹立たしい奴だな!」
「そう怒るなよ。お前名は?」
「此処は何処だ?」
「な・ま・え!」
「此処は何処だ!!」
「ったく。なんでイキナリ場所の話になんだよ…迷子ちゃん?」タケルは思わずむっとした顔を見せる。
迷子じゃない!と反論しようとしたがそうとも言い切れない事に気付きやめた。「俺はトリビュートのターセル王子の客だ。トリビュートに向かっている」
不本意ではあったがそれだけ伝える事にした。
「ターセ殿下の?へぇ…残念だけどだいぶ道間違えたみたいだね。此処はアクシスの領地だ」
「アクシス!?やっぱり道を逸れていたか…しかしアクシスとは」難しい顔をするタケル。
アクシス、正式名称はアクシス魔国。
魔族が治める魔族達の王国だ。
この国への無断侵入は少々やっかいだ。
侵入者には容赦なく攻撃を仕掛けて来る事が圧倒的に多い上に攻撃力が破格なのだ。「まぁ…髪の色で誤魔化せるか」
お気楽に結論を導き出した。
「誤魔化せる?お前魔族の血を受け継いだ者じゃなかったのか?」
タケルは無言で剣に手を添える。
警戒の意志だ。「あ、俺は別にお前が侵入者でも攻撃なんかしないって。気に入ったからな〜」
眉間にしわを寄せて剣先を男に向ける。
「ま、他の奴等に見付かったら厄介だしな。トリビュートはあっちだ。もう迷うなよ?」
悪戯っぽく笑ってみせる。
それを聞いたタケルは剣を鞘に納める。「…礼を言う。もう会う事もないだろうしな」
それだけ言うと颯爽と馬を走らせた。
「会う事もない…ね。どうかな〜」
小さくなってゆくタケルの姿を見送りながら男は小さく漏らした。
「ねぇ、ターセル君。タケルは一体何処へ行ったの?」
「うーん…此処に向かってる筈なんだけどー…。久々だったから迷ったのかも」
「え…迷ったって、タケル森の中に入って行ったのに大丈夫なの?」いつまでたってもやって来ないタケルに苛つきを感じているサレイ。
それとは違い心配の表情を浮かべているオカミ。
そして平静の表情のターセル王子。「遅くとも明日までには来ると思うよ。お二人はゆっくり休んで」
そう言うとターセルは立ち上がった。
「何処か行くの?」
サレイが訊ねる。
「あ、うん。家族に帰った事とお客様が来た事を伝えて来るだけ。何か用があればあの二人に言いつけてくれればいいから」
そう言って例の鳥少女と狐少年を示す。
「わかったわ」
そのサレイの返事にニッコリ笑いかけるとターセルは出て行った。
森の中を走り抜けるタケルと愛馬。
タケルは真っ直ぐ前を見ている様だが視界のすみにも注意を払っている。(アイツ…じゃないな。殺気がすげぇし、魔族に見付かったと考えるべきか…)
気付かない振りをしてなおも走り続ける。
しかし警戒は解いていない。(髪の色だけでは誤魔化せなかったか…でも相手も迷ってるみたいだしな)
そろそろアクシスの領地からトリビュートの領地に入る。
その時だった。
一気に殺気の正体である人影が正面に飛び出してきた。「やっと来たか」
タケルが小声で漏らす。
耳の良い魔族は聞き逃さなかった様だ。「やっと?気付いてたとでも言うのか?」
「ふん。殺気を押さえずに追いかけてたんだ、お前も気付かれてなかったとは思ってなかったんだろう?」ニヤリと邪悪な笑みを見せるタケル。
「随分余裕だな。オレは魔族、貴様の様な人間の娘がかなう相手ではないぞ?」
「ほう、弱いと思っている相手を打ちのめすと?」
「領地に入った貴様の非だ。境界線の守人として不審者を消すのが使命だからな。女子供であろうと容赦はしない」
「ふ…容赦されちゃつまらねぇ」戦闘態勢に入るタケル。
プラドから離れつつある為に強い魔法は使えない。
否、下手に使う事は出来ない。
純粋に剣での勝負になりそうだ。相手も剣を構えている。
タケルは馬から軽やかに下りた。
女とは思えぬ怪力で大きな剣をさも軽そうに片手で持ち構えた。
その時相手の魔族の顔色がサッと変わったのをタケルは見逃さなかった。
自分は剣を持ち構えただけ…何に顔色を変えたのか?
