邂逅 〜走り屋の二人〜

 

 

 

 

女走り屋、 とのバトルの翌朝。
啓介は珍しく午前からの講義を受けていた。

「ふつー平日に交流戦なんかやんねーよなー…」

今にも閉じてしまいそうな瞼をなんとか閉じまいと格闘しながらぼやく啓介。
彼女は平日の出没率が高いとの事で平日に行われたのだが、啓介にとっては迷惑極まりない。
こういう時こそサボりたかったのだが、兄はそれを許してはくれなかった。
講義の内容など片耳から入って片耳から抜けていっている状態。
啓介は大きな欠伸を一つ。
目をこすりながら前を見ればこちらを見ている教授の姿。
バッチリ目が合ってしまった。
この教授はサボリや居眠りにうるさい。

(ま、まだ寝てないぜ…あくびぐらいで睨むなよな……)

内心焦る啓介。
しかし教授は溜息を吐いて啓介に言った。

「高橋、起こしてやれ」
「は…?」

ふと隣を見てみれば机に突っ伏して堂々と寝ている女が。

(なんだ、俺じゃなくてコイツか)

ちょっとホッとしつつも女を起こす。

「オイ、起きろ。教授に睨まれてるぜ。オイ!」

最後の一声でビクッとして漸く身を起こす。

「…やば。私、寝てた?」

少し寝惚けた感じの女。
その顔を見て啓介は驚いた。

「お前…ッ」

そう、昨夜バトルしたばかりの その人だ。
は啓介を見る。

「あー、なんだ高橋クンじゃないの」

ケロリと言ってのける
同じ大学に通うのを知らなかったのは啓介だけだったらしい。

「同じ大学ならそう言えよな」

教授の方をチラリと見て、既に背を向けている事を確認してから話す。

「わざわざ言わなきゃいけない事でもないと思ったのよ。縁があれば会うでしょうし」
「そうかもしんねぇけどよ…」

啓介は不満そうに返す。
の方はついさっきまでの居眠りが嘘の様にシャキッとして講義に集中し始めている。
仕方なく話を止め、啓介も教授へ目をやった。
やがて終わる講義。
啓介は へ目を向けるが、声をかける前に数人の女に取り囲まれてしまう。

「啓介〜。ねぇ、アタシ達午後サボってカラオケ行くのー」
「あっそー」

やたらとベタベタしてくる女を押し退けながら冷たい返事。

「ナニソレ。啓介冷たー」
「ナニソレって何だよ。勝手にカラオケでもなんでも行きゃいーだろ」
「もぅ、一緒行こーって言ってんじゃん」
「行かねぇよ。俺は午後も出んだよ」
「えー、いっつもサボってんだしいーじゃん!」

女達は文句の嵐を飛ばす。

「‥悪かったな。サボってばっかでよ」
「あ… さんもどーお?」

クスクスと笑いながらの誘いの言葉。

「結構よ。無理に誘って頂かなくても」

カバンに荷物を詰め込みながら、 はクールに返した。

「それと午後の講義は休講よ、高橋クン」
「え?マジ?つーかなんで俺の取ってる講義知ってんだよ」
「私と高橋クンの取ってる講義、全て一緒なのよ。偶然にもね」

それだけ言った はカバンを肩に掛け、さっさと立ち去ってしまう。
啓介は眉間にシワを寄せる。
すぐに自分のカバンをつかんで追いかけて行く。

「ちょっと、啓介ー!?」
「誘うなら他当たれ!」

乱暴に言い残し、講堂を後にした。
走って行けば の後ろ姿が目に入る。
横に並ぶと は何故此処にいるのだろう?という顔。

「何か用なの?」
「さっきの話の続きだ。お前いつも同じ講義受けてたのにわざと俺避けてたのか?」
「別にそんな事してないけど。顔を合わせただけで私が走り屋やってるってわかる?」
「あ…そーか」

それもそうだと納得してしまう啓介。
顔を見ただけで、しかも の様な真面目そうな女性が峠に出入りしてるなどわかるわけもない。

「ふふっ。後から全てを知ったっていうのが気に食わないのね。高橋クンは」
「あー‥そうかも。走り屋やってるって言いふらしても面白い事なんかねぇよな。悪い」

啓介は言いながら照れた様に頭を掻く。

「いいえ。高橋クンって面白い人だね」
「そ、そうかぁ?あ、いや、それよりも高橋君てのやめねぇ?啓介でいい」
「そう、じゃあ啓介クン」
「…そうじゃなくてよ。啓介!君はいらねぇ」
「特に親しいわけでもないのに呼び捨てにするのは気が引けるんだけど…」

困った風な表情を見せる

「ンなもんどーだっていいだろ」

ケロッと返す啓介。

「よくない」
「お前変にガンコだな」
「余計なお世話ですよーだッ!」

ベッと舌を出して歩き出してしまう。
落ち着いた人なのかと思っていたがそうでもない様だ。
啓介が横について歩けばツンと横を向いて「ついて来ないで!」なんて言う始末。
意外と子供っぽい面も持っているらしい。

「なんだよ、面白いのは の方じゃねーかよ」

楽しげにそう言った啓介。
それを耳にした は背けていた顔を啓介に向けた。
驚いた顔で。
啓介は目をパチクリさせるしかない。
別に驚かせる様な事は何も言ってない筈だ。

「か、勝手に呼び捨てにしないでよー!」
「あぁ?なんだそりゃあ。いいだろ減るもんじゃなし」
「いやぁー、私の名前が減るーッ」
「減らねぇよ!」

わけのわからない事を言いながら走り出してしまった
啓介は笑いを堪えながら を追ってダッシュした。

 

 

 

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−2004/9/29−