ステージアシリーズ1 『神器の器』

 

 

「あ…」

タケルとサレイは思わず顔を見合わせた。

「サレイは知ってるのね?」

詰め寄るオカミ。

「タケル、自分でしがない一般市民って言ってたじゃない。貴族だったの?それとも王族?」

早口でまくしたてる。

「一般市民だよ俺は。ただ王城で生活してただけだ」

溜息を吐きつつ答えるタケル。

「どういう意味?なんで王城で生活なんて…」

オカミは理解できずに首を傾げている。
タケルはまた一つ溜息を漏らす。

「俺の母が王城で働いてたんだよ。それだけ!」
「でも、王城で生活してたならそれなりの教育も受けさせられたんじゃない?」
「ま、な。おかげで魔法や剣の修行も思うがままさ」

ニヤリと笑う。

「そっか、それであんなに強いのね。何となく納得」
「王族に仕える剣や魔法の指導者に教わるんですものね。当然だわ」

そう話が一段落したところにもう一方の王子、ターセルがやって来た。

「皆さんお早う御座います。良く眠れました?」
「えぇ、お陰様で。目覚めも良かったしね…」

チラリと横目でタケルを睨んでみせるサレイ。

「朝食はどうする?何かご希望あれば聞くよ?」
「私は果物かサラダが欲しいわ」
「ん〜、出来ればパンとかが食べたいな」
「俺はいつも通りね」
「わかった。風鳥、用意を」

ターセルは後ろに控えていた鳥系の少女に命ずる。
少女は何も言わず頭を下げると元来た道を引き返して行く。

「あの子って昨日私を連れて空飛んだ獣人よね?」

サレイは聞く。

「そうだよ、彼女は俺の専属の召使いってトコかな。名前は風鳥(かとり)」
「相変わらず大人しいな」

小さくなってゆく風鳥の姿を眺めながらタケルがもらす。

「タケルは以前にも会った事あるの?」

オカミが問う。

「あぁ、風鳥がターセルの配下に付いた時から知ってる」
「ついでだからコッチも紹介するね」

ターセルはもう一人の召使いである狐系の少年に視線を向ける。

「ついで…」

少年がポツリ。

「こっちも相変わらずだな…。中途半端なツッコミは健在か」
「そうなんだよ、ちゃんと突っ込むか突っ込まないかどっちかにして欲しいんだけどね。ま、それはともかく、彼の名は楼狐(ろうこ)」

紹介されると楼狐はペコリと軽く頭を下げた。

 

 

 

朝食を取り終えた三人は涼しい木陰で休んでいる。

「ねぇ、何時までこの国にお世話になってるつもり?」

と、サレイ。

「そうだね。私達がこの国へ入国したのは向こうもわかってる筈だし」

オカミが困り顔で返す。

「そうでもないだろ?」

深刻そうな二人をあっけらかんとした顔で見ているのはタケル。

「なんでよ?」

サレイは思わず眉間にしわを寄せて聞き返した。

「この辺りは小さな国がたくさん密集してるんだよ。俺がどの国に入ったのか判明するまでまだまだ時間はある筈。そう焦る事もないさ」

寝転んでくつろいでいるタケルはだらだらと答える。

「まだまだ…って、細かく言うとどれくらい?」
「そうだなぁ、余裕で1ヶ月は安泰に暮らせるんじゃないかな〜。周りに俺がトリビュート王族と繋がりある事知ってる奴一人しかいないしィ」
「プラドだけじゃなくてこの国の王族とも付き合いがあるの!?」