だがそれは隙でもあった。気にはなったが取り敢えず攻撃に出た。
間合いを詰め一気に斬りかかる。
相手は辛うじて剣で受け流す。
二人はほぼ同時に後ろに飛び、再び間合いが広がった。
さっさと片付けたいタケルは持ち前の跳躍力で高く飛び上がり力一杯斬り付けた。「ぐぅっ…」
脇腹を押さえ崩れ落ちる魔族。
ただ斬り付けられただけではなく、剣を引き抜く際に思い切りえぐられていたらしく大きく口を開けた傷口は捲れ上がっている。
それだけの痛手を受けていても魔族は剣を放さない。「もう終わりか?」
冷たい笑いを浮かべて足下に転がる魔族を見下ろすタケル。
「く…始めから言え……魔族の…血をう…けつい…で…いるならば」
魔族は地に伏したままそう言った。
「魔族の血を受け継いでいる?」
キョトンとするタケル。
「その赤い髪といい、太刀筋といい魔族の特徴だらけだ。赤い髪だけでは判別出来ない、だがその戦い方は間違いなく…魔族のもの」
追いかけて来ていたらしい。
その声の主はさっき出会った男だった。「お前かよ」
物凄く嫌そうな顔のタケル。
「にしても…境界線の守人を倒すとは。驚異の強さだな」
男は素直に驚いている。
「お前の仲間だろ、魔族は。このまま放っておけば確実に死ぬが?」
「意識あるし大丈夫だろ。守人なら薬草なり回復道具は所持してるはずだし〜」
「魔族は仲間意識が強いんじゃなかったのか?」書物で読んだ限りではその筈だった。
思わず首を傾げる。「あ〜、俺は違うね。他の奴等は結束強いけどさ」
「要するに単なる変わり者か…或いははみ出し者ってトコか」吐き捨てると馬に跨り即歩き出す。
「うわっ、冷たいな〜。もう会わないだろうと思ってた相手と会えたんだぜ?もう少し喜ぶモンじゃない〜?」
「お前と再会しても得もなさそうだしな…喜ぶ必要はない」振り向きもせずに言い残し加速して行ってしまう。
「行っちまったよ、俺の名前くらい聞いてくれてもいいモンなのにさ。ったく〜つれないよなぁ、お姫サマは〜」
男は独り言をもらしながらタケルの行った方向に背を向け歩き出した。
『これは…』
『御主も感じたか、この気配は我等の待ち望んでいた者』
『………』
『御主は相変わらず何が起こっても顔色を変えぬのだな』
『…ここで色めき立っても仕方あるまい。あれが手中に転がり込むかはまだ分からぬ』
翌朝−
「ん…」
天窓から差し込む光に目を覚ますサレイ。
まだ時間は早いが日は完全に昇っている様だ。(結局昨日はタケル来なかったなぁ)
そんな事を思いながらもぞもぞと寝返りを打つ。
「!?」
その視界には…タケルの姿がうつっていた。
すぐ隣にはオカミが、そしてその向こうにタケルが寝ているのだ。ばっちーん!
「いだっ!」
タケルが文字通り飛び起きると額を押さえ床をゴロゴロと転がった。
タケルの枕元には寝間着姿のサレイ。
平手で額を打ったらしい。「な、なんだよぅ」
「アンタいつの間に来たのよ!?」
「二人が床についたっていう直後。飯だけ食って寝た」
「あれぇ?タケル〜来てたんだぁ。おはよ」寝ぼけ気味のオカミ。
「おはよう」
「まぁいいわ。朝から驚かされてすっかり目が覚めたわ」
「あー堅苦しい生活と決別出来たと思うと嬉しいわ〜♪」
よく晴れた空を見上げながらサレイ。
「え〜?私は貴族のお姫様してた方が絶対楽だと思うけどなぁ。何もしなくていーんだもん」
オカミはそう反論する。
「何言うのよぉ。形式に囚われた生活なんて息苦しいだけよ!挙げ句、結婚相手まで勝手に決められちゃあ…やってらんないわよー!」
「ははぁ、それがサレイの家出の原因か」タケルがニヤリと笑いながら突っ込む。
「そうなのよ!お父様ったら私の気持ちも無視してっ」
「相手に不満があったの?貴族の素敵な婚約者なんて夢みたいなのにな〜。庶民の思いこみかしら?」
「思いこみも甚だしいわよ!?素敵どころか位の高い人ってほっとんど腐った豚ね!」
「金に物言わせて生活してるからだろうな。ぶよぶよと肥えてんだろ?」
「そうそう、そうなのよ!あ、でもプラド王国の王族はレベル高いわよね〜。どうせならそっちから話きてくれれば良かったのに」サレイは悔しそうな表情をしてみせる。
「体質だな、太らない家系らしいね。国王もアレクも痩せてる方だし」
思い出した様にタケルが言う。
「国王と王子にも会った事あったの!?」
「えぇ!?何?どういう事??」事情を知らされてなかったオカミは二人を見比べている。
その瞳は説明を求めている様だ。
中書き
担当:涼風あぁタケル可愛い☆(本当??)
可愛いって何気なく言われただけで赤くなっちゃうんだからね〜
タケルの伏線がまたひとつ出てきたね
しかし本人「男」に腹立ててスッカリ忘れてる模様
真相やいかに!?
で、「男」の名前は今回も出てこなかった〜
てか、出さなかったんだけど…
別に名前が決まってないワケじゃないよ?
宝石の名前から取った名前がちゃ〜んとあります
って、皆宝石の名前ばっかだけど(笑)
あとは車の名前トカ〜(語呂が良いから)タケルの強さもまた強調されてるね
魔族の「境界線の守人」は魔族の中から選び抜かれた最強戦士隊と思って下さい
国境付近に配置されてる戦士さん
ま、タケルが倒した人はタケルの正体に気付いて驚きの余り隙だらけだったから…
倒すのは容易だった筈
でも相手に隙がなくてもタケルなら十二分に渡り合っていただろうなぁ