交流戦 〜バトルで出会った二人〜

 

 

 

 

スキール音が響き渡る峠。
山の冷たい風を受けながら、走り屋達は今日も熱い一夜を過ごす。
そんなマイナーな部類に入るこの峠へ珍しい訪問者達の姿。
言わずとも知れた赤城レッドサンズである。
あちらこちらの峠で交流戦を申し込んでは勝利を収めているという彼らのターゲットにここが選ばれたのだ。
しかし今回ばかりは多少手間取る事になった。
この峠にチームは殆ど存在しなく、個人で走っている者が圧倒的に多かったのだ。
この峠のカラーだろうか。

「この峠の人間か?」
「ああ。あんたらレッドサンズだろ。とうとうウチの峠にも来たってワケか」

広報役の史浩はいつもの様に声を掛ける。
相手は楽しげな笑みを浮かべた。

「知ってるなら話は早いな。交流戦を申し込みたいんだが、いいか?」
「…多分いいんじゃないかな。ここじゃ面白い事あればみんな食い付くし。なぁ?」

男は隣にいた仲間に振った。

「ああ、大丈夫だろ。話は俺達で流しときゃいいしな」
「ただ一つ気になるんだけどな。チームを組んでるヤツが少ないって話なんだが…」
「信じられないだろう。それがここの面白いトコさ。別に仲が悪いワケでも個人主義の集まりってワケでもないんだけど」
「そっちが困るのはわかるぜ。バトル相手の事だろ」
「それなら決まってるも同然だ。ここで一番速いのは
アイツだからね」

男達はニヤリと笑みを交わした。
その様子からしてこの峠では一目置かれる存在であるらしい。
相手に不足はなさそうだ。
史浩は日程や時間などを伝えてからチームメイトの元へ戻って行った。

「どうだった?」
「断る理由なんかねぇだろ。どんなヤツが走るかわかったか?」

戻って来た史浩に涼介が聞く。
啓介は「走り屋がバトル断るかよ」と遮って自分の問いを投げ掛けた。

「ああ、誰に聞いても同じヤツを推してたな。名前は出てこなかったがここでは誰もが認める腕の持ち主みたいだ」
「へぇ、そりゃ楽しみだぜ」
「まぁ問題もあるみたいだが…」
「問題?」

深刻そうな顔をする史浩。

「その速いってヤツがな。どうも気まぐれなヤツらしくて、気が乗らなければバトルすら受けないって話だ」
「あぁ!?なんだそいつ!やる気あんのかよ」
「落ち着け、啓介。で?」
「走る時間もまちまちで話を伝える事も難しいって事だ。取り敢えず協力して伝えてくれると約束してくれたんだが…どうなるかはわからないな」

期待はしない方が良い、とでも言いたげに溜息を吐く史浩。

「なんだよ、面白くねぇな」
「ここの走り屋達はなんとか説得するとは言ってたけどな」
「随分親切な事だな」
「いや、どっちかって言うと下心と言った方が正しいと思うけどな。向こうもそいつのバトルが見たいって興奮してたし」
「そうか。ま、啓介の為にも受けてくれる事を祈って俺達は走り込みだ。ほら、啓介も行って来い」

涼介に促された啓介を始め、レッドサンズのメンバー達は峠に散って行った。

 

 

 

 

 

ギャラリーが立ち並ぶ峠道。
レッドサンズとこの峠の走り屋達も勢揃いしている。
そこに例の走り屋の姿は…あった。
ライトブルーのカレンに寄り添って、周りの説得に応じたらしい本人が気怠そうに立っている。

「あんたがここで一番速いってヤツか。俺は高橋啓介だ」

速いヤツと走れる、と気分良さそうに名乗った啓介。
だが相手は目深に被った帽子で顔を隠し、名乗るどころか声も発しない。
思わず顔をしかめる啓介。

「無駄だぜ。誰もそいつの名前知らねぇし、顔も見た事ねぇよ」

それに頷くこの峠の者達。
仕方なく声すら聞く事もなくバトルへ。
並べられる黄色のFDとライトブルーのカレン。
始まるカウント。
啓介がチラリと横を見れば、これからバトルだというのにキャップを被ったまま。

「チッ。こんなヤツに負けてたまるかよ!」

啓介のテンションは更に上がる。
史浩の手が振り下ろされ、二台は飛び出して行く。
パワー差なのか先行はFD。
カレンはその後ろにピッタリとついている。
時折バックミラーでカレンの様子を窺う。

「評判通りってワケか。確かに腕はいいぜ」

口の端を引き上げる啓介。
その言葉通りカレンは走り慣れているであろう峠道を滑らかに走っている。
ラインを外さず、ドリフトコントロールも綺麗なものだ。
差は広がらず、最初と変わらずFDに張り付いている。

「気持ち悪ぃぜ。全然引き離せねぇ…」

不気味に張り付いているカレン。
その車内ではいつの間にかキャップを取ってバトルに集中しているドライバーの姿。
啓介からその姿は見えないがドライバーも啓介同様、全く抜き去る隙を見せないFDに焦りを感じていた。

「さすが高橋啓介。簡単には勝たせて貰えるわけがないか…」

呻る様に呟いた。
最後のストレートで並びかけるも抜き去るには至らず、FDが車体半分抜けていた。
アクセルを抜いて自然に減速させてから停車した二台。
その間にカレンのドライバーは再びキャップを被る。
すぐに方向転換し、FDを先頭に二台は頂上へ戻って行った。
頂上ではレッドサンズとこの峠の走り屋が待っていた。
結果は既に知れ渡り、一部の走り屋達が落胆の様子を見せている。
並べる様に車を止めた二人のドライバーは車外へ出て向かい合って立つ。
暫しの沈黙の後、啓介が口を開いた。

「負けたんだから名前ぐらい言えよ」

相手は少しばかり躊躇する様な素振りを見せたが、意を決した様にゆっくりとキャップに手を伸ばした。
さらりと流れ落ちる髪。

「… よ」

僅かに頬を染めて、横を向きつつも声を出す。
その場にいた者すべてが固まった。

「「「女…だったのか!?」」」

本当に誰も知らなかったらしい。

 

 

 

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−2004/9/29−