サレイは驚き、甲高い声をあげた。

「あ?二人も会っただろ?ターセルだよ、ターセル!」
「えぇ!?ターセル君って王族なの??」

オカミも驚いて声を上げる。

「…言わなかったっけ?」

冷や汗をたらしつつタケルは二人を見る。

「聞いてない!」

二人は声を揃えて言い放つ。

「トリビュート王国第一王子、ターセ・ル=マルク。ちゃんと自己紹介してなかったね」

三人が振り返ると、そこには王族の正装を纏ったターセルが立っていた。

「あ、ターセル君…あっ、じゃなくてっ、ターセル王子!」

慌てて言い直すサレイ。

「今まで通りで構わないよ。この国では王族が特別偉いわけではないから」

変わらぬ幼い笑顔で返すターセル王子。

「えっとぉ…遠慮無く今まで通りにさせて貰うね。で、その正装はどうしたの?やっぱりお国ではいつもその格好?」

オカミは始めに一言断りを入れてから問う。

「まさか。正装を纏うなんて久し振りだよ。まぁ…皆さんを神殿にご案内しようと思って」
「神殿!?彼処は王族や神官以外踏み込めない聖域だろ?なんでそんなトコに…」

だらけていたタケルは驚いて飛び起きた。

「うん…昨日の深夜から神殿に安置されてる宝玉が何かに反応してるんだよね…。何に対しての反応なのかよくわかってないんだけど、恐らく…」
「巫女か…?」

ターセルは真剣な眼差しでただ頷く。
タケルの瞳は驚きで大きく見開かれている。

「よく事情が飲み込めないけど、それって一大事なの?」

サレイは二人の様子を窺いながらそっと声をかける。
オカミも深刻そうな雰囲気に落ち着けずソワソワしている様だ。

「タケル様はともかく、お二人にはまだ詳しい説明は出来ないんだけど…ちょっと付き合って貰えるかな?」

申し訳なさそうにしているターセル。

「取り敢えず先にこの国の全ての女性を神殿に集めて調べてるから。それで見付からなければ三人にも協力して貰う事になる」

タケルに向けての一言。

「わかった。まぁ、今日中ってワケじゃないよな。国の女衆を調べるだけでもしばらくかかるんだろ?」
「うん、それまでは好きに過ごしてくれて全然構わないよ」

にっこり微笑むと、まだ仕事があるから…と残して神殿へ戻って行く。

「なんか重大な事に巻き込まれる寸前なの?私達」
「もう巻き込まれてると思った方が良いと思うな…」
「タケルは何か知ってるみたいだね。聞いちゃマズイ事?」

瞳の奥に微かな好奇心を宿したオカミ。

「…マズイ、かも。ま、俺達が関わる事になったらターセルが説明するだろうよ」

そう吐き捨てると再びごろりと転がってだらけ始める。

「この状態だと私達がこの国に滞在してる事を嗅ぎ付けられたら身動き取れないわね」

思い付いた様にサレイ。

「あ…そうだね。何か対応策を練っておかないと駄目かも」
「あんま考え込む必要ないって。万が一の場合はターセルが助けてくれるからな。
アイツは次期国王だから、一言"そんな入国者はいない"って言えば追っ手も退散せざるを得ない」

意味なく草をむしり、千切りながらタケルは言う。

「そっか。そうだわ、心配ないんじゃない。一瞬焦っちゃったわ」
「そうだったね。思い付かなかった、私」

二人は安堵の表情で微笑んでいる。
そして次の瞬間…

「次期国王!?」

声を揃えて叫んだ。

「言わなかったっけ??」

キョトンとしているタケル。

「聞いてないわよ!」
「さっきと同じ事やってるわ…」

オカミはただ脱力している。

「第一王子って聞いた時点でわかる事だろうにィ」

タケルは眉間にしわを寄せつつ愚痴る様に呟く。

「あー…でも、国王の位に就くのってまだ先の話よねぇ? はは…」

気を取り直したオカミは言う。
サレイはそれに無言で頷いている。

「あぁ…そうでもないけどね」

あっさり切り捨てるタケル。

「嘘でしょおっ!?」

サレイは絶叫している。オカミも再起不能らしい。
二人はただ固まっていた。

(庶民の反応って面白いんだよなぁ…

タケルは満面の笑みだ。相当楽しんでいる。

「ターセル達は遅くに出来た子供だったからな。既に現国王も老齢だし。近々退位するのでは?って話もちらほら聞くよ」

千切った草をばらまきながらタケルは言った。

「でもさぁ…ターセル君くらいの年齢で国王って大丈夫なのかしら?」

ふと思い付いたらしい。サレイはタケルを見ている。

「は??」

その問いにタケルは眉間にしわを寄せた。

「え?」

思いも寄らぬ反応にサレイまで眉間にしわを寄せてしまう。

「サレイ…お前確か賢者として勉強してた筈だよな?」

何故かそんな事を確認してくるタケル。

「そうよ?あんまり真面目にはやってなかったけど…ソコソコの知識は持ってると思うわ」
「サレイの言うソコソコの知識とやらがどれだけのレベルかは知らんけど…獣人は総じて長命だって知らないか?」

始めにけなしつつ反論される前に質問をぶつける。

「あら、そうなの?」

初めて知ったらしい。
タケルは脱力し、草原に四肢を投げ出している。

「あ〜あ、俺とぉんでもないお嬢様を仲間にしちまったぁぁぁ〜」
「なによ〜!タケルみたくご立派な師匠がついてたワケじゃないもの。それに真面目にはやってないって言ってるじゃない!」

お嬢様はご立腹だ。

「俺、その手の勉強は誰にも教わってないんだけどね…独学だから」

嫌みったらしくボソリ。

「ま、まあまあ二人とも〜。で、結局のトコロ、ターセル君て何歳なの?」

オカミはサレイをなだめつつタケルに問う。

「27歳」

………サレイとオカミは沈黙している。
タケルはその反応を楽しむかの様ににこにこしている。
二人はぎこちない動きで顔を見合わせると…

「うそぉぉぉぉぉーっ!」

大絶叫した。

「あっはははははっ、くく…くへ」

タケルは草の上を笑いながら転がっている。
くへって何?

「あ、私達より年上じゃない!!嘘でしょう?」
「あの幼い風貌は何事!?」

二人でパニックの相乗効果を高め合っている(汗)

「おいおい、人の言った事聞いてたか?長命だって言ったんだぞ。27じゃ見た目幼くて当たり前だろ!」

それを聞いた二人はピタリと静まる。

「エルフとは違う年の取り方ね?」
「あ、確かに」

急に冷静だ…。

「あぁ、そうだな。エルフ程長命ではないけど」
「老化スピードが人間と違うのね。面白いわね」

サレイは興味深そうにしている。流石ソコソコの知識を持った賢者の卵だ(笑)

「この国にだって面白い事はいくらでも転がってるワケだ。少し国内案内しようか?」

そう言ってタケルは綺麗な姿勢で立ち上がった。

 

 

 


 

中書き
担当:早刀流

2ヶ月ぶり?の更新か!?
随分とさぼって…あ、いや、休んでたんだなぁ
とにかく小説の続きがアップできて良かった…

今回はターセル王子の正確な身分や年齢が明らかになりましたね
そんなに幼い容姿なんだろうか?
俺にもよく…(笑)
涼風!早くスキャナ買えよっ!
話自体は進展なし…ですね
この次か、更に次の回あたりでまた新たな出会いやら何やらが…
タケルの謎が少しずつはがれていく筈ですよ
お楽しみに
……とか言いつつ更新状況はさして改善される見込みナシ?
あまり頻繁には更新出来なさそうですね
こりゃ完全に見捨てられる、に1000点!(コラ)